食うために軍人になりました【一人称版】

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第六章

魔殻

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「最初に知っておいて欲しいのは人間と魔族の違いだね。と言っても、実はほとんど差はないんだよ」

「差がない? おいおい、前に聞いた話と違うじゃないか。魔族1人で人間1000人分くらいの力があるって言ってただろ?」

「最初は黙って聞け! 処すぞ!」

 お、おっかないなぁ……
 何もそんなに怒らなくてもいいのに。

「身体的な面で言えばほとんど差はないの! あるのは魔力操作の力だけ。そして、それが決定的な差だ」

 魔力操作? 
 人間の方が魔力操作が苦手って事か?

「わかってると思うけど、魔力って具現化して魔法として使う事も、体内に巡らせて身体機能を向上させる事も出来る。だけど、強すぎる魔力は自らの身体を傷つけてしまう事もあるんだ」

「そうなのか?」

「そうなんだよ。膨大な魔力が体内で暴走して、意図しない魔法が発動してしまうんだ。炎に包まれて焼け死んだり、大量の水で溺れ死んだりと発動する魔法は本人の適性魔力によるものが多いね」

「そ、それは怖いな。でも、そんな事があったって話は聞いた事がないぞ?」

「あくまで暴走したらの話だよ。そこで本題なんだけど、そうならないために人間には【魔殻まかく】ってものがあるんだ。僕がさっき言ってた殻が破れないってのはこれの事だ」

 一皮剥けるとかそういう比喩の話じゃなくて、本当に殻があるのかよ。
 そういう大事な話は修行を始める前に言ってくれ!

「魔殻は人間にだけ備わっているもので、膨大な魔力で身体が怪我しないようにする魔力の制御装置リミッターだ。こいつを破らない限り、人間としての域は超えられないし、魔族にも勝てない」

「ちょっと待ってくれ……いや、質問いいか?」

「いいよ」

「その殻は身体を守るためにあるんだろ? それを破っていいのか?」

「君くらい身体が鍛えられていれば問題ないよ。うーん、わかりやすく言えば剣術習う時も最初木刀とかで、上達したら真剣使うでしょ? この木刀が魔殻だと思ってくれたらいいよ」

 なるほど。
 素人の真剣なんて自分にとっても周りにとっても危ないからな。
 逆に上達しても、こっちは木刀のままで相手は真剣だとしたら敵うわけない。
 そういう事か。

「魔殻は人間の神が人間を守るために与えたもので、無意識の中にあるから自然に破れる事はないって言われてる。だから、意識して自分で破るしかないんだ。これでだいたいわかった?」

「だいたいは理解した。ちなみに魔族には魔殻がない理由ってあるの?」

「魔族は魔力操作が上手いんだよ。だから魔力が暴走する事なんて子どもでもあり得ないんだよ。『魔力で身を滅ぼす』って、絶対にあり得ない事を指す言葉があるくらいだ」

 つまり、魔族は俺達人間が必死に習得している魔力操作を簡単にできるってわけか。
 そうなると魔族と戦うには最低限、魔殻を破らないと同じ場所に立つ事すら出来ないわけだ。
 よし、そうとわかればなんとしてもこの殻を破ってやるぞ!
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