食うために軍人になりました【一人称版】

第五章

真相

　先の大戦で敗戦したナンガァ連邦は終戦後も帝国に対してゲリラ戦を仕掛け続け、帝国南方の村や町に住む人達は今も連邦の脅威に怯えて暮らしている。
　それが南方というか連邦のイメージだ。
　幼い頃は悪さをすると『獣人達が食べに来るぞ』とよく脅されて、戦争を知らない世代でも獣人達には忌避感を持っている。
　今でも南方の帝国領内に時々獣人や亜人が出没してるってのも原因なんだろうけどね。
　それが恨んでないとすると俺達の聞いてた話は全く違うって事になるぞ。

「どういう事なのですか？　その……獣人達が恨んでないというのは」

「そのままの意味だ。獣人達はたとえ侵略戦争であったとしても敗けたのであれば潔く退くのを美学としている。敗けた報復など絶対にせん」

「しかし、連邦は帝国に戦争を……」

「シュナイデン卿……それがデタラメなのだ。彼らが時折領内に出没しているのは家族を助けるためだ」

　家族を助ける？
　もしかして、それって噂のアレの事か？

「奴隷の救出ですか？」

「そうだ！　帝国の一部卑しき者達は獣人や亜人を愛玩あるいは労役目的で奴隷化しておる！　帝国において獣人亜人の隷属化は厳禁とされておるが、それでも奴等は隠れて蛮行を繰り返しておるのだ！」

　つまりナンガァ連邦が帝国と敵対してるのは一部の変態達が獣人や亜人を隷属化してるからで、先の大戦は関係ないって事か？
　うわぁ……これは面倒な事聞いてしまったぞ。
　この後に来る言葉が想像できてしまう。
　なんとかこの場を逃げ……れないよなぁ。
　ガッチリ囲まれてるもん。
　一応聞くだけ聞いてみるか。

「ローゼンハイム様は何をしようと考えておられるのでしょうか？」

「それを聞けば後には引けなくなるぞ？」

　いや、引けなくなるも何も既に壁際に追い詰められて囲まれてますけど？

「そうか！　わかった！　シュナイデン卿の覚悟はしかとこのローゼンハイムが受け止めたぞ！」

　いや、まだ差し出してもないのに勝手に理解も受け止めもしないで欲しいんですけど？

「儂は帝国の奴隷にされた獣人や亜人達を解放し、ナンガァ連邦と和睦して同盟条約を締結するつもりだ」

「なっ……！？　そ、そんな事ができるのですか？　連邦は怨敵と……」

「それは帝国に責任がある事であって連邦には非がない事ではないか！　奴隷を解放し、首謀者を罪人として引き渡せばそれで済む問題である！」

　いやいやいやいやいやいやっ！
　事はそう簡単な話じゃないぞ！
　先ずは帝国に住まう人達の意識の問題が大きい。
　戦争から数十年が経過しているとはいえ、未だに老齢の人達は獣人達を仇敵と思っている節が強い。
　直接戦った人達からすれば家族や戦友の仇なんだからな。
　そして、その人達に育てられたその後の世代はみんな獣人達は野蛮で恐ろしい者達だと言われて育ってるんだ。
　帝国西方のド田舎出身の俺ですらそう思ってたんだ。
　その意識を急に変えるのは難しいぞ。
　それに獣人達を奴隷にしている首謀者ってのも問題だ。
　公には獣人達の隷属化は禁止されてるんだから、隠れて行っているって事だ。
　普通の身分で出来るとは思えない。
　絶対に上級貴族が関わっている。
　そうなると逮捕も捕縛も難しい。
　下手すると帝国を二分する内乱にだって発展しかねない。
　それに仮に捕らえられたとしても首謀者を連邦に引き渡せるかわからない。
　権力をカサに逃げるか替え玉を差し出すか。
　そんなところだろう。
　はっきり言って実現は難しいと言わざるを得ないな。

「ウィルバルト。どうやら坊やはアホじゃなかったようだね。どれだけ難しい事をしようとしているかわかってるようだよ」

「当然です。その程度の考えは回るように教育させていただきましたから」

　馬鹿にしてんのか、この二人は？