鑑定能力で恩を返す

第一章

お茶

　サトが公爵より貰った家は3LDKの元商人の家だった。
　商売が失敗し、商人が夜逃げしたために公爵家が押収していたが、公爵家がわざわざ管理するような物件ではなく、状態保存の魔法をかけたまま放置されていた。
　お陰で商人が持ち運べず置いていった家財道具はそのままとなっており、すぐに住むことが出来る状態だったのはサトにとって喜ばしい事でもあった。
　だが、今は少し後悔している。
　家具がなければこんな状況になっていなかったのだから。

「さぁ、旦那様。説明してもらおうかにゃ？」

「サト様、この上ははっきり仰ってくださいませ」

「2人とも止めないか。サ、サトが困ってるだろ……」

「「なに照れてるんですかっ！？」」

　新居のリビングにある簡素なテーブルセットにサト達は座って議論を交わしていた。
　テーマは3つ。
　
「何で旦那様がこの薄汚いダンピールと抱き合ってたんにゃ！？」

「サト様、私はペチャパイじゃありませんよね？」

「サ、サト……その、なんだ……引越し祝いは何が欲しい……？」

「御主人……そんな表情どこで覚えたにゃ？」

「まるっきり恋する乙女ですね」

「ば、馬鹿を言うなっ！？　わ、私が恋などと、あるわけが……なぁ？」

　自分に聞かれても答えようがないサトは愛想笑いを返すだけだったが、それにすらミネルバァの顔を更に赤くして俯かせるには十分だった。

「ぐぬぬ……御主人にこんな一面があったなんて……余計なライバルが増えたにゃ……」

「地位と名誉を兼ね備え、さらに私には劣るとはいえ、この美貌とスタイル……この駄猫より手強いですね」

「だれが駄猫にゃ！？」

　いがみ合う2人と俯いたままの1人。
　サトはとりあえず落ち着かせようとお茶を出す事にした。

「ま、まぁ……みんな。と、とりあえずお茶でも飲まない？　これはジュリアンさんがくれた結構良いやつなんだよ」

「ふにゃ？」

「あら、虹紅茶とは珍しいですね」

「むっ……これは良い！　これは一級品の虹紅茶じゃないか？　もし、余ってるならウチにも卸してくれ」

　場の雰囲気が和んだことでサトもホッと肩を撫で下ろし、そのお茶を見る。
　すると、脳裏に言葉が浮かんでくる。

　虹紅茶（最高級品質）
　標高2000メートルの精霊力が満ちた高地で栽培されている茶葉。
　平地に降りた段階で精霊力は霧散するが、同時に深い味わいをもたらせる。
　相場　100g　10000ルーク

　最高級品の虹紅茶に満足げな3人の女性達を見てサトも安堵の表情を浮かべた。

「たまにはお茶で濁すのも悪くない……かな？」