食うために軍人になりました【一人称版】

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第六章

海底の小さな魔物

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「それについては私に任せてもらう。勝手に処断されては困る人物もいるからな」

「いいでしょう。軍人や役人関係は貴女にお任せする話でしたからな」

 やけにあっさりと引いたな。
 いや、最初からどうでも良かったと言った方がいいのかもしれん。
 テラーズこいつにとって、今は主人以外の事など本当にどうでもいい事なんだろう。
 後ろの面々もそうだ。
 揃いも揃って無愛想な事だ。
 だが、その主人至上主義者達が何を掴んできたかは興味深い。
 何か発見があったから情報交換の場を設けたはずだしな。

「では、次はそちらの話を聞かせてもらえるか? 何かわかったか?」

「先に申し上げておきますが、ご期待に添える話はありません。旦那様は依然として行方不明のまま。生きているか死んでいるかもわからないままです」

「そうか……だが、何かしらわかった事があるのだろう?」

「ほぅ……シャーロット・フォン・ジェニングス中将。肩書きはお飾りではないですな」

「ぶ、無礼なっ!」

「いくらリッくんの執事でも閣下に対してぇ……っ!」

 アリシア達がテラーズの憎まれ口を間に受けて、剣を抜こうとしているっ!?
 いかん! 早まるな!

「よせ! お前達!」

「お前達も下がれ」

 ふぅ……アリシア達が剣を抜こうとした事で、向こうの使用人達も飛出しかねない状態だった。
 それにしてもさっきの身のこなし、やはり使用人達も只者ではないな。

「部下が失礼した。テラーズ殿」

「いえ、私も少し悪ふざけが過ぎました。謝罪します」

 やれやれ、どうやら互いに上手くいかない事で苛立ちがあるようだな。
 リクト、お前の事で皆がここまで神経を削っているのだぞ?
 早く帰ってきてくれないと困る。

「実は私がお話を聞きたいのはジェニングス閣下なのです」

「私か? 私に何を聞きたいのだ?」

「ええ。【海底の小さな魔物】をご存じですか?」

「【海底の小さな魔物】? あのおとぎ話のか?」

 随分と懐かしい話だ。
 【海底の小さな魔物】は帝国東部に伝わるおとぎ話で、嵐で船が沈んだ漁師を小さな魔物が助けるという話だ。
 助けられた漁師は感謝したが、街の人や領主は自らが住む土地に魔物がいる事を恐れ、魔物を騙して捕まえ、嵐の海に沈めたという。
 以来、この海の底には今でも小さな魔物が住んでいて、嵐の日には海を操って海岸近くで船を沈めると。
 だから、嵐の日には海や海岸に近づくなと子どもの頃によく言われたものだ。

「そのおとぎ話がどうした?」

「その海底に住んでいる小さな魔物が今回の件に関係あるのではないかと思っています」

「なに? ど、どういう事だ? これはおとぎ話で、魔物などいるわけないだろ? 今は冗談を言っている場合では……」

「目撃者がいたのですよ。その魔物のね」

 こいつら……リクトを心配するあまり、遂に狂ったか?
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