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その5
しおりを挟む今までずっと、そりゃもう盲目的と言っても過言じゃないくらい。オレは七央の言う事に間違いはないと信じてきた。
ほら、よく『神様の言う通り』ってやるじゃん? 俺の場合『七央様の言う通り』だもんね。
そんな七央の言う通りが今、崩れ去ろうとしている。
「絶対こっち! 理央にはこのチョーカー風の可愛いプロテクターが似合うってば!!」
「嫌だよ!そんなピラピラしたの!!オレはこの、カッコイイ方が欲しいの!!」
秋さんにお奨めされたオメガ御用達の通販サイト。そのプロテクターのページを開いたまま、オレと七央は意見の相違ってヤツを戦わせていた。
だってだって!七央ってば、やたらふりふりの飾りの付いた、全然強そうじゃないものばっかり選ぶんだ。
オレは黒っぽくてカッコイイ“The!プロテクター”ってのがいいのに!!
「もぉ!どうしちゃったのさ、理央! 今まで僕が選んだ物なら、何でもはいはいって聞いてくれたじゃない!」
「そ……っ、それは、そー……だけど。でも、なんか…、これはその、ぅー………」
よくわかんないけど、なんか…。何ていうかモヤモヤするんだ。
「理央……。本当にどうしたの? 何かあった? この前の朝も変だったし……、そういえば、あの時言ってたよね? “オメガの沽券”がどうとか……」
「あ!ああぁ…あれは! も、ももも、もももうっ、かかか、解決したからっ!!」
お願い!その話は忘れて!!蒸し返さないで!!恥ずかしいからっ!!!
「……………あやしい。 理央」
「ぅ………っ」
「理央は僕に隠し事するんだ? ………そぅ、」
うう…っ。七央の泣きそうな顔……。その顔はダメだ。ズル過ぎる。自分が物凄い意地悪な奴になっちゃった気がする。
「な…七央、ごめんね。そんな顔しないでよ。オレが七央に隠し事なんか、する訳ないでしょ?」
ただ…ちょっと……恥ずかしいってだけだし……。隠し……事……じゃ、ない……よ、ね?
「じゃあ何があったのか教えて!理央が僕に話してない事。あるんでしょ!?それ教えて!!」
「そ…っ、それは………、その………」
「やっぱり僕には言えないんだ………」
「あー!!あーーっ、わ、わかった!!言う!言うから!! だから泣かな……」
「うん泣かないっ! だからはい、教えて? ね、おねがぁい。り~おっ」
「うぅ……………」
何だか騙されてない? オレ、七央にしてやられてないか、コレ!?
「ほらほら~、さっさと白状しなよー」
「うううぅぅ……………」
七央めっ!にこにことご機嫌な顔ちゃって!!
可愛いな、もおっ!
もぉもぉもぉーーっ!!
「…………という事があったの。だから、別に隠し事じゃなくて、単純にオレが恥ずかしかっただけなの!わかった?」
あのパンツ騒動とその顛末を根掘り葉掘り喋らされ、オレのHPは真っ赤だよ……。あと一突きでデスエンドしちゃいそう。んもぉ……。
「……………七央?」
どうしたの?
何で黙ってるの?
赤っ恥晒してヘロヘロなオレが可哀想だと思ってくれた……とか?
ん~? それにしちゃ何だかちょっと様子が変じゃない?
「七央…? どうしたの? 何で黙ってるの?」
それになぁに、その顔。オレ、そんなに悲しい顔した七央、見たくないよ。
「ねぇ、七央。何か言っ………」
「ーーーーー………理央」
やっと名前を呼んでくれた七央が、凄く真面目な顔をした。
「プロテクターは流星と選んで。………僕にはもう、決められない」
え………?
「な…、なんで? お、オレが文句ばっかり言ったから? だから七央怒っちゃっ…、」
「ううん。違うよ。怒ってなんかいない」
「じゃ、じゃあなんで? 一緒に選んでよ。そ、そりゃちょっと文句は言ったけど、もっと探せば、オレも七央も気に入るのが見つかるかもしれないじゃん!ほ、ほら!通販じゃなくてさ、お店に直接見に行ったり、」
「うん。そうだね。じゃあ、流星と行っておいで」
え? え? なんで?
「え…っと、じゃあ……、七央も一緒に、」
「僕は行かないよ」
いつも柔らかくキラキラとした笑顔を絶やさなかった七央。
どんな時もどこに行くにもオレの側にいてくれた七央。
何時だってオレの世界の中心で、太陽みたいに当たり前にそこにいて、オレがどんなに迷っててもちゃんと手を引いて進む路を示してくれた七央。
七央がいるからオレがいた。それがオレの中の常識で絶対に覆ることなんかない筈だ。だからこれは何かの間違い。七央が……、オレの神様が、オレの手を離す筈がない…………
「理央。もう二人っきりで会うのはやめよう」
「やだ!! 何でそんな事言うんだよ!七央はオレとずっと一緒でしょ!?これからだって変わらないでしょ!!」
「駄目だよ理央。もう一緒に居ちゃいけないの」
「ダメじゃないっ!いけなくないっ!七央が居なきゃ嫌だ!七央が居ないとオレ、何にもわからないもん!!」
無意識に七央の袖口を掴む。そうしないと七央がオレの前から消えちゃいそうで、居ても立っても居られないんだ。
「ダメ!七央が居なきゃ、絶対ダメだ!!」
「理央…………、」
「この眼鏡だって七央が選んだ!切符の買い方だって七央が教えた!駄菓子屋でクッピーラムネよりイチゴ飴の方がお得だって言ったのも七央だ!た、炭酸のジュースは理央には辛いからって、つぶつぶミカンジュースをオススメしたのも七央だし、」
「理央、」
「床屋じゃなくて美容室に連れて行ったのも七央!服だって靴だっていつも七央が選んでくれた!学食のご飯だって、学校帰りのコンビニおやつだってそうだろ!!だ、だからっ、オレっ、オオオレの全部は七央が作ったんだ!!それなのにっ!!」
「でも!! 理央は流星が好きだろ?」
「……っっ!」
「理央。………理央はね、流星を選んだよ」
「そ…、そんなの、………ズルい」
「何がズルいの? ちゃんと、理央が自分で選んだんだよ。もう、僕じゃなくてもいいの。理央には流星がいる」
確かにそうだけど。そうなんだけど…。
でも、だって、……オレ。
「理央………。あのね。子供の時間は終わったんだ。理央は、大人になったんだよ」
七央はそう言って袖口を掴むオレの手をそっと外した。
それから今まで見たことない大人の顔で、少し寂しそうに笑った。
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