食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

驚愕する者達

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「お、お前……リ、リクトか……?」

「う、うそぉ……」

「はぁ、あ……ああ……あ……あ……」

「ちょ……ちょっと待ちさいよ……」

 驚いた表情でうわ言のように呟く四人。
 そんなにダウスター子爵に会いたかったのか?
 いや、流石にそれは鈍感が過ぎるというものだな。
 彼女達は完全に俺の方を見ているし、これはダウスタ子爵に驚いているわけではない。
 これは俺に驚いているんだ。
 つまり! 俺の背が伸びている事に驚いてるに違いない!
 だが、そうなるのも仕方ない事だ。
 なんせ四人の中で一番背の高い少佐より俺の方が背が高いんだからな。
 これに驚かない訳がない。
 驚きのあまり声もうまく出ないようだし、ここは俺から挨拶しよう。

「お久しぶりです。二年ぶりね。皆さんお元気そうで何よりです」

「ちょ、ちょっと待て! お、お前は本当にリクトなのか? だって、お前……」

「背が伸びたでしょ? ほら、少佐より少し高いですよ」

 少佐の正面に立って背を比べてみると、やはり俺の方が高くなっている。
 今まで少し見上げてた人を見下ろして見ると、別人を見ているような錯覚に陥るな。
 なんか少佐が俯いてるようで以前より可愛く見える。

「あ、ああ……ち、ちか……」

 ちか? 地下? ここの闘技場には地下施設もあるのか?
 そんな話は聞いてないんだけど、どういう意味か聞こうにも俯いたまま顔を上げてくれなくなっちゃったよ。
 どうしたんだ?
 
「リ、リッくん?」

「中尉?」

 側に寄ってきて俺を見上げる中尉はこの中で一番背が低くて俺と一番身長差があるせいか、なんとも可愛らしい印象を受ける。
 まぁ、顔から下に関してはその限りではないんだけどね。
 また一段と育ったな。

「ひ、久しぶりだねぇ! えっと、そのど……お、大きくなったねぇ! な、なんか側にいると大人と子どもみたいでちょっと恥ずかしくなっちゃうよぉ! あははは」

 中尉が視線を泳がせながら、早口でそう言った。
 でも、それは謙遜が過ぎるんじゃないか?

「そんな事ないと思いますよ? 中尉は昔も今も麗しい淑女です。隣にいて欲しいと思うくらいにね。恥ずかしがる事なんか全然ないですよ」

「あ……う、うにゅ~」

 なんだ? 
 今度はくねくねし始めたぞ?
 少佐といい、中尉といいどうしたんだ?
 調子でも悪いんだろうか?

「なぁ、イリア。お二人はどうかしたのか? 調子でも悪いのか?」

「あふぇ! あっ! いや、別にそういう訳ではないと思いますが……その……えっと、あの……」

 なんだなんだ?
 今度はイリアまでおかしな事になってるぞ?
 おまけに顔も赤いし、熱でもあんのか?

「大丈夫か? 頭から湯気が出そうだぞ?」

「あひぃ! ち、ちかっ! ちかす……あ、あ、あ……」

 ちか? また地下の話か?
 もしかして、公にできない地下にまつわる話があるのか?
 それを俺に上手く伝えようとしているが、上手く伝えられなくて焦ってるのか?
 それなら落ち着きがないのもわかる。
 ここは後ろで落ち着いてるクリスティーヌに聞いてみるか。

「な、な、何よっ!?」

 急に慌て始めたぞ。
 そうか、周りに聞かれたら困るのか。
 なら、耳元で小声で話そう。

「クリス。何か俺に言わないといけない事があるんじゃないか?」

「なっ!? そ、そんな事! きゅ、急に言われても……わ、私にも心の準備が……」

 心の準備だと?
 これは思ったよりも重大な話なのか?
 まさか勅命とか?
 そうだとしたら、これは由々しき事態……

「ああっ! もうやめい! 見ているこっちが恥ずかしくなるわ!」
 
「子爵? 子爵も何か知っておられるのですか?」

「この状況でわからんのはお前くらいのもんだ! 儂が説明してやるからこっちに来い! 貴官らもいつまで恥じらっておるかっ! サッサと控室に行かんか!」

「っ! し、失礼しました!」

「ご、ごめんなさぁい!」

「うわぁあああ!」

「つ、次はこうはいかないからね!」

 子爵の謎の一喝で、四人はビクッと身体を震わせた後、闘技場の奥へと消えていった。
 なかなかの身のこなしと速度だ。
 侮りがたい。
 あれ? 地下の話はいいのか?
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