鑑定能力で恩を返す

第一章

救世主現る？

「このバカちんがぁあああああ！」

　部屋を揺るがさんとする程の大声量でミネルバァは自身のメイドを叱りつける。
　しかし、当のメイドはサトの周囲を警戒するようにグルグル回りながら感覚を研ぎ澄ませていた。

「むぅ……今のところ怪しい奴はいないようにゃ」

「こらぁあああああ！　私の話をきけぇええ！　緊急事態だと騒いで私を馬車に連れ込んだと思ったら、今度はアレッシオを暴走させよって！　説明しろ！」

「乙女の危機ピンチにゃ」

「たわけ！　私の方が危機ピンチだったわ！　第一、マイヤーハイム家には今は近づいてはならんと言っただろう。今の時期、他家の者がいてはあらぬ疑いをかけられるんだぞ！」

　マイヤーハイム家は現在公金横領につき、資産の返還を求められている。
　そこに他家の者がいれば協力者と見做され、査問にかけられる可能性もある。
　それを危惧してミネルバァはサトに同行しなかったのだ。

「アルヴォード家を危険に晒すことは出来ん。さっさと……」

「それは問題ににゃいですよ。御主人様」

　己の腕を掴んだミネルバァの手をアメリアは優しく包み込んだ。

「どういう事だ？」

「前マイヤーハイム伯爵が公金を横領した時期と御主人様がアルヴォード伯爵家を継いだ時期に重なりはないにゃ。だから御主人様が罰せられる事はないのにゃ」

「だ、だが、しかし……」

「仮にマイヤーハイム家の悪事にアルヴォード家が絡んでいたとしても、それは前伯爵。つまり、御主人様の御義父様おとうさまの所業にゃ。そして前伯爵様はすでにお亡くなりになってるにゃ。その他家から無理やり連れてこられて養女にされた挙句、当主になったから責任をとれなんて酷いことを現国王陛下は仰らないにゃ」

「うっ……」

　アメリアの言葉には一理あり、らしくない言葉もあってかミネルバァは何も言えなかった。
　サトも驚きを隠せなかったが、本来メイドとは教養に優れていなければ勤まらない重要な役割である。
　ましてや、当主付きのメイドともなればそれは上級使用人であり、エレン言うところの『駄猫』では勤まらないのだ。

「た、確かに。アメリアの言う通りだ。しかし！　乙女の危機ピンチとはなんだぅ！？　それは納得してないぞ！」

「それについては私も知りたいにゃ。説明してもらってもいいかにゃ？　サト」

　クルッと翻ってサトを見つめるアメリア。
　その表情は笑っているが、眼は決して笑っていなかった。
　サトは怯えながらもオリーヴィアの求婚の件を話した。

「け、結婚だとっ！？　オリーヴィア嬢がっ！？　そ、そんな……私だってまだなのに……」

「はいはい、御主人様。変なショック受けないでくださいにゃ。それにしてもビックリにゃ。あの子以外に大胆な事するにゃ」

「ア、アメリアさん！　相手はまだ10歳の子どもです。穏便に……」

「……旦那様は私をなんだと思ってるにゃ？　いくら何でも10歳の子に何もする気はないにゃよ。それに簡単に解決できる方法があるにゃ」

　サトの表情は一気に明るいものへと変わった。
　貴族の令嬢の求婚を無下にする訳にもいかず、途方に暮れていたからである。

「そ、それって、どうすればいいんですか！？　アメリアさん！」

　焦るサトに対してアメリアはその豊満な胸を揺らしながら胸を張って答えた。

「簡単にゃよ。私と婚約すればいいのにゃ」

「……へ？」