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一章 ベロリン王国編

テンプレと掟

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 2時間ほどの昏睡の後、ドーナさんに案内されて冒険者ギルドの個室に来た。ぷりぷり怒ったままのリューネさんも一緒だ。はっきり言って居心地悪い。しかも、やっと念願の飯にありつけると思っていたのに、そこに待っていたのは驚愕の事実だった。

「じゃ、じゃあリューネさんがする俺の世話って……せ、性に関する事だったんですか?」

「ああ、そうだよ。あんた、全く理解してなかったのかい? どこまで世間知らずなんだよ」

 そんな事を言われても世話と言われて、性の世話だと思う方がどうかしている。日本だったら完全にヤバい奴の思考だぞ!

「ドーナさん! 俺はそんな話は聞いてませんよ!」

「ちゃんと言ったよ? ウィダー王国に他国の男が入国するにはちょん切るか、女が同伴して、その男の世話をするってね。ちゃんと説明したろ?」

 いや、普通は世話と言ったら生活だろ! 性活なんて発想にならないって! でも、本当にそうだとしたら、俺はリューネさんと……

「な、何だよっ!? 改まってこっちを見るな!」

 熟したりんごの様に顔を真っ赤にしたリューネさんが顔を背けた。か、可愛い! こんな可愛い子が俺の世話をしてくれるなんて、想像しただけで……って、童貞ちゃうわ! いくら今は彼女がいないとはいえ、ちゃんと恋愛経験もあるし、すぐに発情するほど子供じゃない! って言いたいけど、トップアイドルにも引けを取らないくらい可愛いリューネさんが相手だと興奮するなって方が無理です!

「まぁ、それは追々で良いとして。それよりセイゴ。あんたは何者なんだい? あの戦いを見てたけど、あれは普通じゃないよ」

 ドーナさんの鋭い視線が俺を刺す。やっぱり俺の特殊能力タレント【四字熟語】によるステータスの上昇は傍から見れば異質なものみたいだな。

「ああ、それについては私も疑問だったんだ。あれは何だったんだ? 魔法によるステータス上昇かと思ったけど、詠唱した様子もなかったしね。それにあれだけパワー速度スピードが上がる魔法なんて私は知らないぞ」

「リューネ、あれは魔法じゃないよ。そもそも魔力の流れを感じなかったからね。だから不思議なのさ。一体、あれは何だったんだい?」

 まずい。二人には悪いけど、特殊能力タレントの事はなるべく知られたくない。ましてやベロリン王国ここでは絶対にだ。この世界に守秘義務なんてものは無いだろうし、下手に知られて王都にまで噂が広まったら俺は王に捕まる可能性だってある。それだけは何としても避けたい! でも、誤魔化すだけの知識もない。ならば、ここは小説で読んだテンプレを使うしかない!
 一念通天いちねんつうてん
 届け! 俺の想い!

「それは……秘密です。過去の詮索は野暮ってもんですよ」

 どうだ? 冒険者の過去は詮索はしないのがマナー。俺の読んだラノベではそういうのがたくさんテンプレみたいにあった。読んでる時は『いや、普通に詮索するだろ? 犯罪者とか内通者スパイだったらどうするんだ?』って思ってたけど、今はこのとんでもテンプレに縋るしかない! どうかここでも有効であってくれ!

「まぁ、確かにね。そう言われちまったら私はこれ以上は聞けないね」

 有効ぉおおお! ナイス異世界テンプレ! 助かったぜ!

「でも、リューネはそうはいかないよね?」

「へっ?」

「そうだ。私には知る権利がある。私はお前の相棒パートナーだからな」

 はい? そうなっちゃいます? 一時的にパーティーを組むんだから、わからない事もないけど、ウィダー王国にいる間だけの関係だし、全てを話す必要は無いじゃない?

「セイゴ。リューネの言うとおりだよ。これから死ぬまで一緒にいるんだ。互いの力について理解しておく事は重要だと思うよ」

「し、死ぬまで……?」

「そうだよ? ああ、そうか。あんたは知らないか。いいかい? ウィダーの女には絶対の掟があるんだよ。それは男との勝負に負けたら、その男を自分の夫にしなければならないってやつさ」

 なんじゃそりゃぁああああああ!? そんな一方的な話があるかよ! 俺にだって選ぶ権利が……いや、リューネさんを断る理由なんかないんだけどさ! 個人の意見を無視した掟なんて駄目だろ!

「いや、そんな……だって、リューネさんの気持ちだってあるだろうし、俺も……」
 
「セイゴ。私はお前が……」

 うっ……リューネさんが俯いてしまった。やっぱり嫌なんだ。そりゃそうだよなぁ。好きでもない男に一生尽くすなんて、そんな馬鹿げた掟は間違っている! ここは俺が何とか上手く誤魔化してこの前の勝負は無効になる様にしないと。
 
「私はお前がどう思っていても気にしないぞ! たとえ、お前が逃げようと地の果てまで追いかけて添い遂げてみせる! それがウィダーの女の心意気だからな!」

 剛毅直諒ごうきちょくりょう!?
 意志が強く誠実で逞しい! これがウェダーの女か。恐ろしい。結局、俺は押し切られる様な形で、リューネさんと旅をする事となった。
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