鑑定能力で恩を返す

KBT

文字の大きさ
53 / 155
第一章

落城

しおりを挟む
 頭上に黒い炎の塊を浮かべるエレンと身体の周りに白い水を渦巻かせるサト。
 2人は互いに動揺していた。

「白い水……サト様。まさか、貴方が神術の遣い手とは知りませんでした」

 エレンは平静を装いながら、そう切り出した。
 サトはその言葉をしっかり受け止めるように、力強い視線をエレンに返した。
 その姿にエレンは自身の胸が少し熱くなるのを感じる。

『神術は神の奇跡とも言われる秘術中の秘術。神術に比べたら聖騎士の光魔法も教会の聖魔法すら霞んで見える。とうに絶えた技術だと思っていたけど……それにしても凛々しく堂々とした姿、ちょっとカッコいいなぁ』

 乙女心を騒つかせるエレン。
 しかし、サトの方は何も語らずただ平然としているだけだった。
 そこにすかさずロンメルが入り込む。

「黒い炎と白い水か。随分と相反するものじゃな。しかし、神術とは驚いたわぃ。エレンさんや。これを見てもサトが呪術を使う姑息な輩の一味と言うつもりかのぅ?」

「……確かに。神術の遣い手があの外道共と結託しているとは思えませんね」

「ならば……」

 ロンメルは期待を込めて歩み寄ろうとしたが、エレンはそれを手で制した。
  
「それでも! 納得出来る理由を教えてくださらなければ私の心は収まりません! 私の人生をめちゃくちゃにした奴等への復讐心はそんな簡単に消えないのです! だから、私は敵じゃないって、私は味方だって納得させてください! お願いします!」

 エレンの両の眼に涙が浮かんでいた。
 自らを苦しめた者達に対する怨嗟。
 自らを助けてくれた人達への感謝。
 奴等の仲間だと思う猜疑心。
 自分の味方だと感じる信頼。
 敵への悪意と味方への好意。
 相反する感情がエレンの心の中で鬩ぎ合って、平常心さを奪って行く。
 涙はポロポロと流れ始め、徐々に溢れ始める。

「……お、お願いします」

「むぅ……これは困ったのぅ」

 答えに困窮するロンメル。
 その横にサトはスッと並んで、一呼吸置いた後に口を開いた。

「エレオノーラ・ヴァン・ユラーク」

 その言葉はエレンとロンメルの間を衝撃となって駆け抜ける。

「わ、私の真名を……」

「サ、サトっ! それは……」

「いいんです。これ以上苦しめるのは俺の本意じゃありませんから。エレンさん、勝手に真名を覗いたことを謝ります。すいませんでした」

 サトは深々と頭を下げた。
 エレンは困惑した。
 自分の真名が知られている事もだが、それ以上に白い水を纏い、礼節を弁えるサトを近くで見た事で胸の高鳴りが一層激しくなったからだ。
 エレンは顔まで熱くなるのを実感し、慌てて顔を逸らした。

「あ、頭を上げてください! その……覗いたと言うのはどういうことでしょうか?」

「俺の能力です。俺は鑑定能力かんていスキル持ちなんです」

「か、鑑定能力かんていスキルっ! あの超希少能力が実在するなんて……でも、聞いておいて何ですが、良ろしかったのですか? そんな重要事項を話してしまって? 私の真名を知っているなら命令すれば……」

「命令で言うことを聞かせるなんて無粋な真似はしたくありません。それに」

 しっかりとした信念を語るサトに更にエレンの心は昂る。
 しかし、それでもなんとか平静を保った。

「そ、それに?」

「エレンさんはきっと内緒にしてくれますから」

「っっっっっっっっ!」

 サトはそう言って笑った。
 そして、その笑顔で落城寸前のエレンの心は完全に堕ちたのだった。

 
 
 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移! 幼女の女神が世界を救う!?

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
アイは鮎川 愛って言うの お父さんとお母さんがアイを置いて、何処かに行ってしまったの。 真っ白なお人形さんがお父さん、お母さんがいるって言ったからついていったの。 気付いたら知らない所にいたの。 とてもこまったの。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...