鑑定能力で恩を返す

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第一章

クロエ・ランベールの想い

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 商会組合とは商売を行う者や商店をまとめている国に認められた組織である。
 街や都市に支店をおいて、その商業圏内での商業取引を公正に行えるようにするのが組合の仕事だ。
 価格競争緩和や不正取引の防止、違法商品の流通阻止から仕事の斡旋、雇用主による使用人の不当就労管理まで幅広く行なっている。
 物資の流通を管理する立場であり、その影響力は絶大で、下手な貴族より実質的な権力を持っている。
 組合長は組合に属する信用にたる人物が選ばれており、俗にギルドマスターと呼ばれている。
 
「貴女がハメルン紹介組合の副ギルドマスター?」

「あのにゃ、そんな嘘をついても……」

「いや、どうやら本当のようだ。クロエの胸元に付いている徽章。あれはギルドマスターを表す物で、ギルドマスターと副ギルドマスターしか付けることは許されない。もし偽造すれば極刑すらあり得る代物だ。理由はわからんが、本物と考えていいだろう」

「信じてもらえて良かったです。私はこのハメルンのギルドマスター、ヘルマンさんの推薦により副ギルドマスターとなりました。ただ、表立っての行動はしていません。私はこの通りのか弱い美少女でしかありませんから、組合の権力を悪用しようとする輩に狙われないように正体を隠しています」

 堂々言い放つクロエにエレンとアメリアは引き攣った。

「……か弱い?」

「美少女って、よく自分で言えるにゃ……」

 自身も同様の感想を抱きながらも、話を戻そうとミネルバァが口を開いた。

「ここでその正体を明かしてよいのか?」

 自身も2人と同様の感想を抱きながら、ミネルバァが口を開いた。
 すると、クロエは首を軽く横に振ってから話し始めた。

「本当はいけないでしょうね。でも、私の商売のモットーは誠心誠意です。皆さんが真剣で話されるのに、私が偽るわけにはいかないでしょう」

 そう話すクロエの姿はいつもの無邪気な少女のそれではなく、婉容えんような淑女を思わせた。

「人族って心持ちを変えるだけでこんなに変わるものなんですね。私の長い生の中でも初めての体験です」

「やっぱり油断出来ない女だったにゃ。私の勘はよく当たるのよ」

「私も驚いた。だが、今話すべきはお前がサトをどうしたいかだ」

「好きですよ。私はこの中の誰よりも早くあの人に会っています。少し前まではちょくちょく店を抜け出しては彼の姿を覗き見していたものです」

「何故?」

「彼の仕事ぶりを見るためです。組合の副ギルドマスターとして彼がもしロンメルさんを騙して店の乗っ取りが目的なら排除しようと思ってましたから」

「そういえばサト様は元々公都の生まれではないそうですからね」

「不逞な輩がお人好しの店を乗っ取る事はよくある事にゃ」

「クロエはサトを疑っていたわけか」

 クロエはスッと頷いた。

「何処から来たのかわからない人です。警戒もしますよ。もっとも、杞憂に終わりましたけどね。真面目で温和、人柄も良くてお客であるハンター達からの評判も上々。さっき話したミノタウロスの素材の買取だって本当は全部組合で買い取る筈だったんですよ? それなのに、あのハンター達ったら『サトには恩があるから、全部は無理だ』ですって。いつも買い叩かれて商人とは仲違いする事が多いハンターがあそこまで言うとは思いませんでした。安く買って高く売るのが信条の商人としてはどうかと思いますけど、人として、これほど魅力のある方を私は知りません。私の疑惑の眼が恋慕に変わるのも無理からぬ事です」

「確かに。サト様って商売が上手いのか下手なのかわからないんですよね。買取でありえない金額付けて心配しても、ちゃんと利益は上げてるんですもの。この前のハンターさんなんか『ガラクタを金に変えてくれる』って言ってましたよ」

「本当に旦那様は人たらしにゃ。そこがいいんだけどにゃ」

「おい、全員で惚気るな……まぁ、私もそう思うがな」

 4人は表情を緩ませ、愛しき人の姿を思い出した。

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