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第一章
真意
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「この剣が……我がアルヴォード家に伝わる名剣ベトリューガーがナマクラだと、貴様はそう言うのだな?」
ミネルバァ嬢の顔は険しくなり、般若のようになっていた。
それでもサトは怯まずに応じる。
「はい。こちらの剣はミスリルのメッキ加工が施されただけの紛い物。ミスリル加工の量も極めて少なく、元になった鉄の剣の状態も悪いので、ほとんど資産的な価値はありません」
「ほぅ……そこまで言うか。しかし、貴様はさっき『価値がある』と言っていなかったか?」
「はい。申し上げしました。人の価値観は十人十色、個人によって違います。そこには資産価値は関係ありません。ミネルバァ様がこの剣を大事だと仰るので、価値があると申し上げました」
サトの説明にミネルバァはピクッと眉を顰めた。
「なるほどな。では、資産価値とやらについて聞こう。なぜこれがメッキだと?」
「まずは重すぎること。ミスリルの剣がこんなに重いわけありません。更に構えればわかると思いますが、バランスが悪過ぎます。これは剣の重心がズレているからで、ミスリルを扱うほどの名工がこんなミスをするわけありませんよ」
「だが、剣自体はナマクラだとしても、この剣は我がアルヴォード伯爵家の初代当主が使った剣だ。その辺りに歴史的価値とやらは含まれないのか?」
ミネルバァが挑発するような顔でサトに迫った。
しかし、サトは動じない。
「失礼ながら……それは嘘ですね」
「なんだとっ! 貴様は私が食言を吐いたと言うのかっ!?」
ミネルバァはサトの胸ぐらを掴んで、迫ってきた。
殺意にも似た眼で睨みつけるミネルバァだったが、サトはその眼を真っ直ぐに見つめ返した。
「その通りです。ミネルバァ様は私達に演技をなさっています。理由をお聞きになって、納得できなければお好きなように処罰していただいて結構です」
「うっ……い、いいだろう。聞こうではないか。だが、納得できなければその首ないものと思え」
ミネルバァはサトから手を離して、椅子に座り直した。
「ありがとうございます。では、理由を説明させていただきます。先ずはこのミスリルメッキの剣。私はつい最近見たのです」
「……続けろ」
「酒場のハンターが持っていました。高い剣だと言っていましたが、やはり違和感があったようです。鑑定後に憤慨して売主のところに猛抗議しに行かれました」
「その剣が似ていただけかもしれんぞ。この剣は昔から……」
「それはあり得ません。この剣は最近新造された物です」
「な、何故わかる?」
サトは鞘をミネルバァに差し出した。
「この鞘です。この剣に合っていないんですよ。いわゆる『鞘当り』ですね。これは錆や変形の原因になりますので、もし、これが昔のものならとっくに剣自体に損傷が出ていますよ。ミスリルとはいえ、拵えは鉄ですからね。それに数々の戦場を駆け抜けた人がこんな粗雑な鞘を使うはずありません」
「うっ、むぅぅ……」
ミネルバァは眉を顰めただけで、何も言わなかった。
「それとミネルバァ様はご存知のはずです。この剣が名剣でないことを」
「根拠は?」
「ミネルバァ様は剣の達人とお見受けします。そんな方が剣の良し悪しがわからないわけありません」
「わ、私が剣の達人? お世辞にしても無理が……」
「これでもハンター達を相手に商売をしております。手や動き方を見れば、それなりにわかるものですよ。後ろのメイドの方もかなりの達人でしょう? そんなに隙のなく構えられたら、離れていても分かりますよ」
「っ!」
ミネルバァの背後で警戒していたアメリアは驚いて眼を見開いた。
「……なるほど。どうやら私の負けのようだな。潔ぎよく……」
「にぁああああああん! 最高っ! ねえ、君っ! 私とつがいになる気はないかにゃぁ!」
ミネルバァを突き飛ばし、剣を蹴飛ばして猫獣人のアメリアがカウンター越しにサトに抱きついた。
ミネルバァ嬢の顔は険しくなり、般若のようになっていた。
それでもサトは怯まずに応じる。
「はい。こちらの剣はミスリルのメッキ加工が施されただけの紛い物。ミスリル加工の量も極めて少なく、元になった鉄の剣の状態も悪いので、ほとんど資産的な価値はありません」
「ほぅ……そこまで言うか。しかし、貴様はさっき『価値がある』と言っていなかったか?」
「はい。申し上げしました。人の価値観は十人十色、個人によって違います。そこには資産価値は関係ありません。ミネルバァ様がこの剣を大事だと仰るので、価値があると申し上げました」
サトの説明にミネルバァはピクッと眉を顰めた。
「なるほどな。では、資産価値とやらについて聞こう。なぜこれがメッキだと?」
「まずは重すぎること。ミスリルの剣がこんなに重いわけありません。更に構えればわかると思いますが、バランスが悪過ぎます。これは剣の重心がズレているからで、ミスリルを扱うほどの名工がこんなミスをするわけありませんよ」
「だが、剣自体はナマクラだとしても、この剣は我がアルヴォード伯爵家の初代当主が使った剣だ。その辺りに歴史的価値とやらは含まれないのか?」
ミネルバァが挑発するような顔でサトに迫った。
しかし、サトは動じない。
「失礼ながら……それは嘘ですね」
「なんだとっ! 貴様は私が食言を吐いたと言うのかっ!?」
ミネルバァはサトの胸ぐらを掴んで、迫ってきた。
殺意にも似た眼で睨みつけるミネルバァだったが、サトはその眼を真っ直ぐに見つめ返した。
「その通りです。ミネルバァ様は私達に演技をなさっています。理由をお聞きになって、納得できなければお好きなように処罰していただいて結構です」
「うっ……い、いいだろう。聞こうではないか。だが、納得できなければその首ないものと思え」
ミネルバァはサトから手を離して、椅子に座り直した。
「ありがとうございます。では、理由を説明させていただきます。先ずはこのミスリルメッキの剣。私はつい最近見たのです」
「……続けろ」
「酒場のハンターが持っていました。高い剣だと言っていましたが、やはり違和感があったようです。鑑定後に憤慨して売主のところに猛抗議しに行かれました」
「その剣が似ていただけかもしれんぞ。この剣は昔から……」
「それはあり得ません。この剣は最近新造された物です」
「な、何故わかる?」
サトは鞘をミネルバァに差し出した。
「この鞘です。この剣に合っていないんですよ。いわゆる『鞘当り』ですね。これは錆や変形の原因になりますので、もし、これが昔のものならとっくに剣自体に損傷が出ていますよ。ミスリルとはいえ、拵えは鉄ですからね。それに数々の戦場を駆け抜けた人がこんな粗雑な鞘を使うはずありません」
「うっ、むぅぅ……」
ミネルバァは眉を顰めただけで、何も言わなかった。
「それとミネルバァ様はご存知のはずです。この剣が名剣でないことを」
「根拠は?」
「ミネルバァ様は剣の達人とお見受けします。そんな方が剣の良し悪しがわからないわけありません」
「わ、私が剣の達人? お世辞にしても無理が……」
「これでもハンター達を相手に商売をしております。手や動き方を見れば、それなりにわかるものですよ。後ろのメイドの方もかなりの達人でしょう? そんなに隙のなく構えられたら、離れていても分かりますよ」
「っ!」
ミネルバァの背後で警戒していたアメリアは驚いて眼を見開いた。
「……なるほど。どうやら私の負けのようだな。潔ぎよく……」
「にぁああああああん! 最高っ! ねえ、君っ! 私とつがいになる気はないかにゃぁ!」
ミネルバァを突き飛ばし、剣を蹴飛ばして猫獣人のアメリアがカウンター越しにサトに抱きついた。
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