鑑定能力で恩を返す

KBT

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第一章

平和な日常

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 《鉄のロングソード》
 鉄で出来たロングソード。
 相場10000ルーク。

「このロングソードは6000ルークでの買取になるけど、いいですか?」

 サトは店のカウンターに置かれた1本の剣を見て、鑑定相場から買取値を告げた。
 しかし、客の男は渋い顔をしながら考え込んでいた。

「な、なぁ。もう少し何とかなんねぇか?」

「バァラダさん……そう言われてもこれが精一杯だよ。ただの鉄の剣だよ? これでも他の店よりは高く買い取ってるんだから」

「そりゃ、わかってるよ。でも、今日中に10000ルーク必要なんだ。どうにかなんねぇか?」

 拝むように頼み込む鎧の大男にサトも頭を悩ませた。
 バァラダはロンメル商店の常連であるが、いつも金に困っていて買取額の増額を頼んでくる困った客でもあった。
 相場を超えた買取は店の不利益に繋がるだけでなく、ハメルン領内の価格相場の変動に繋がるため、価格を大幅に変えることも出来ないのだ。

「これ以上は無理。他に何かないの?」

「そう言われてもよぉ。後はこんな石ころとか、木の枝とかしかねえよ」

 バァラダは背負い袋をひっくり返して中身をカウンターの上にばら撒いた。
 いくつかの石と木の枝がカウンターの散乱していた。
 その行為に呆れ顔になりながらも、サトは石と木の枝を見る。
 
 《石》
 ただの石。価値はない。

 《石》
 ただの石。価値はない。

 《枯木の枝》
 枯れた木の枝。火起こしに使える。
 相場10ルーク。

 《宝石の原石(115g)》
 青味を帯ない良質な緑色のエメラルドの原石。
 相場23000ルーク。

「おおっ! バァラダさん! この石なら高く買うよ。これは宝石の原石だよ! 重さは……115gだから16000ルークでどうだい?」

 原石を秤に載せたサトが値段を提示すると、バァラダの表情は一気に晴れやかになった。

「ほ、本当かっ! 売る売る! 助かるぜ! ありがとよ、サト! またよろしく頼むぜ!」

 バァラダは厳つい顔を笑顔に、22000ルークを受け取ってから帰って行った。
 
「やれやれ、相変わらず忙しない人だな。しかし、エメラルドの原石か。価値があるから思わず買っちゃったけど、まずかったかな? ウチじゃ宝石の加工は出来ないし……組合にでも持ち込んでみるか」

 組合とは共同の利益を守るために運営される組織体である。
 公都ハメルンともなれば様々な職業の組合があり、ロンメル商店は商業組合に属している。
 個人の店では扱いきれない大物取引や都における流通の管理などを行なっている。
 また商店間の仲卸もやっているため、不良在庫や扱いきれない品を買い取ってくれるのだ。
 ただし、相場よりかなり安く買い叩かれてしまう。

「まぁ、いいか。しばらく置いといて売れなかったら持ち込もう。価値があるからって何でも買い取るのは駄目だな。商売って難しいなぁ」

 サトは宝石の原石を見ながら商売の難しさをヒシヒシと感じた。
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