食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第五章

獣人

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 半獣人ハーフとはいえ獣人とやり合うのは初めてだけど、思っていた以上に厄介な相手だ。
 ロビンは最初から人として並外れた力を持っていたのに、変身した後の攻撃は比べ物にならないくらい凄まじい威力だった。
 威力を殺しきれないから防御してもダメージが残るだけで意味がない。
 それにあの膨張した筋肉、おそらくタフさも上がってるだろう。
 攻撃を全て躱しながら倒すのは面倒だぞ。
 でも面白くなってきたじゃないか。
 こっちもちゃんと気合を入れて……

「何をやっておるかぁ!?」

 あっ? 誰だ?
 デカいだけのうるさい声を上げながら、貴族っぽい男が中に入ってきたぞ?
 何のつもりだ?

「なぜ穢らわしい獣人風情がこの映えある帝国の地を二足で踏んでおるのか! 無礼であろう! このような蛮行はこのヘルマン・フォン・オルダーニが許さぬぞ! 獣は獣らしく四つ足をつかんか!」

 は? 何言ってんだ?
 ロビンは半獣人だし、お前だって豚みたいな体型で二足で歩いてるじゃないか。
 だいたい真剣勝負に口を挟むなんて最低の行為だぞ。

「オ、オルダーニ卿! こ、困ります! 四勲章競合戦でこのような……」

「何を申すかっ!? その由緒正しき四勲章競合戦に蛮族たる獣人が紛れ込んでおるのだぞ! 審判である貴様は何をボサっとしておるのだ! 早く警備兵を呼んでこやつの首を刎ねさせよ!」

 あれは審判の注意も耳に入ってないな。
 ったく、興を削いでくれるなよ。
 俺は久しぶりに思いっきりやれるかと思って楽しみにしてるんだぞ?
 周りの観客達もまた貴族の専横かと嫌そうな顔してるじゃないか。
 ロビンも嫌そうな顔を……と言うよりは憎悪が浮かんでるな。
 めちゃくちゃ怒ってるよ。
 まぁ当然だよな。
 父か母を侮辱されたんだもんな。

「おい! そこの獣! 聴こえんのか! 感覚が鋭いだけが取り柄のくせに耳も碌に聞こえんとは獣人とは本当にいらぬ存在だな」

「っ!? 貴様!」

「黙れっ! 私を誰だと思っている! 私はこの帝都に置いて映えある重責を担う……っ!?」

 おおおっ、すごい!
 あの距離を一瞬で詰めたぞ!
 なんて速度だよ。
 変わったのは力だけじゃないって事か。

「ぶ、ぶ、無礼なっ! け、け、獣の風情が私を見下すなど……ひ、跪け!」

 なんだそりゃ?
 訳わかんない理屈言うなよ。
 それにしてもロビンが前に立っただけで足が震えて声が上擦るとは情けないにも程がある。

「グルル……この場に立った以上、覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
 
「ヒッ……げ、げ、下賎なケダモノめっ! シュ、シュナイデン卿! 何をしておるかっ!? 早くこやつは仕留めぬかっ!?」

 は? なんで俺?
 そもそも邪魔したのはそっちじゃないか。
 怖くなったからってこっちに助け求めるなよ。

「な、な、な、何しておるかっ! た、戦うしか能がないくせにっ! 獣くらい早く仕留めんか!」

 お前みたいに声が大きいだけよりはマシだと思うけどね。
 おっと、そろそろ限界かな?

「随分なお言葉ですね。それより私と話してる時間があるのですか?」

「何を……ふぎゃぁあああああ!」

 胸ぐら掴まれて吊り上げられたとはいえなんて情けない声出すんだよ。
 みっともないにも程があるわ。

「は、は、はな……はなせ……」

「戦いを汚す愚か者が! せめてその血をもって汚辱を拭うがいい!」

「ひ、ひぃいいいいい! け、警備兵! 何をしておるか!? ふ、不敬罪だ! こやつを捕らえろぉおおおお!」

 さすがにマズイと思ったのか武装した警備兵がワラワラ出てきたな。
 やれやれ、これは収拾がつかなくなってきたぞ。

「そこまでじゃあああ!!」

 なっ!? なんだ!?
 この闘技場が揺れるほどの気迫のこもった声は!?
 一体誰が……あっ! あの一番高いところに軍服姿のでかい老人が立ってる!
 あれは、まさかっ!

「儂が帝国軍上級大将! ウィルバルト・フォン・ローゼンハイムである!」

 
 




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