鑑定能力で恩を返す

KBT

文字の大きさ
55 / 155
第一章

新しい朝が来た

しおりを挟む
 今の時期、ブロディア王国の公都ハメルンは穏やかな気候が続いていた。
 空は晴れ、心地よい風が街をゆっくり抜けていく。
 そんな朝は誰にとっても起き難く、二度寝には最高の環境だ。
 そして、サトにとってもそれは例外ではない。
 目覚まし時計の金切り声に急かされることなく、サトは己が布団の温かさに身を委ねていた。

「起きてください。サト様、起きてください」

 幸せな朝の微睡みの中、それに相応しい優しい声がサトの耳に届く。
 だが、声は優しくとも内容は厳しい。
 サトは頭まで布団を被って抵抗を試みる。

「まぁ、困りました。では、仕方ありませんね」

 優しい声はそう言って撤退を始めたようだ。
 サトはそう思いながら布団の砦に籠城を決め込んだ。
 しかし、その砦に侵入する者がいる。
 布団の囲いの一部を突破して、サトの身体を端に追いやってくる。
 なんと強引な手法か。
 サトは必死に押し返そうと抵抗を試みるが、あろう事か侵入者はサトの身体の上に覆い被さってきた。
 柔らかな2つの感触がサトの胸に当たる。
 一体なんだこれは?
 サトは寝ぼけた頭で必死に考えるが、機能低下した脳は答えを導いてはくれなかった。
 今度は顔に何か柔らかい毛のような者がフワリとかかる。
 本来なら不快な筈だが、その毛からはとてもいい香りがするので、むしろ気持ちが和らいだ。
 しかし、和らいだ気持ちもそこまでだった。

「起・き・て・く・だ・さ・い。サ・ト・様」

「っ! うわぁあああ!」

 サトは耳を撫でるような声に素っ頓狂な声を上げた。
 だが、反射的に起きようとした上体は起き上がらず、開いた眼には衝撃の映像が飛び込んできた。

「おはようございます。サト様」

 サトの眼に半裸状態の絶世の美女、エレンが身体の上に跨っている姿が飛び込んできた。
 自分の布団を頭まで被っているだけで、衣服を纏っておらず、その妖艶な美貌を遺憾無く発揮している姿は禁欲状態だったサトには刺激が強すぎた。

「エ、エレンさん! な、何をっ!?」

「はい。サト様が起きてくださらないので、私もご一緒しようかと。でも、朝の仕事で汚れた服を着てはお布団を汚してしまうので、脱いじゃいました」

「ぬ、脱いじゃいましたって……と、とにかく服を……」

 サトは顔を逸らしたが、強烈な映像は脳裏に焼きついており、眼を閉じても瞼の裏に浮かんで来る。
 更に言うなら柔らかな感触は未だにサトの身体に触れているのだ。
 これは消えようがない。

「ですが、朝の御奉仕も必要かと……」

「い、いいです! っていうか、朝も昼も夜も奉仕はいいですから!」

 そんな2人のやり取りの間をガチャっという音が割り込んできた。

「騒がしいのぅ。何をやって……」

 サトの部屋の扉を開けたのはロンメルだった。
 しかし、ロンメルは部屋には入らず、『すまん』の一言を残して再び扉を閉めた。
 廊下からは遠ざかる足音だけが聞こえてくる。

「……御奉仕します?」

「しなくていい! っていうか、ロンメルさんも! 変な気を遣わないでください!」

 サトの雄叫びと共に新しい朝がやってきたのだった。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移! 幼女の女神が世界を救う!?

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
アイは鮎川 愛って言うの お父さんとお母さんがアイを置いて、何処かに行ってしまったの。 真っ白なお人形さんがお父さん、お母さんがいるって言ったからついていったの。 気付いたら知らない所にいたの。 とてもこまったの。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...