鑑定能力で恩を返す

第一章

異世界生活のはじまり

　ロンメル商店での生活はサトにとっては意外なほどに快適なものだった。
　もちろん贅沢を言えば際限がないが、それでも想像していたより遥かに良かった。
　1階は店になっており、2階が住居スペースとなっている。
　そこにはキッチンとトイレ、それと部屋が2つあり、サトはその内の1つを使わせてもらう事になった。
　部屋の広さは元の世界でいえば四畳半ほどで、棚とベットと机が備え付けられていた。
　キッチンには小さなかまどがあり、そこで食事が出来る広さがあった。
　そして何よりサトを喜ばせたのが……。

「す、水洗トイレ……マジかっ！？」

　廊下の突き当たりにあるトイレでサトは感嘆の声を上げた。
　そこには見紛う事なき洋式の水洗トイレがあったからだ。
　おまけにトイレットペーパーの代わりと思える紙まで置いてあった。
　トイレの自体に水の魔石が設置されていて、そこから出る水によって便器内を洗浄する仕組みとなっている。
　水洗トイレは王都や公都では一般的だが、地方に行けばサトが不安になるようなトイレもないわけではない。
　しかし、とりあえず自分が住む住居のトイレが水洗である事にサトは胸を撫で下ろしていた。

「やっぱりトイレは重要だよな」

「トイレが気になっとたのか？　変わったやつじゃのぅ。それよりトイレの魔石の使い方じゃが、壁に付いとる魔石に魔力を流すんじゃ。そうすると、それと連動してトイレ内の魔石から水が出るというわけじゃ」

　サトは撫で下ろした胸が戻ってきたような感覚に襲われた。

「ま、魔力ってどうやって流すんですか？」

「どうって……手に魔力を集中させればいいんじゃよ。まぁ、やってみるがいい」

「そ、そう言われても……」

　サトは恐る恐る壁の魔石に触れたが、何も起こらない。
　しかし、焦って力を込めた瞬間に便器内に水が流れた。

「ほら、出来たじゃろ？　魔力がない生物などおりゃせんよ。それに迷い人の中には魔法使いとして王宮に仕えた者までおったという話じゃからな」

「そ、それ……早く言ってくださいよ」

「儂もお前さんが何が出来て、何が出来ないかを探りながらじゃからな。まぁ、焦らんでええ。お前さんの着替えとかは店にある物を使えばええからの。ほれ、下に降りるぞ」

　2人は1階の店舗に降りていき、コップや総楊枝ふさようじなど必要な物を見繕った。
　そして、それがひと段落した後にロンメルはサトをカウンターに呼んだ。
　
「さて、次は金の話じゃ。ウチも商売じゃから、ここは間違えないようにしっかり覚えておいてくれ」

「は、はいっ！」

「ブロディア王国の通貨はルーク。硬貨は全部で6種類ある」

　サトは目の前にある6種類の硬貨に見る。
　すると、脳裏に言葉が浮かんできた。

　鉄貨　　10ルーク
　銅貨　　100ルーク
　銀貨　　1000ルーク
　金貨　　1万ルーク
　大金貨　10万ルーク
　白金貨　100万ルーク

「ひゃ、100万ルーク……」

　サトは目の前で輝く1枚の硬貨を凝視した。