鑑定能力で恩を返す

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第一章

静かな闘志

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 魔力が枯渇し、ただの古い剣にしか見えない魔剣テラーヴァイト。
 サトはそれをカウンターに置き、用意していた風の魔石を押し当てるように近づけていった。
 その姿にエレンの表情が曇る。

「あの、何をなさっているのですか? 古い剣に魔石を当てても何もなりませんが……」

 はたから見ればサトの行動は珍妙極まりないだろう。 
 わかりやすく言うなら、今のサトは切れなくなった刃物に電池を押し当てているようなものだ。
 エレンからすれば気が触れたと思っても仕方ないところだ。

「ん? まぁ、見ててくれ」

 不安げな顔のエレンに目もくれず、サトは風の魔石をテラーヴァイトに押し当て、魔力を集中させた。

「魔力の息吹、ここに魔覚めよ」

 サトの詠唱のような言葉に反応して魔剣はガタガタと独りでに動き始め、そして風の魔石からは風が巻き起こり、どんどん魔剣に吸い込まれていく。
 それは時間にすればみじかあものであったが、エレンの度肝を抜くには十分だった。

「い、今のは一体……」

「よし! 成功だ! おおおっ! いいね、このフォルム。厨二心をくすぐってくるじゃないか」

 対照的な反応をする2人の視線の先には真新しい剣があった。
 剣身はキラリと輝いて一点の曇りもない。
 鍔の中心には緑色に輝く魔石が光を放つかのように、見事な光沢を保っている。
 そこには先程までの古い剣の面影は微塵もなかった。

「まさか……魔剣? サ、サト様は魔剣を造る事が出来るのですかっ!?」

「造る事は出来ないよ。ただ、魔剣の魔力が枯渇してたから魔力を吹き込んだだけさ」

 サトの軽い口調にエレンは困惑した。
 自分は今、とんでもない物を見たと。

「ふ、吹き込んだだけって……サト様? 魔剣の魔力は枯渇すれば使い捨てが常識なんですよ? それを吹き込むなんて、それは今では失われた技術なんです」

「えっ? でも、枯渇してるだけなんだから足せばいいだけでしょ? 魔剣の息吹を感じて、そこに同属性の魔素の流れを持っていけば……」

「そ、そんな……そんな事が……」
 
 サトにしてみれば魔導の叡智の一端でしかない知識だが、今を生きるエレン達にとっては魔導の最先端技術である。
 魔法に造詣が深いエレンにとっては驚愕の事実であった。

「と、とにかく……サト様が凄い方だという事を改めて認識致しました。私見ですが、鑑定能力かんていスキル同様、この事も公にはなさらない方がよろしいかと思います」

「そ、そう? エレンさんがそう言うならそうするよ。ありがとう、エレンさん」

「勿体ないお言葉です。ですが、私の事はエレンで結構です」

「そ、そう言われてもなぁ……」

 サトはこれまでもエレンからは敬称は不要と言われていたが、どうにもサラリーマン時代の癖から敬称を付けないことに違和感があった。
 しかし、ここは異世界であり、主従関係上で上の者が下の者に敬称を付ける方が異端である。

「私はサト様の奴隷です。奴隷に敬称を付けていては主人であるサト様の名に傷がつきます」

「俺の名前に傷がついても気にしないんだけど……」

「サト様……では、保護者であるロンメル様の名にも傷がつくとしたら?」

「うっ、それはマズい……じゃ、じゃあ……エ、エレン?」

「はいっ! サト様!」

 エレンは絶世の美貌を惜しげもなく発揮し、満面の笑みを見せた。
 サトはその極上の微笑みで一気に恥ずかしくなり、それを誤魔化すように真新しい姿のテラーヴァイトを磨いた。
 だからこそ、エレンの策謀に気が付かなかった。

『エレン……サト様……ふふふっ、これで一歩前進ね。あの泥棒猫アメリアなんかに私のサト様を盗られてたまるもんですかっ!』

 そう、あの決闘以降も2人の戦いは静かに続いていたのである。
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