鑑定能力で恩を返す

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第一章

異世界社会

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 ロンメルの馬車で一夜を過ごした悟は翌朝、公都ハメルンに向けて出発した。
 悟は御者台に座るロンメルの横に座って、この世界の話を聞いた。
 元の世界の常識は通じない。
 自身の身を守るためにも、この世界の事について知っておく必要があったからだ。

「ここブロディア王国はこの大陸で最も古く由緒正しい国じゃ。豊かな自然に恵まれており、のどかに暮らすなら一番の国じゃよ」

「でも、魔物がいるのは危険じゃないんですか?」

「ふむ、お前さんの世界には魔物はおらんのか? ここでは大事な資源なんじゃがな。肉は食えるし、皮や角、牙なんかは工芸品や装備に、種類によっては内臓も魔術の素材になるからのぉ」

「そ、そういうものなんですか? 俺のいた世界には魔物なんかいませんでした。肉とか皮とかはそれ用に動物を育ててたと思います」

 悟の言葉に驚いた表情になるロンメル。
 しかし、悟にはなぜ驚いたのかわからなかった。
 
「自身が育てた動物を加工するのか? それはまた、なんというか……割り切っとるのぉ。それに育てるのに時間もかかるし、面倒ではないか? 魔物を狩った方が早いじゃろ?」

「狩りすぎて数が減った動物もいますからね。それに何より命の危険がありませんから」

「まぁ、確かに魔物に返り討ちにあうこともある。そのために《ハンター》と呼ばれる専門の者達がおるんじゃよ」

「ハンター……ですか?」

 ハンターとは正確には職業ではなく、魔物を狩る者達の総称である。
 ある者は剣を、またある者は魔法を使って魔物を狩って、それを店に売って日々の生活の糧とする。
 危険ではあるが、一攫千金の機会もあるので、この世界では最もポピュラーな職業である。

「大変な仕事ですね」

「大変でない仕事などありゃせんよ。あるとすれば、雲の上に鎮座まします王侯貴族の方々……いや、それも楽ではないのかもしれんな。隣の花は赤いと言うからのぅ」

 達観した物言いをするロンメルに悟は少し気後れした。
 貴族と聞いただけで華やかな生活を想像した自分が、ひどく矮小な存在に思えたからだ。
 
「ははは……あっ、王様や貴族がいるのであれば、俺はどういう扱いになるんでしょう? 迷い人として何か特別な扱いをされるのですか?」

「ん~、別に迷い人だからと言って特別な扱いを受ける事はないのぅ。お前さんは儂と同じ《平民》じゃよ。ただ……」

「ただ?」

 ロンメルは真剣な眼で悟を見た。

「迷い人である事を吹聴するのはやめておいた方がいいじゃろう。異世界の知識に興味を持つ学者や魔導師なんかに捕まったら面倒じゃからな」

 悟は背中を冷たいものが流れるのを感じた。
 脳裏に人体実験される自分の姿が浮かんだからだ。



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