鑑定能力で恩を返す

第一章

新たなる日常

「じゃあな、サト！　また頼むぜ！」

　笑みを浮かべながら店を出て行くバァラダを、サトは苦笑しながら見送る。
　
「やれやれ、相変わらずだな。さて、ビーンフロッグ1キロを500ルーク、鉄の斧を7000ルークで買い取ったけど……」

　サトは買い取った品を改めて見た。
　すると、脳裏に言葉が浮かんでくる。

《ビーンフロッグ》
　成熟すると殻からピョンと飛び出る事から蛙豆ビーンフロッグと呼ばれている。食用可。栄養価は高いが、ボソボソしていて味は良くない。
　相場　1キロ　550ルーク

《鉄の斧》
　鉄製の斧。
　相場　8500ルーク

「うーん、これじゃあ手間賃で赤字だな……まだまだだな。」

　サトはため息を漏らした。
　この世界に来て数ヶ月、サトは時々、鑑定能力かんていスキルに頼らずに買取りをしていた。
　鑑定能力かんていスキルは便利であるが、あまりに正確すぎる鑑定をしていると周囲から怪しまれかねない。
　多少の損は構わないからとロンメルに言われて、自分の眼で鑑定しているのだった。

「流石に完璧とはいかないか。まぁ、大損じゃないからいいさ」

　サトは鉄の斧の手入れに入った。
　汚れを落として、刃を砥ぐ。
　接合部の緩みや歪みがないが確認しながら、丹念に磨く。
　その背に熱い視線を受けながら。

「あの……エレンさん？」

「はっ！　す、すいません！　サト様が素敵すぎて……お掃除を続けます」

　あの決闘騒ぎ以来、エレンはサトに性的な奉仕をしようとする事はなくなっていた。
　今みたいに時々ボーッとサトを見ている事はあるが、家事や店の手伝いなどを積極的にするようになっている。
　サトはその事に対して疑問はあったが、半ば安心もしていた。
　なんせエレンは絶世の美女である。
　ダンピールである彼女の美貌はサトが今まで出会った女性の中でも一番だった。
　おまけにスタイルが良く、豊満な胸、くびれた腰、ハリのあるお尻にスラリとした足。
　ここまで揃っている女性に迫られたら男性であれば抗うのも難しい。
　陥落寸前だったサトには今のままの方が有難いのだ。
　
「性欲を満たすために奴隷を買ったと思われるのもなぁ……」

「はい？　何かおっしゃいましたか？」

「い、いや！　いいんだ。それより今日は客が少ないね。何かあったのかな？」

　慌てて取り繕うサトに首を傾げながらも、エレンは思い出したかのように話し始めた。

「今週はダンジョン改あらための日ですから。それでハンター達も休んでいるのではありませんか？」

「ダンジョン改？　なんだい、それは？」

　サトは聞き覚えのない言葉に首を傾げた。

「ダンジョン改は貴族や騎士達が犯罪者や無法者がダンジョン内に隠れていないかを調査する事です。ダンジョン内は魔物に事欠きませんし、複数人で上手くやればアジトにする事もできますから」

「色々考えるものだな。なるほど、バァラダさんの買取品がいつも以上に少なかったのはそのせいか」

「ダンジョン外では、魔物の量も異なりますし、素材の質も落ちますから、仕方ありませんよ」

「そうか。なら、ちょうどいい機会だ。今日は色々試してみるとするか」

　サトは魔剣テラーヴァイトを取り出して、手入れを始めた。