鑑定能力で恩を返す

第一章

マイヤーハイム家

「わ、私はマイヤーハイム家で執事を務めますギャレットと申します。本日はよろしくお願い申し上げます……」

「は、はい……」

　マイヤーハイム伯爵家の屋敷の前で出迎えを受けたサトは戸惑っていた。
　それと言うのもギャレットと名乗る執事の顔が死刑宣告を受けた人のように暗く沈んでいたからである。
　ギャレットはこの年32歳。
　伯爵家の執事を務めるにはかなり若い年齢だが、そこにはある事情があった。
　今回のマイヤーハイム伯爵家の王家に対する不敬に際し、使用人達が大量に退職を申し出たのである。
　家令も執事もメイドもコック長も辞めてしまい、残っているのは僅かな者達だけであった。
　残った中で最も地位の高い従僕長のギャレットが執事代行を務めることになったのだが、別に彼はマイヤーハイム家に残るつもりはなかった。
　上級使用人である執事はギャレットの憧れではあったが、沈む船で偉くなっても意味がない。
　自分も退職を申し出ようとしたが、残された幼い2人の事がどうしても気になってしまい、退職を申し出られないまま現在に至るのである。

「お……私はロンメル商店から参りましたサトと申します。こちらは同じくエレン。よろしくお願いします」

「ご、御丁寧にありがとうございます。で、では当家の主人の元で御案内致します。こちらへどうぞ」

「わかりました」

　豪華な門を抜けて中に入ると、そこには庭園が広がっていた。
　しかし、よく見ると所々荒れている箇所があるのが分かった。
　
「お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません。庭師も馬丁もいなくなってしまい、手が行き届いておりませんで……」

「いや、今でも十分……」

「そうですね。こんな庭ではマイヤーハイム伯爵家の名に傷がつきます。早めに対処された方がよろしいかと」

「ちょ、エレンさん！」

　サトの言葉を遮って、エレンが口を挟んだ。
　かなり失礼な物言いだったので、サトは慌てたが、ギャレットは怒るどころか申し訳なさそうな顔をするだけだった。

「仰る通りです。申し訳ありません。早急に対処する様に致します」

　立ち止まって詫びを述べたギャレットにサトが戸惑っていると、エレンが耳打ちしてきた。

「貴族は体面を気にするものです。少しでも粗があっね、それを肯定されたら、相手は侮られたと思ってしまうのです。お気をつけくださいませ」

「そ、そうなんですか？　わ、わかりました……気をつけます」

　サトは理解に苦しんだが、貴族にとって荒れた庭を見られて『これで十分』と言われるのは『お前の家には荒れた庭がお似合いだ』と言われたのと同じなのである。
　だからこそ貴族は庭や屋敷を綺麗に整えて、体面を保とうとするのだ。
　たとえ中身が伴わなくとも。