鑑定能力で恩を返す

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第一章

メッキの剣

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「おい! 俺の剣がメッキってどういう事だっ!」

 酒場に男の絶叫が響き渡り、周囲の喧騒を吹き飛ばした。
 男は怒髪天を突くが如く怒り、サトに詰め寄った。
 普段のサトであれば恐怖に怯え、平謝りの状態だったろうが、今のサトは男の眼光を真正面から受け止めた。
 そう、サトは酔っ払っているのである。
 恐怖とは不透明な未来に対する本人の豊かな負の想像力により生じるもの。
 しかし、酔っ払ったサトは想像力を含む脳の機能が著しく低下した事で、一時的ではあるが恐怖を克服することに成功したのである。

「この剣は王都から来たって商人から大金をはたいて買ったミスリルの剣なんだよ! お前みたいな酔っ払いに貶される覚えはない!」

 剣は己の命を預ける大事な相棒である。
 それを貶められたとあれば男の怒りは至極真っ当なものだった。
 己の怒声に動じないサトに、男は鞘から剣を抜き放って眼前に突き出した。
 灰色に輝くロングソードの鋭い切先が鼻先に迫り、周囲からどよめきが聞こえるが、それでもサトは動じない。

「貶してない。ただ真実を言っただけです」

「デ、デタラメ言いやがって! 何の根拠があって……」

「重すぎ」

 男の質問にサトは間髪入れずに答えた。
 唖然とする男をよそにサトは男の剣ではなく、腰の剣帯を見ながら言葉を繋げた。

「貴方の剣帯は下に伸びきっている。それは重い剣をぶら下げた時に起こる現象ですよ。貴方が言うように、それが軽いミスリルの剣なら絶対にそんな風にはならない。俺は最初、重い石剣でも持っているのかと思ったくらいだ」

「そ、それは鞘が重いからだって……」

「軽いミスリルの剣にわざわざ重たい鞘を付けるって何の冗談ですか? 剣が軽くても鞘が重かったら意味ないじゃないですか」

 男は言葉を失って、突きつけた剣を下ろした。
 サトはその剣を更に見る。
 惚けた脳裏に言葉が浮かんできた。

 鉄の剣(ミスリルメッキ加工)
 鉄の剣に薄くミスリルメッキを施した剣。鉄には不純物が多く混じり、強度は低い。無理な加工でバランスが崩れ、コーティングされたミスリルによって辛うじて剣の形を保っている。相場5万ルーク。

「いわゆるミスリルコーティングの剣か。外見は確かにミスリルの剣に見えるけど、中身は粗悪な鉄剣みたいだな。おまけにバランス悪いし、価格としては5万? コーティングしてあるミスリルにしか価値ないな」

「……ふ、ふ」

 淡々と語るサトに目の前の男の様子が徐々に変わっていった。
 身体はわなわなと小刻みに震え、剣を握る拳には力が漲っているのが離れていてもわかった。
 周囲の者達は巻き込まれるのを避けるように、距離をとった。

「ふざけやがって、あのくそ商人がぁあああああ!」

 男は怒りの咆哮を上げた。
 しかし、怒りの方向はサトにではなかった。

「道理でおかしいと思ったんだよ! 切れ味はそこまで良くないし、クソ重たいし、力は入りにくい! あの野郎……何が『大事な剣ですから鞘は重厚な方が良い』だ! 騙しやがったんだな!」

 男には自分でも思うところがあったようで、売りつけた商人に対しての怒りが爆発していた。

「兄さん! あんがとよ! 俺の最近のモヤモヤもこれでスッキリするぜ! 今から落とし前つけに行ってくるぜ! クロエちゃん、勘定ここに置いとくよ! 待ってろよ、あのくそ商人め!」

 男はそう言うと剣を握りしめて外へと出ていった。
 
 
 
 
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