鑑定能力で恩を返す

第一章

御入用

「っ！」

　エレンは己の第六感ともいえる超感覚反応にビクッと身体を震わせた。
　そして暫しの思索の後に、スッと店の扉横に壁に沿う様に立った。
　その姿にサトもロンメルも何をしているのかと首を傾げるばかりだった。
　
「あの……エレンさん？」

「すいません、サト様。しばらくここに立たせて頂いてもよろしいでしょうか？」

「そ、それは構いませんが……」

　サトが理由を尋ねようとした時、それは少しずつ響いてきた。

　……ォォォオオドドドドドドドッ！

「こ、この音は……」

「間違いなくアレッシオじゃな。やれやれ、という事は来るのは誰かわかったのぅ。そして、エレンがそこに立っておる理由もな」

　地鳴りの如く響いてくる重低音が近づいて来る。
　すでに近隣の人達も心得たもので、土煙を防ぐためにバタンバタンと窓や戸を閉め始めていた。
　
「ウルァアアアアアアアア！」

　けたたましい雄叫びを上げながらそれはロンメル商店の前で派手なドリフトをかまし、土煙を巻き起こしながら止まる。
　そして一瞬の静寂の後、バンッと音を立てて店の扉を勢いよく開ける者がいた。

「うにゃああ！　旦那様！　貴方の愛しのアメリアちゃ、ぶべっ！」

　両手を広げるようにして勢いよく扉を開けたアメリアの顔に閉まる扉がモロに当たる。
　扉横で待機していたエレンが扉を勢いよく閉めたのだ。
　さすがのアメリアもサトに会える高揚感とエレンが気配を消していた事もあって避けきれなかった。
　
「ゴルァアア！　何してくれるにゃ！　この腹黒ダンピ！」

「あら、私は扉が迫ってきたので閉めただけですよ？　それよりダンピとは知恵のない獣らしいですね？　私はダンピールですよ」

「うるさいにゃ！　……旦那様ぁ、あの腹黒が虐めるにゃ……あいつ酷いにゃ……おでこ打ったからナデナデしてくださいにゃ……」

　涙を浮かべ、文字通りの猫撫で声でサトに迫るアメリア。
　確かに額が少し赤くなっていたので、サトは思わず額を撫でる。

「だ、大丈夫ですか？　アメリアさん。結構な音がしましたけど」

「痛いにゃ……もっと撫でてくれないと痛みが引かないにゃ……ふん？」

　サトには上目遣いで涙を浮かべている一方で、エレンには勝ち誇ったような顔をするアメリア。
　エレンが眼をつり上げ、牙を剥く。

「こ、このアバズレ猫！　なんて羨まし……い、いえ！　サト様の手を煩わせるなんて許しません！」

「うにゃあ？　怖いにゃぁ～、行き遅れるとこうも乱暴になるのかにゃあ？　まぁ、私はまだ16歳だけどにゃあ？」

「ダンピールはこの歳でも若いのよ！　この馬鹿猫！」

「なんにゃ！　やる気にゃ！？」

　数日前と同じ展開にサトは呆れて溜息を吐く。
　ロンメルに至ってはすでにカウンターで茶を飲んでいた。
　そこに凛とした声が響く。

「やめろ！　今日は戯れに来たわけではないぞ！」

　ミネルバァの声が店内に轟く。
　さすがのアメリアも主人の顔を立てて下り、エレンも相手が引いたのでサトの側に戻った。

「いらっしゃいませ、ミネルバァ様。戯れではないとすると、本日は何か御入用ですか？」

　サトが普段と雰囲気の違うミネルバァに声をかける。
　すると、ミネルバァはサトをジッと見据えてから口をゆっくり開いた。

「そう、入り用だ。そして、必要なのはお前だ。サト」

　ミネルバァの言葉にその場にいた全員が凍りついた。