鑑定能力で恩を返す

第一章

クロエ

　ロンメル商店のカウンターを囲んで3人の男女が座っていた。
　
「まったく、お前さんは相変わらずそそっかしいのぅ」

　ロンメルが紅茶を2人の前に出しながら、苦言を呈した。

「だ、だって！　扉が開いてたからロンメルが帰ってきたんだと思って中を覗いたら、武器を持った男が棚を物色してたんだよ！　泥棒だと思うでしょ……」

「はぁ……泥棒が扉を開けっ放しにするわけなかろう。まぁ、儂もサトに灯りの付け方を伝えておらんかったからのぅ」

　そう言うとロンメルは天井の灯りを見つめた。
　天井の中央にはソフトボール位の大きさの石が吊るされる形で設置させており、光を放って室内を明るく照らしていた。

「サト。あれは光の魔石じゃ。魔石は魔物の体内で魔力を受ける事で育つ特殊な石でのぅ。魔物の属性によって種類が異なるんじゃよ。光の魔石はこのように灯りとして使えるが、他にも魔除けや浄化と言った効果もある結構高価な物なんじゃぞ」

「魔石……」

　サトが天井からぶら下がった石を見つめると脳裏に言葉が浮かんでくる。

　光の魔石（中）
　光属性の魔力を溜め込んだ石。この魔石が放つ光には浄化、除災、魔除の効果がある。相場10万ルーク

「じゅ、10万……」

「さすがじゃな。あの魔石じゃと、それぐらいが相場じゃよ」

「へぇー、あれでも結構するんだね。じゃあ、ウチの店のはあれより大きいからもっと高いんだね」

「あれは大きいからのぅ。それよりそろそろお互いに自己紹介くらいせんか？」

　そう言われて2人は互いに相手の名前も知らない事に気づいた。

「そ、そうね。えっと、さっきは本当にごめんなさい。隣の《歌う花嫁亭》って酒場の看板娘クロエです。よろしくね」

「俺は……今日からここでお世話になるサトと言います。田舎から出てきたばかりで何も知らないので、よろしくお願いします」

「クロエよ。こいつは本当になんも知らんのでな。儂がおらん時に困った事があったら力になってやってくれ」

「うん、いいよ！　あっ、いけない！　もう店に戻らないと！　サト、またね！今度はちゃんと魔灯くらい点けておいてね」

　クロエはそう言うと足早に店を出て行った。
　その後、隣から『どこで遊んでやがった、この馬鹿娘がっ！』と言う怒鳴り声が聞こえてきた。

「だ、大丈夫ですか？　あれ」

「ああ、心配せんでも、ありゃ日常茶飯事じゃよ。1日に3回は聴こえてくるが、別に仲が悪いわけじゃないわい」

「そ、そうなんですか？」

「店主は娘のクロエが心配なだけじゃよ。まぁ、今日の晩飯は隣で食うからその時にでも挨拶するとええ」

「わかりました」

「うむ。では、家の案内と魔石の使い方を教えておこうかの」

　そう言うとロンメルはサトを連れて、家の中を案内していった。
　その間に隣から『クロエ！　どこ行ったぁあああああ！』と言う声が聞こえてきた。
　どうやら隣の店主も苦労しているようだとサトは思った。