鑑定能力で恩を返す

KBT

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第一章

市との遭遇

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 市民街の裏通りを真っ直ぐに進むと、少し開けた広場がある。
 市はそこで開かれていた。
 広場を取り囲むように行商人達が各々の場所に店を構えている。
 地面に敷物を敷いて商品を並べる者、運んできたであろう荷車をそのまま売場にする者、屋台をしっかり構える者と様々だが、並んでいる商品はもっと様々であった。
 動物や魔物の毛皮、爪、牙などの素材に剣や槍などの武器、鎧や盾などの防具が並ぶ店は現代日本では見られない光景だ。
 おまけに回復薬と謳った粗悪品や水増し薬まで平然と並べられている。
 この世界では法が守ってくれるのは最低限の事だけで、後は自己責任がほとんどであり、粗悪品が販売されていようとそれが咎められる事はない。
 ただし、麻薬だけは別である。
 麻薬は国家を衰退させ、滅亡に繋がる危険な物として製造、所持、使用に関わらず全て死刑となっている。
 個人の生命が理由ではなく、国家の衰退が理由なあたりも現代とは違ったところだろう。

「はぁ、凄い人だな。売り手も買い手もこんなにいるとは思わなかったな」

 サトは目の前に広がる人の海に気圧されていた。
 円形の広場を囲むように並ぶ売り手とその間を行き交う買い手の波が絶えず起こっている。
 荷物を持っている人も多いので広場はぎゅうぎゅう詰め状態である。

「この中を歩くのは嫌だな。とりあえず店の並びに沿ってぐるっと回ってみるか。気に入った物があれば買えばいいし、なかったら……」

「よお! そこの兄さん! 駆け出しのハンターかい? だったらウチで装備を買っていかないか? 一式揃えて格安で売ってやるぜ」
 
 軽薄そうな中年男がサトに声をかけてきた。
 
「装備一式とは随分と剛気だね。どんな装備なんだい?」

「兄さん、よく聞いてくれた! 実はある有名なハンターが引退するってんで譲り受けた一級品! なめしたグレートボアの皮を贅沢に使った革装備だ! 鎧に帽子、籠手、ベルト、脛当てまで全部付いて、20万……今なら特別10万ルークだっ! お買い得だぜ!」

 男はマネキンのような木の人形に付けられた装備を自信満々にアピールしてきた。
 サトがそれを見ると脳裏に言葉が浮かんでくる。

 ウッドピッグの装備
 森に生息するウッドピッグの皮をなめした革を使った装備。
 ウッドピッグの皮自体にそれほど強度がないため、防御力は低い。
 新品だが、所々に雑な製作による傷がある。
 装備一式の相場 5万ルーク。

 男の説明と鑑定との差にサトは思わず苦笑し、その場を立ち去った。
 男もしつこく追いかけてくる事はなく、他の客に同じような説明をしている。
 あの男が騙しているのか騙されているのかはわからないが、市には不埒な輩もいる事をサトは学んで、市の中を見回った。


 
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