食うために軍人になりました【一人称版】

第七章

一大事

　あれは地獄だった。
　この世に顕現した地獄以外の何物でもなかった。
　そして、フォルネアは地獄に棲んでいるという獄鬼オーガに見えた。
　
「リクト。何か言いたい事があるなら、拳こいつで聞いてやろうか？」

　そう言って差し出されたフォルネアの拳は血に染まっていた。
　いやぁあああ！　思い出したくない！
　
「いやいやいやいやっ！　な、何でもないから気にしないでくれ！」

「ふんっ、腑抜けていたらお前も特訓を受けさせるからな」

　じょ、冗談じゃない！
　あの地獄だけは二度と味わいたくない。
　あれを味わうくらいなら、死んだ方がマシなくらいだ！

「相当厳しい特訓のようですね。それで、ルーストレームの魔殻解放はどうでしたか？」

「おっ、そうそう。あいつは大したもんだったよ。意外と才能あったみたいでな。一時間くらいで暴走を止めたよ。なかなかやるじゃん、あいつ」

　へぇ、流石はルーストレームだ。
　一時間はかなり短いと思う。
　ヒルダ達は3時間かかってたしな。

「だから、あいつも明日からあの五人と同じ特訓をしてもらう事にしたよ。目標があるやつは、やっぱりやる気が違うね」

「目標？　あいつ、何か目標があるんですか？」

「決まってるだろ。あいつの目標はお前だよ、リクト。お前と同じ強さになって、また戦いたいんだってさ。あいつ、魔族の血でも入ってんじゃないか？　なかなかの戦闘狂だぞ」

　う、嬉しくねぇ……戦闘狂はもう勘弁してほしいよ。
　ルーストレームとの戦いは俺の人生の中では忘れられない戦いの一つだ。
　一対一タイマンでは、最も苦戦した相手で、苦手な相手でもある。
　あの時の戦いでもあいつが【天上天下唯我独刀】の発動を待ってくれていなかったら、俺の方が負けていただろうからな。
　正直、再戦したら勝てるかどうかはわからないぞ。

「僕の見立てでは、一番使いものになりそうなのがルーストレームだな。後は似たり寄ったりって感じだな」

「珍しいな。フォルネアがそこまで気に入るなんて」

「言ったろ？　魔族は戦闘種族だからな。戦いが好きなやつは他種族であっても好感が持てるんだよ」

　そういうわけか。
　だったら、うちの使用人達も気に入るかもしれないな。
　あいつらも常に特訓を欠かさないくらいの戦闘好きだし。

「それよりそっちはどうだ？　お前の方の奴等は」

「うちの使用人達はボッコボコ状態。他の二人に至っては、身体回復の方に三日はかかりそうだ」

「なんだ、つまらない。ルーストレームの件があるから、他にも見込みがあるやつがいるかと思ったのにな」

　そうであれば有難いが、現実はそう甘くはない。
　戦力はまだまだ足りてないんだ。
　ルークリアの残りの百勇士やフェンドラの残り十二将の到着もまだだしな。
　くそっ、時間が惜しい！

「シュナイデン少将、焦りは禁物です。今はやるべき事を確実にやる時なのです。まだアマナ王国の侵攻には時間が……」

「閣下！　い、一大事です！」

　一人の兵士が慌てて部屋に飛び込んできた。
　その顔は青白く、血の気が引いているようだった。
　一体、何があったんだ！？

「どうし……」

「おらっ！」

　俺が事情を尋ねようとしたところ、フォルネアが兵士をいきなり殴り飛ばした！？
　な、何のつもりだよっ！？