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10-2.虚心
しおりを挟むここは廃村、この中にある壁の亀裂を潜ればカイルと出会った町外れへと行ける。
我ながら突拍子がない事は重々承知だ。だが、これ以上1人で抱え続けるのは無理そうだ。深刻化する前に何とかしたい。
とは言っても、別に根本的な解決は期待していない。気晴らし程度に雑談が出来ればそれで十分だ。
カイルはいるだろうか?もしあいつに会えたら色々と話を聞きたい。今回の目的は、あくまでカウンセリング……という名の雑談だ。だが、話の中でこの世界についてもっと色々とわかるかもしれない。もしかしたら、私自身の出自についても何か……
「(ピタッ)…………」
わかって、何になるんだ?
そもそも、私って何者なんだろう。
今まで、考えない様にして来た事だ。
あの日、あの廃ビルの地下で私は死んだ。そのはずだ。
言っちゃ何だが、生前私は輪廻転生に懐疑的だった。須く人の魂は、死ねばやがて消えるものだと思っていた。
だが、それならば、今ここで思案に耽っている私は何者なのだろうか?
前世とは容姿が似付かないし、声も違う。まず間違いなく、肉体は別人であると考えた方が良いだろう。もしかすると、前世の記憶自体が瀕死の子供の見た妄想という可能性もあるが、どうにもそれは考えにくい。そっちの方が、幾分かマシだと思うが。
こんな話がある。人は、死ぬ直前と直後で体重が僅かに減少するらしい。
それが、魂の重さではないかというものだ。
もし仮に、魂が光などと同列のエネルギーを持った質量のある物質と仮定すれば、死後に残存するそれらが何らかの理由で第三者に影響を及ぼすのかもしれない。
オカルト話においては、心霊スポットとはその魂が留まっている場所であり、生きた人間が魂に接触する事で、不調をきたすことがあると解釈される。
一見、馬鹿げた話だが、人体が生体コンピュータであると捉えるとあながち間違いでもない様に思える。
脳をハードディスク、魂を揮発性メモリーと仮定しよう。
そして、多くの魂が死と同時に揮発性メモリーの如く消滅する中、たまたま付近にある何かに魂が転写されたとしよう。
その何かが地面とかなら地縛霊、空気中を漂うものなら浮遊霊、人とか器物なら憑き物になるのかもしれない。
自我を持った人間にとってはコンピュータウイルスの如く、元々あった魂を書き換えようと掻き乱し、それが不調になる。
通常なら自我による修正が働くが、自我を形成する前の子供や死の間際の人間に転写されれば、元々あった魂にそのまま上書きされて転生が成立する。
そういう風にして、輪廻転生は成立するんじゃないかと考えていた事がある。無理矢理な所があるが、大概辻褄が合っている様に思える。
そうなると、私は前世の記憶を引き継いだ子供……という事になるのだろうか。
だが、それだと私は地球に転生する筈だ。全く見覚えのない異世界に転生するなんてことは考えにくい。魂がどうやって移動したか全くの謎だ。
それに、もう一つ問題もある。
テセウスの船という話がある。同一性の問題だ。
かつてテセウスが所有していた船は、経年劣化によって壊れ始めた。だから、壊れた箇所を新品と取り替えていった。その結果、当初の船の部品が全て交換された船が出来上がった。果たしてそれは、テセウスの船と言えるのか……という話だ。
今の私は、以前の私と同じと考えても良いのだろうか?
「…………」
いいや、そんな事は問題ではない。
この際、私の魂がこの世界に伝播した方法について言及するのは辞める。キリが無いし、証明のしようもないからどっちにしろ今は保留するしかない。
問題は、カイルの知っている私と今の私が別人ではないかという事だ。
私の魂が憑依したのが捨てられる以前からカイルと関わりのあった子供だったのならば、色々と説明が付く。
経緯は、恐らくこうだ。
この近くの町で生まれた私は、カイルと共に育った。
しかし、疫病の類によって森に捨てられた。
もはや助からないと考えられ、町の人達からは死んだものと思われていたが、実際は森であの人に救われて生き延びた。
そして、村に入るか迷っている私を見て、カイルはかつての友人と面影を重ねた。
しかし、既に死んだと思っていたから、どういう事かと疑問を抱き、街の前で会った時には思案に暮れて、後にいくつかの質問でかつての友と同一であるかどうかを探った。
そして、憑依前の子供が、たまたまアレクという名前であったため、私が名乗った事で友人がまだ生きていると考えて咽び泣いた……と、いった所だろうか。
これまで見た夢も、憑依前のアレクがカイルと将来挑みたかった冒険の日々を夢想したものだとするなら、辻褄が合う。
それってつまり、昔のアレクは……………
「…………」
そうなると、私はカイルが求めているアレクではない事になる。
私は、今のカイルにとって何者なんだろう。
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