311 / 480
第五章
謝罪と礼
しおりを挟む
闘技場の観客席には大勢の人々が集まり、競合戦が始まるのを今か今かと待ち侘びている。
中には応援のための横断幕を用意している者までいる。
まるでお祭り騒ぎだ。
いや、この競合戦は帝国公認の大会だし、公式ではないが賭けも黙認されているところを見るとお祭りと言ってもいいのかもしれないな。
出場する事自体が名誉だと言うけど、俺にとっては帝国の猛者の実力がどれ程のものか知れればそれでいい。
優勝を狙うつもりもない。
ただ、この二年間の成果を実感したいんだ。
「まもなく、四勲章競合戦を開始いたします。出場者は中央ゲートまでお越しください」
音声魔導通信が控え室に届いた。
いよいよだな。
「よし! 行くか、相棒」
俺は傍に置いていた刀を手に持ち、控え室を出た。
俺が部屋を出るのと同時に隣の部屋からも誰かが出てきた。
見慣れない人だ。
歳は四十から五十くらい、ガッチリした体格をしていて動きに無駄がない。
肩章は……大佐か。
「むっ、貴官は……」
向こうも俺に気づいようだ。
一応階級的には上官に当たるから敬礼をしておいた方がいいかな?
「失礼します、大佐殿」
「中佐……となると、卿がリクト・フォン・シュナイデン中佐か」
「はい! 名乗りが遅れて申し訳ありません」
俺が頭を下げようとするのを大佐は手で制した。
その手はゴツゴツとしていて分厚くて硬そうだ。
相当できる人だな。
「シュナイデン殿。この競合戦中は階級、階位を気にする必要はない。敬礼も不要だ」
「そうなのですか? これは重ねて無礼をしました」
「我々はこれから戦う敵だ。無礼も構わんさ。それにシュナイデン殿には謝罪と礼をせねばならんと思っていたからな」
「謝罪と礼……ですか?」
「ああ、私の名はハインツ・フォンタール。そういえば聞き覚えがあるだろう」
ハインツ・フォンタール。
ああ、ライエル領をめちゃくちゃにしたオーマンの部下だった人か。
確かに謝罪と礼がいるな。
「そうですか」
「カール・フォン・ライエル男爵とは友人と聞いていたが怒らないのか?」
「当事者は私ではありませんので、謝罪はカールへお願いします」
「そうか。君は大人だな。だが、礼は受け取ってほしい。君のお陰で軍の被害は最小限で済んだ。本当にすまない。私が不甲斐ないばかりに君の手を煩わせてしまった」
大佐はゆっくりとだがしっかりと頭を下げた。
別に俺は大佐には何の恨みもない。
大佐がオーマンの死後、すぐに軍をまとめて投降したおかげで無益な争いをせずに済んだと聞いている。
それに……
「どうかお顔を上げてください。私こそ大佐に礼をせねばなりません」
「私に礼?」
ゆっくり頭を上げた大佐の顔には少し戸惑いが見えた。
「大佐。うちのヒルダ達の命を救っていただき感謝します。お陰で良い使用人に恵まれました」
「ヒルダ……フルーネフェルト中尉か!? 軍に復帰できず、いずれかの貴族の私兵となったと聞いたが、卿がそうなのか!?」
「ええ。全員ロンドベルゲンの屋敷でよく働いてくれてますよ」
「そうか……良かった。オーマンが中尉の小隊を見せしめに私刑にするつもりと知って怒りに任せて追放した事にしたが、あの後も軍に復帰できなかったと風の噂で聞いていた。いずれなんとかせねばと思っていたが……そうか、卿のところに……良かった」
あからさまにホッとした顔をしている。
本当にヒルダ達の事を心配してくれていたんだな。
「シュナイデン殿、改めて礼を言う。あの者達はそれぞれが有能な者達だが、個としての才能が強すぎてな。軍という組織には合っていなかったのだ。だが卿なら安心して任せられる。どうか彼女達をよろしく頼む」
個としての才能が強すぎるか。
確かに全員クセが強いからなぁ。
まぁそれは俺も同じか?
だから上手くやっていけてるのかもしれないな。
「むっ、いかん。シュナイデン殿。つい長話をしてしまった。早く行かねば辞退となってしまう。急ごう」
「了解」
俺とフォンタール大佐は中央ゲートに向かって走り出した。
大佐はずっと『良かった』と繰り返し呟いていた。
困ったなぁ、当たったらやりにくいぞ。
中には応援のための横断幕を用意している者までいる。
まるでお祭り騒ぎだ。
いや、この競合戦は帝国公認の大会だし、公式ではないが賭けも黙認されているところを見るとお祭りと言ってもいいのかもしれないな。
出場する事自体が名誉だと言うけど、俺にとっては帝国の猛者の実力がどれ程のものか知れればそれでいい。
優勝を狙うつもりもない。
ただ、この二年間の成果を実感したいんだ。
「まもなく、四勲章競合戦を開始いたします。出場者は中央ゲートまでお越しください」
音声魔導通信が控え室に届いた。
いよいよだな。
「よし! 行くか、相棒」
俺は傍に置いていた刀を手に持ち、控え室を出た。
俺が部屋を出るのと同時に隣の部屋からも誰かが出てきた。
見慣れない人だ。
歳は四十から五十くらい、ガッチリした体格をしていて動きに無駄がない。
肩章は……大佐か。
「むっ、貴官は……」
向こうも俺に気づいようだ。
一応階級的には上官に当たるから敬礼をしておいた方がいいかな?
「失礼します、大佐殿」
「中佐……となると、卿がリクト・フォン・シュナイデン中佐か」
「はい! 名乗りが遅れて申し訳ありません」
俺が頭を下げようとするのを大佐は手で制した。
その手はゴツゴツとしていて分厚くて硬そうだ。
相当できる人だな。
「シュナイデン殿。この競合戦中は階級、階位を気にする必要はない。敬礼も不要だ」
「そうなのですか? これは重ねて無礼をしました」
「我々はこれから戦う敵だ。無礼も構わんさ。それにシュナイデン殿には謝罪と礼をせねばならんと思っていたからな」
「謝罪と礼……ですか?」
「ああ、私の名はハインツ・フォンタール。そういえば聞き覚えがあるだろう」
ハインツ・フォンタール。
ああ、ライエル領をめちゃくちゃにしたオーマンの部下だった人か。
確かに謝罪と礼がいるな。
「そうですか」
「カール・フォン・ライエル男爵とは友人と聞いていたが怒らないのか?」
「当事者は私ではありませんので、謝罪はカールへお願いします」
「そうか。君は大人だな。だが、礼は受け取ってほしい。君のお陰で軍の被害は最小限で済んだ。本当にすまない。私が不甲斐ないばかりに君の手を煩わせてしまった」
大佐はゆっくりとだがしっかりと頭を下げた。
別に俺は大佐には何の恨みもない。
大佐がオーマンの死後、すぐに軍をまとめて投降したおかげで無益な争いをせずに済んだと聞いている。
それに……
「どうかお顔を上げてください。私こそ大佐に礼をせねばなりません」
「私に礼?」
ゆっくり頭を上げた大佐の顔には少し戸惑いが見えた。
「大佐。うちのヒルダ達の命を救っていただき感謝します。お陰で良い使用人に恵まれました」
「ヒルダ……フルーネフェルト中尉か!? 軍に復帰できず、いずれかの貴族の私兵となったと聞いたが、卿がそうなのか!?」
「ええ。全員ロンドベルゲンの屋敷でよく働いてくれてますよ」
「そうか……良かった。オーマンが中尉の小隊を見せしめに私刑にするつもりと知って怒りに任せて追放した事にしたが、あの後も軍に復帰できなかったと風の噂で聞いていた。いずれなんとかせねばと思っていたが……そうか、卿のところに……良かった」
あからさまにホッとした顔をしている。
本当にヒルダ達の事を心配してくれていたんだな。
「シュナイデン殿、改めて礼を言う。あの者達はそれぞれが有能な者達だが、個としての才能が強すぎてな。軍という組織には合っていなかったのだ。だが卿なら安心して任せられる。どうか彼女達をよろしく頼む」
個としての才能が強すぎるか。
確かに全員クセが強いからなぁ。
まぁそれは俺も同じか?
だから上手くやっていけてるのかもしれないな。
「むっ、いかん。シュナイデン殿。つい長話をしてしまった。早く行かねば辞退となってしまう。急ごう」
「了解」
俺とフォンタール大佐は中央ゲートに向かって走り出した。
大佐はずっと『良かった』と繰り返し呟いていた。
困ったなぁ、当たったらやりにくいぞ。
4
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる