食うために軍人になりました【一人称版】

KBT

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第六章

信じる

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「では、失礼致します」

「っ……! ま、待て!」

 自然に部屋から出て行こうとするメイド。
 どこまで不遜なのだ!
 ここまで好き放題に言われてそのまま帰せるわけないだろ!

「なんでしょうか? 失礼ながら当家はただいま立て込んでおりますので、御用件なら後ほどお願いしたく存じます」

「くっ……お前は誰に向かって口を聞いているのかわかっているのか? 私は……」

「敵の狙いにも気づかず、功を焦った将軍」

「うっ……」

 お、おのれ……少しは口に幕を下ろせ!

「そちらは取り乱して魔剣を振り回した愚かな少佐。小隊の方々が逃げ惑う程に」

「あぁぁ……」

 アリシア……お前はなんて事を。

「奇声を上げて魔力を暴走させた短絡中尉、お陰で魔道通信機器が幾つか壊れてしまいました」

「あぅぅ……」

 ファンティーヌ……あれは東方方面軍の備品だぞ?

「早合点して短剣で首を突こうとした浅短な大尉。小隊の方々が必死に止める様が痛々しかったです」

「わ、私は……その……」

 ……おい、イリア。
 自死など許さぬぞ!

「冷静なふりして天幕の隅で泣きじゃくっていた泣虫大尉。ハンカチが搾れるくらいびしょびしょでしたね」

「み、見たんですの!? あ、あれは……別に……」

 クリスティーヌ……よく見れば目元が腫れているな。

「申し訳ありませんが、このような方々にお時間を使う暇などありません。失礼致します」

「ぐっ……待て! お、お前達は主人が……リクトが居なくなってなんとも思わないのか!?」

「旦那様は生きています。私は信じていますから」

 部屋を出ようとしたメイドがピクっと身体を震わせた後に振り返らずに言った。
 表情は見えないが、その言葉にはハッキリとした強い意志があった。

「私が……私達が主人と決めた御方です。必ず生きておられます。だから、帰って来られるまでの間に私達は敵を徹底的に調べ上げ、反撃の準備を整えておかねばならないのです」

 ああ、そうか。
 こいつらは疑っていないのだ。
 リクトの事を心底信じているのだな。
 だから今もリクトのために時間を無駄にする事なく必死に動いている。
 それに比べて私達は……無能と言われても仕方ないな。

「すまん。時を無駄にさせたな」

「はい。無駄にしました」

 こいつめ、言いたい事を言う。
 だが、お陰で目が覚めた。
 テラーズが言っていた私の役目とは泣くこいつらの尻を蹴飛ばす事なのにも気づかず、一緒に落ち込むとはな。
 どうやら私自身も相当気分が滅入っていたらしい。
 それで見かねて助け舟テレシアを送ってくれたわけか。
 テラーズには貸しを作ってしまったな。

「ならばその無駄にした時間を我等が補おう。よいな! アリシア! ファンティーヌ! イリア! クリスティーヌ!」

「はっ!」

 うむ! 皆もどうやら目が覚めたようだ。
 そうだ。
 リクトを信じよう!
 あいつが簡単にくたばる訳がないんだ!
 帰ってきた時には精一杯詫びよう!
 あいつの言う事は何でも聞いてやろう!
 もし、あいつが私を嫁にと言うなら……
 こ、これはもう致し方あるまいな!
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