鑑定能力で恩を返す

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第一章

奴隷解放制度

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 サトは重たい表情でテーブルについていた。
 目の前の席にはいつもと変わらぬロンメルが座り、朝食をとっている。
 そして、そのテーブルの横には澄ました顔のエレンが立っていた。
 
「うむ、エレンさんの飯は美味いのぅ」

「ありがとうございます。ロンメル様」

 ロンメルの称賛にスッと頭を下げるエレン。
 確かにエレンの料理は美味かった。
 これまでサトもロンメルも食事に関しては才能がなく、食事は簡単に済ませるか隣にある《歌う花嫁亭》に頼る事が多かった。
 しかし、エレンのお陰で自炊という選択肢が増えたのである。
 これは確かに喜ばしい事であった。

「サト様? お口に合いませんか?」

「なんじゃ? 朝から張り切ったから疲れておるのか?」

 エレンの不安げな表情とロンメルのニヤニヤとした表情を交互に見ると、サトは一層複雑な気持ちになった。

「エレンさんの料理は美味しいですよ。それとロンメルさん、俺は何もしてませんから!」

「隠さんでもええんじゃぞ? 無理強いはいかんが、奴隷と合意の上であれば何も問題はないわぃ。実際その目的で奴隷を買う者もおるしな」

「そんな奴らと一緒にせんでください! 俺には権力で女性をどうこうしようというような浅ましい考えはありません」

 サトは遠くなりつつある現代日本での生活を思い返していた。
 上司というだけで無理難題を押し付けてくる馬鹿に対する腹立たしさを今でもはっきり覚えていた。
 だからこそ、サトはエレンに対しても奴隷という立場だけで何かを強要するような事はしたくなかったのである。

「エレンさん、やっぱり給金を……」

「サト様。身に余る光栄とは思いますが、それは辞退させてくださいませ」

 そう言ってエレンは深々と頭を下げた。
 これは幾度となく繰り返された光景でもあった。
 呪いの誤解が解けた後、エレンはサトの奴隷として生きることを誓約したが、サトはそれを良しとしなかった。
 むしろ奴隷という立場からエレンを解放をしようと思っていたが、それには正式な手続きが必要であり、また奴隷であるエレン自身の承諾が必要だった。
 何故なら奴隷であれば主人によって衣食住が保障されるが、解放されれば無一文で路頭に迷うだけだからである。
 それによって生活能力のない元奴隷達が街中に溢れると治安の悪化に繋がるため、王国は奴隷を解放する際には双方の合意と奴隷に一時金を支払う事を奴隷解放制度で定めていた。
 サトは自身の金で仕入れた魔剣などを売ることで一時金にしようとしたが、肝心のエレン自身が奴隷解放を拒否した事で解放出来なくなり、せめて労働の対価としての給金を支払おうとしたが、それも拒否されたのである。
 
『命の恩人に奉仕するのは当然であり、衣食住を保障していただいているだけで十分です。これ以上対価を得るなどもっての外です』

 そう言って頑なに拒否したのである。
 結果として望まぬ形でエレンを働かせているので、サトは不満なのだった。
 そして、更に困ったことが今朝のアレである。
 エレンはサトに執拗に性奉仕をしようとするのだ。
 別にサトも女性が嫌いなわけではないし、経験がないわけでもない。
 ただ自分が納得できない事はしない。
 サトはそういう性格だった。
 
 
 

 
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