鑑定能力で恩を返す

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第一章

サト

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 顔面蒼白。
 悟の顔は人の温かみを感じられない色へと変わっていた。
 自分が人体実験させられると想像すれば無理もない話だった。

「め、面倒なことって……解剖とか、ご、拷問とかされるんですか?」

 悟は必死に言葉を繋いだが、対するロンメルはあっけらかんとしていた。

「解剖? 拷問? 何を言うとるんじゃ? 奴らは知識欲の塊じゃからな。異世界の技術やら思想を求めておるんじゃよ。お前さんを解剖しても拷問しても意味ないわい。面倒と言うのは朝から晩まで質問責めにあうってことじゃよ」

「な、なんだぁ……それならそうと言ってくださいよ。俺はまた、てっきり何かされるんだと思ってましたよ……」

 悟の身体から一気に力が抜けた。
 緊張していた身体が一気に弛緩したのである。

「異世界の技術がいくら優れていようともそれを体現できねば意味がないじゃろ? 農夫に城を建てろと言っても無駄なように、お前さんが異世界の全ての知識を持っているとは思えんからのぅ」

 ロンメルの言っている事は正論である。
 例えば、悟は飛行機に乗ったことはあるが、それがどういう原理で動いているかは知らないし、製造工程など見当もつかなかった。
 仮に知っていたとしても必要な原材料がこの異世界で見つかるとも限らない。
 更に技術も必要となる。
 つまり、異なる世界の技術を体現するためには一からではなく、零から作れるだけの知識と技術を持っていなけれならない事になる。
 そして、それは不可能な事だった。

「あの手の輩は異世界の知識を聞いて夢や妄想を抱きたいんじゃよ。新しい知識を知る事で知識欲を満たしておるわけじゃな。そうなると根掘り葉掘り聞かれるぞ。眼をランランと輝かせた爺い達に朝から晩まで囲まれて延々と話がしたいなら構わんがな」

「……そ、それはちょっと。遠慮します」

 悟には高齢者に対する忌避感はない。
 しかし、想像した光景の中で一生を終える気にはならなかった。

「まぁ、そうじゃろ。じゃから、普通に生活しておれば何の問題ないわい。お前さんの身分証は儂が用意してやるからのぉ」

「身分証ですか? そんなものがあるんですか?」

「税金の関係でな。意外と厳しいんじゃぞ? とは言っても、田舎の方に住んでいると持っていない者も多いがな。帝都や公都に住むなら必要になるんじゃよ」

「で、ですが、そんなに簡単に作れる物なんですか? 俺の出身とか聞かれても答えようが……」

「いらんいらん。必要な情報は名前と歳と性別、あとは住む場所くらいじゃよ。お前さんは田舎から出てきた事にでもすれば問題ないわい。おお、そういえば名はどうする?」

「な、名前ですか? 蔵田悟くらたさとるですけど……」

「苗字は貴族や上流階級の特権じゃからな。名乗ると不審がられるぞ。そうじゃな……《サト》でどうじゃ?」

「サトですか? 親にはそう呼ばれてましたから別に違和感はないですね」

「よし、ならお前さんは今日からサトじゃ! 改めてよろしく頼む。到着する前に決まってよかったわい。ほれ、あそこが公都ハメルンじゃ」

 ロンメルの指さす方向には聳え立つ城とそれを囲む城壁があった。
 悟改めサトはその壮大さにただただ唖然とするばかりであった。

 
 
 
 
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