鑑定能力で恩を返す

KBT

文字の大きさ
119 / 155
第二章

エレンの災難

しおりを挟む
「えっと……うん、これで全部揃ったわね。あとは夕食の買い出しだけね」

 エレンは手提げ籠の中身をメモを見ながら確認した。
 いつもなら主人であるサトの側で仕事をしているエレンだったが、今日は買い出しのため、1人で目抜き通りの商店を回っていたのだ。
 
「さて、今日の夕食は何にしよう? サト様とロンメル様って好みが似ておられるから助かるんだけど、それだと同じものばかり食べることになっちゃうのよねぇ。たまには趣向を変えてみようかな?」

 そう言うとエレンは目抜き通り沿いにある食料品店に入った。
 ロンメル商店のある裏通り沿いにも食料品店はあるのだが、目抜き通り沿いにある店の方が商品の種類も豊富で質も良かった。
 本来なら一流ハンターや富豪、貴族が通う店だが、ロンメル商店は近頃商売が上手くいっており、懐に余裕があるため目抜き通り沿いの店で買い物をする事も多くなっていた。
 エレンは店に入るなり、慣れた様子で商品を物色し始めた。

「うーん……最近はお肉ばっかりだし、《歌う花嫁亭》に行っても、お肉料理ばっかりなのよね。まぁ、流石に裏通りの酒場では魚料理は稀だから仕方ないんだけど」

 公都ハメルンは大陸の中央部に位置するため、海からはかなりの距離がある。
 そのため新鮮な海の魚は滅多に入ってこず、たとえ入って来ても高価な値段で取引されるので、安さと量が売りの裏通りの酒場で扱えるような代物ではなかった。

「いらっしゃいませ、エレンさん。相変わらず今日もお美しいですな」

 軽い感じでエレンに声をかけて来たのは、この店の主人だった。

「お邪魔してます、フーバーさん。お魚で何か良い物は入ってませんか?」

「おっ! 魚だったらちょうどお勧めがあるよ! 実は《角マグロ》を仕入れてね。脂がのってて美味いよ!」

 《角マグロ》は沖合に生息する大型の回遊魚で、最高級の赤身として貴族にも人気の魚である。

「《角マグロ》ですか? よく仕入れれましたね。海でもかなり沖合の魚ですよ?」

「商船の護衛をしていた冒険者が、交易の途中で襲って来た《角マグロ》を氷漬けにしたのが交易品と一緒に入ってきたんだよ。だから鮮度は抜群だ! どうだい? エレンさんなら1キロ20000のところ……18000でいいよ?」

 エレンは悩んだ。
 山育ちのエレンは魚の目利きには自信がなかった。
 自らの主人であれば見ただけで全てを見通せるというのに、自分の無能さを悔やみつつ、主人の素晴らしさを再確認した。
 しばらく考えていたエレンだったが、同じ商会組合に属するフーバーがぼったくる事もないと考えて、解凍した《角マグロ》を1キロ購入した。

「ちょっと高かったけど、サト様は魚もお好きみたいだし、喜んでくれるならいいかな。ふふっ、早く帰りましょ」

 主人の喜ぶ顔を想像して、エレンは上機嫌で家路へと着いた。
 その後ろ姿を見つめる男の視線に気づかずに。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転移! 幼女の女神が世界を救う!?

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
アイは鮎川 愛って言うの お父さんとお母さんがアイを置いて、何処かに行ってしまったの。 真っ白なお人形さんがお父さん、お母さんがいるって言ったからついていったの。 気付いたら知らない所にいたの。 とてもこまったの。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...