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10-1.矜持
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「………………(ニマァ)」
「何見てるの?」
「えぁっ!?……何だ、お前かよ。」
「ゼミのルーチン中だってのに、随分楽しそうだね。」
「当たり前だろ。(ビシッ)こいつがあれば、どんな地獄でも乗り越えられる。」
「………狼?」
「タイリクオオカミの写真だ。綺麗な目だろ?」
「コスパが良いね。そんなに狼が好きなの?」
「いいや、少し違うな。ただ狼が好きなんじゃない。俺は狼の目が好きなんだ。ライオンや虎とは違う、あの吸い込まれる様な目がよ。」
「目?何が違うの?」
「それはな、(ピーーーーーーーッ!!ガーーーーーーーッ)」
「……えっ?」
「(ピーガーッポパピビビッピピッ)……そろそろダメか。もうちょい、話してたかったんだけどな。」
「いや、待って待って待って。今ものすんごいビープ音が…」
「それじゃ、俺行くわ。」
「いや、だからビープ音………は?」
「悪いな。もう時間みたいだ。」
「時間?交代はまだずっと先だろ?そもそも何処へ…」
「あぁ、それとこれだけは伝えとく。」
「あのさ、こっちは聞きたい事が増える一方なんだけど?てか、伝えたい事?いったい…」
「あの事故の事で、俺はお前を恨んじゃいねぇ。きっと、タケルやアカネもそうだ。」
「なっ……!?お前…なんで……」
「(サラサラ…)だから気にすんな。せっかくの異世界での第二の人生ぐらい好きに楽しめよ。」
「えっ!?ちょっ…………お前体が……」
「せっかく向こうから仲良くしてくれてんだ。そういう縁は大切にしろよ。じゃっ、またな!」
「(ガバッ)待て!ヨシミ…チ……………」
ここは山小屋。……かつての級友は何処にもいない。
「…………」
随分と懐かしい夢を見た気がする。だが、どうにも昔の記憶と食い違っている。本来、あの時に立ち去るのは私の方だった。そして、その直後………
「………(くしゃぁ)」
夢の中ではビープ音が酷かったが、あの時にどんな事を言っていたかは覚えてる。
狼は、瀕死になった仲間を自らの手で殺すらしい。その行動は、群れのためであり、何より瀕死の仲間のためだという。
当時は理解出来なかったが、今ならわかる。
臨死の苦しみは死ぬまで続き、1人で死ぬ事は寂しい。それを狼達は本能で理解しているのだ。
それは、非業の運命へのせめてもの抵抗であり、故に運命や死の恐怖に支配されないという矜持と信念が宿るあの目がどうしようもなく美しくて好きだとよく言っていた。
「……(ギリッ)」
あいつの死に様は、果たして矜持を抱けるようなものだっただろうか。いいや、決して違う。
あの時、もっと踏み込んで面会を求めていれば直ぐに理事長の嘘に気付く事が出来た。もし、病院について私が独自に調べていれば、騙される事もなかった。
私は、友人の死から目を逸らしていた。そして、あるはずもない希望にすがり……生きて欲しいという、私の我儘で友人の矜持を踏み躙る選択をしてしまった。
許されて良い訳がない。恨まれて当然だ。
助かる可能性が少しでもあるならば、生きていて欲しかった。そんな自分勝手な理由で生き永らえさせようとした自身が嫌になる。
あの白狼を助けたのは、そんな自分を少しでも肯定したかったからなのだろうか。
罪滅ぼしだとしたら……お門違いも甚だしいからな。
“「(コンコンッ)」“
おっと、客人……いや、厳密には違うか。
「(ガチャッ)いらっしゃい。」
“「(スッ)きゅっ!」"
玄関を開けると、リスが木の実を差し出している。私の患者だ。
最近、警戒が薄れたのか、こうして手渡ししてくる様になった。正直可愛い。
「ありがとう。」
“「きゅきゅっ!![先日は、妹を助けてくれてありがとうございました!!]」"
「………」
最近、こんな感じに話しかけてくる様になった。
この世界の動物は喋るのか?いや、喋るっていうか、頭に直接意味が響いて来てる感じがする。……意思疎通出来る相手は、食べ辛いんだよな。
"「キュ?[どうしました?]」"
「……いや、気にしないでくれ。」
“「キキュッ[では、これで失礼します。](タタタッ)」"
「………(クシャクシャッ)」
現実逃避は辞めよう。動物が喋る幻聴がするなんて、正気じゃない。
ただでさえ、あんな夢を見て鬱屈としている上に、精神的に相当まずい所まで来ているんだろうな。でなきゃ、話し相手に飢えているのかもしれない。
「………」
少し…ほんの少しだけでも良いから、誰かにこの胸の内を打ち明けたいな。
「何見てるの?」
「えぁっ!?……何だ、お前かよ。」
「ゼミのルーチン中だってのに、随分楽しそうだね。」
「当たり前だろ。(ビシッ)こいつがあれば、どんな地獄でも乗り越えられる。」
「………狼?」
「タイリクオオカミの写真だ。綺麗な目だろ?」
「コスパが良いね。そんなに狼が好きなの?」
「いいや、少し違うな。ただ狼が好きなんじゃない。俺は狼の目が好きなんだ。ライオンや虎とは違う、あの吸い込まれる様な目がよ。」
「目?何が違うの?」
「それはな、(ピーーーーーーーッ!!ガーーーーーーーッ)」
「……えっ?」
「(ピーガーッポパピビビッピピッ)……そろそろダメか。もうちょい、話してたかったんだけどな。」
「いや、待って待って待って。今ものすんごいビープ音が…」
「それじゃ、俺行くわ。」
「いや、だからビープ音………は?」
「悪いな。もう時間みたいだ。」
「時間?交代はまだずっと先だろ?そもそも何処へ…」
「あぁ、それとこれだけは伝えとく。」
「あのさ、こっちは聞きたい事が増える一方なんだけど?てか、伝えたい事?いったい…」
「あの事故の事で、俺はお前を恨んじゃいねぇ。きっと、タケルやアカネもそうだ。」
「なっ……!?お前…なんで……」
「(サラサラ…)だから気にすんな。せっかくの異世界での第二の人生ぐらい好きに楽しめよ。」
「えっ!?ちょっ…………お前体が……」
「せっかく向こうから仲良くしてくれてんだ。そういう縁は大切にしろよ。じゃっ、またな!」
「(ガバッ)待て!ヨシミ…チ……………」
ここは山小屋。……かつての級友は何処にもいない。
「…………」
随分と懐かしい夢を見た気がする。だが、どうにも昔の記憶と食い違っている。本来、あの時に立ち去るのは私の方だった。そして、その直後………
「………(くしゃぁ)」
夢の中ではビープ音が酷かったが、あの時にどんな事を言っていたかは覚えてる。
狼は、瀕死になった仲間を自らの手で殺すらしい。その行動は、群れのためであり、何より瀕死の仲間のためだという。
当時は理解出来なかったが、今ならわかる。
臨死の苦しみは死ぬまで続き、1人で死ぬ事は寂しい。それを狼達は本能で理解しているのだ。
それは、非業の運命へのせめてもの抵抗であり、故に運命や死の恐怖に支配されないという矜持と信念が宿るあの目がどうしようもなく美しくて好きだとよく言っていた。
「……(ギリッ)」
あいつの死に様は、果たして矜持を抱けるようなものだっただろうか。いいや、決して違う。
あの時、もっと踏み込んで面会を求めていれば直ぐに理事長の嘘に気付く事が出来た。もし、病院について私が独自に調べていれば、騙される事もなかった。
私は、友人の死から目を逸らしていた。そして、あるはずもない希望にすがり……生きて欲しいという、私の我儘で友人の矜持を踏み躙る選択をしてしまった。
許されて良い訳がない。恨まれて当然だ。
助かる可能性が少しでもあるならば、生きていて欲しかった。そんな自分勝手な理由で生き永らえさせようとした自身が嫌になる。
あの白狼を助けたのは、そんな自分を少しでも肯定したかったからなのだろうか。
罪滅ぼしだとしたら……お門違いも甚だしいからな。
“「(コンコンッ)」“
おっと、客人……いや、厳密には違うか。
「(ガチャッ)いらっしゃい。」
“「(スッ)きゅっ!」"
玄関を開けると、リスが木の実を差し出している。私の患者だ。
最近、警戒が薄れたのか、こうして手渡ししてくる様になった。正直可愛い。
「ありがとう。」
“「きゅきゅっ!![先日は、妹を助けてくれてありがとうございました!!]」"
「………」
最近、こんな感じに話しかけてくる様になった。
この世界の動物は喋るのか?いや、喋るっていうか、頭に直接意味が響いて来てる感じがする。……意思疎通出来る相手は、食べ辛いんだよな。
"「キュ?[どうしました?]」"
「……いや、気にしないでくれ。」
“「キキュッ[では、これで失礼します。](タタタッ)」"
「………(クシャクシャッ)」
現実逃避は辞めよう。動物が喋る幻聴がするなんて、正気じゃない。
ただでさえ、あんな夢を見て鬱屈としている上に、精神的に相当まずい所まで来ているんだろうな。でなきゃ、話し相手に飢えているのかもしれない。
「………」
少し…ほんの少しだけでも良いから、誰かにこの胸の内を打ち明けたいな。
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