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第三章
出迎え
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「おっ、来た来た。いらっしゃいませ~」
アキラが温泉の法被を着て、幟を立てて待っていた。
「クスクス、なあに、その格好 ? 」
「いやぁ、これがユニフォーム。毎日交代でお出迎えさ」
「似合っているというか、昭和 ?」
「これが、結構好評なんだよ。主に妙齢のご婦人方、それも
昭和に青春を過ごされた方中心だけど。
あら、ハンサムね、とか。」
「よかったじゃない ! アバンチュールがありそうね」
「ハハハ…… お客様、こちらにどうぞ」
送迎車のドアを開け、エスコートする。
美奈子がアキラの前を通って乗ろうとする時、微かに風が吹いた。
「あれ? このにおい……」
アキラは、嫌な記憶を呼び起こされる、ある匂いには敏感だ。
だが、それは一瞬ですぐに美奈子が乗り込み、ドアを閉めると消えた。
(電車の座席の近くに、タバコ吸う人でもいたのかな。
ダメだなぁ。親父が吸ってた安っぽいタバコの匂いをかぐと、
あの頃の事を思い出す。親父が毎日荒れていた頃を。
身体をこわした原因に絶対タバコもあったよなぁ……)
「こちらのお部屋になります 」
「素敵 ! 海が見える ! いいの ? こんなイイ部屋で。お金も安すぎない ?」
三階でオーシャンビュー。一般的な客室だが、海側の競争率は高い
「いやぁ、学校の友人が泊まりに来ると言ったら、
社員割引にしてくれたんだ。気にするなよ」
本当は、美奈子を誘おうとバイトが決まったときからキープした部屋で、
しかも社員割引に加えてアキラも一部負担しているのだが、それは内緒だ。
アキラとしては、来てくれるだけで、それだけの価値があるのだから。
「じゃあ、早速温泉に入っちゃお ! と、その前に、どういう予定になったの? 」
「今日は、まだそこそこお客さんいるから、夕方までは忙しくて。
夕食をお部屋に出した時に、サービス要員としてここに来られるようにお願いした。
30分くらいかな。
その後は、21時くらいまで仕事したら自由時間で、また来るよ。
さすがにこの部屋に泊まれないけど、24時まではいられるかな」
「明日は、朝食は部屋食じゃなくて、一階の大食堂。悪いけど、ひとりで頼む。
お客様を9時くらいまでに送り出したら、数時間フリーにしてもらったから、
この近くを観光 しようよ。
昼食食べたら一旦ホテルに戻るんで、荷物はホテルに預けてくれていいよ。
帰りは、今日と同じで、僕も送迎車に便乗して駅まで送る」
「フフ、旅行気分満喫しないとね」
「ああ、美奈と回りたいと思って、このあたりの観光名所とか全然行ってないんだ」
「よろしいっ ! 」
美奈子の案内終えると、アキラは先輩社員と共に、他の客対応に追われる。
ホテル前に、また一台の軽乗車が止まる。湘南ナンバーだ。
「いらしゃいませ~。ご宿泊ですね」
「あぁ、一泊でお願いしている浜田です。ここの駐車場、いっぱいのようだけど……」
「申し訳ありません。今日はまだお正月客の方で、ご観光中に預かっているお車が多くて。
すぐに裏手の駐車場に運びますので、キーをいただけけますか」
「そういうことか。」
「おいっ、上条 ! 私はお車を運ぶから、お客様の荷物をお運びしなさい」
「はいっ ! ……あれっ? 浜田先生 !」
「おう、早速会えるとは。この前見送りで聞いて、来てみたくなったんだよ。」
「そっ、そうなんですか……こ、光栄です」
「よく部屋取れましたね」
「高かったけどなっ」
「上条 ! お客様と会話しつつも、体は動かす」
「はいっ、トランクお開けします」
もわっ……トランクを開けた瞬間タバコの匂いが漂う。
(うっ、先生もこのタバコ喫うのかぁ……)
「お荷物は、このトランクだけですか ?」
「あぁ。自分で持つよ」
「いえいえ、仕事ですので。それでは、チェックインに参りましょう……」
(ふう、この前の見送りに続いて先生登場とはね。
あそこで、バイト先のこと詳しく言わなきゃよかった。
見送りに続いて、美奈が泊まりに来てるのは、バレないようにしないと……
さすがにあからさま過ぎる)
「あっ、澤井さん、いまチェックインされた浜田さん、僕の学校の先生なんですよ。
偶然ですけど。
サービスしてあげてくださいね。」
「あらそうなのぉ。女の子に続いて先生まで。ありがたいわねぇ」
「いえ、先生は本当にたまたまです。バイトの話したら、興味持っていただいたみたいで。
先生は、どちらにお泊りですか?」
「えっと……6階の桔梗ね。おひとりなのに……
あら、先生に対して失礼ね、ごめんなさい。いいお部屋なのよ」
「いや、先生独身だから……
そっか、個人情報守秘義務でしたね」
「ほんとは、担当の人以外には部屋も教えちゃダメなのよ。
教え子ということで、トクベツね。」
「はいっ、失礼しました。戻ります」
(桔梗かあ。確かテラスと露天風呂付きのだな。
部屋も12畳と次の間とかある広いやつ。
贅沢だな。まじに独身だからお金あるんだろうなぁ……
美奈にも、そういった部屋用意してやりたかった……
まあ、それは将来のお楽しみで。バイト関係なく二人のときに)
夕方、
部屋食のサービス中に、アキラは一応美奈子に伝えて警告しておくことにした。
「驚くなよ。浜田先生が来てる」
「えっ……どうして ? 」
「僕がわるいんだ。ほら、この前見送りの時にバイト先のホテル名とか
観光名所の話をしたじゃない、ペラペラと。
あれで興味を持ったみたいでさ。
先生と話すネタなんてないから、ついつい話したんだ……ごめん」
「謝らなくていいわ。そんな風になるなんて予想もつかないし。
先生も、独身で時間があるから、気まぐれなんでしょ」
(あれ ? あんまり嫌がらないな。さらっと流してる。まあ不機嫌になられるよりいいか)
「独身だけあって、いい部屋泊まってるんだ。
内緒だけど、部屋に露天風呂まである部屋だよ」
「へぇ。そんなイイ部屋、泊まってみたいわ」
「うん、大学に入ったらバイトして、一緒に泊まろ ! 」
「素敵 !」
夕食を終え、美奈子がもう一度温泉に入って戻ると、LIMEだ。
アキラではなく友介から。
「今夜、来れないかな」
「アキラくん来てくれるから、ダメ」
「ふーん。客の部屋に泊まったりしないよね」
「……」
「しないよね ?」
「12時過ぎたら来てよ」
「行かないとダメ ?」
「露天風呂がついてる部屋なんだ。見に来たら」
「気が向いたら」
「OK」
アキラが温泉の法被を着て、幟を立てて待っていた。
「クスクス、なあに、その格好 ? 」
「いやぁ、これがユニフォーム。毎日交代でお出迎えさ」
「似合っているというか、昭和 ?」
「これが、結構好評なんだよ。主に妙齢のご婦人方、それも
昭和に青春を過ごされた方中心だけど。
あら、ハンサムね、とか。」
「よかったじゃない ! アバンチュールがありそうね」
「ハハハ…… お客様、こちらにどうぞ」
送迎車のドアを開け、エスコートする。
美奈子がアキラの前を通って乗ろうとする時、微かに風が吹いた。
「あれ? このにおい……」
アキラは、嫌な記憶を呼び起こされる、ある匂いには敏感だ。
だが、それは一瞬ですぐに美奈子が乗り込み、ドアを閉めると消えた。
(電車の座席の近くに、タバコ吸う人でもいたのかな。
ダメだなぁ。親父が吸ってた安っぽいタバコの匂いをかぐと、
あの頃の事を思い出す。親父が毎日荒れていた頃を。
身体をこわした原因に絶対タバコもあったよなぁ……)
「こちらのお部屋になります 」
「素敵 ! 海が見える ! いいの ? こんなイイ部屋で。お金も安すぎない ?」
三階でオーシャンビュー。一般的な客室だが、海側の競争率は高い
「いやぁ、学校の友人が泊まりに来ると言ったら、
社員割引にしてくれたんだ。気にするなよ」
本当は、美奈子を誘おうとバイトが決まったときからキープした部屋で、
しかも社員割引に加えてアキラも一部負担しているのだが、それは内緒だ。
アキラとしては、来てくれるだけで、それだけの価値があるのだから。
「じゃあ、早速温泉に入っちゃお ! と、その前に、どういう予定になったの? 」
「今日は、まだそこそこお客さんいるから、夕方までは忙しくて。
夕食をお部屋に出した時に、サービス要員としてここに来られるようにお願いした。
30分くらいかな。
その後は、21時くらいまで仕事したら自由時間で、また来るよ。
さすがにこの部屋に泊まれないけど、24時まではいられるかな」
「明日は、朝食は部屋食じゃなくて、一階の大食堂。悪いけど、ひとりで頼む。
お客様を9時くらいまでに送り出したら、数時間フリーにしてもらったから、
この近くを観光 しようよ。
昼食食べたら一旦ホテルに戻るんで、荷物はホテルに預けてくれていいよ。
帰りは、今日と同じで、僕も送迎車に便乗して駅まで送る」
「フフ、旅行気分満喫しないとね」
「ああ、美奈と回りたいと思って、このあたりの観光名所とか全然行ってないんだ」
「よろしいっ ! 」
美奈子の案内終えると、アキラは先輩社員と共に、他の客対応に追われる。
ホテル前に、また一台の軽乗車が止まる。湘南ナンバーだ。
「いらしゃいませ~。ご宿泊ですね」
「あぁ、一泊でお願いしている浜田です。ここの駐車場、いっぱいのようだけど……」
「申し訳ありません。今日はまだお正月客の方で、ご観光中に預かっているお車が多くて。
すぐに裏手の駐車場に運びますので、キーをいただけけますか」
「そういうことか。」
「おいっ、上条 ! 私はお車を運ぶから、お客様の荷物をお運びしなさい」
「はいっ ! ……あれっ? 浜田先生 !」
「おう、早速会えるとは。この前見送りで聞いて、来てみたくなったんだよ。」
「そっ、そうなんですか……こ、光栄です」
「よく部屋取れましたね」
「高かったけどなっ」
「上条 ! お客様と会話しつつも、体は動かす」
「はいっ、トランクお開けします」
もわっ……トランクを開けた瞬間タバコの匂いが漂う。
(うっ、先生もこのタバコ喫うのかぁ……)
「お荷物は、このトランクだけですか ?」
「あぁ。自分で持つよ」
「いえいえ、仕事ですので。それでは、チェックインに参りましょう……」
(ふう、この前の見送りに続いて先生登場とはね。
あそこで、バイト先のこと詳しく言わなきゃよかった。
見送りに続いて、美奈が泊まりに来てるのは、バレないようにしないと……
さすがにあからさま過ぎる)
「あっ、澤井さん、いまチェックインされた浜田さん、僕の学校の先生なんですよ。
偶然ですけど。
サービスしてあげてくださいね。」
「あらそうなのぉ。女の子に続いて先生まで。ありがたいわねぇ」
「いえ、先生は本当にたまたまです。バイトの話したら、興味持っていただいたみたいで。
先生は、どちらにお泊りですか?」
「えっと……6階の桔梗ね。おひとりなのに……
あら、先生に対して失礼ね、ごめんなさい。いいお部屋なのよ」
「いや、先生独身だから……
そっか、個人情報守秘義務でしたね」
「ほんとは、担当の人以外には部屋も教えちゃダメなのよ。
教え子ということで、トクベツね。」
「はいっ、失礼しました。戻ります」
(桔梗かあ。確かテラスと露天風呂付きのだな。
部屋も12畳と次の間とかある広いやつ。
贅沢だな。まじに独身だからお金あるんだろうなぁ……
美奈にも、そういった部屋用意してやりたかった……
まあ、それは将来のお楽しみで。バイト関係なく二人のときに)
夕方、
部屋食のサービス中に、アキラは一応美奈子に伝えて警告しておくことにした。
「驚くなよ。浜田先生が来てる」
「えっ……どうして ? 」
「僕がわるいんだ。ほら、この前見送りの時にバイト先のホテル名とか
観光名所の話をしたじゃない、ペラペラと。
あれで興味を持ったみたいでさ。
先生と話すネタなんてないから、ついつい話したんだ……ごめん」
「謝らなくていいわ。そんな風になるなんて予想もつかないし。
先生も、独身で時間があるから、気まぐれなんでしょ」
(あれ ? あんまり嫌がらないな。さらっと流してる。まあ不機嫌になられるよりいいか)
「独身だけあって、いい部屋泊まってるんだ。
内緒だけど、部屋に露天風呂まである部屋だよ」
「へぇ。そんなイイ部屋、泊まってみたいわ」
「うん、大学に入ったらバイトして、一緒に泊まろ ! 」
「素敵 !」
夕食を終え、美奈子がもう一度温泉に入って戻ると、LIMEだ。
アキラではなく友介から。
「今夜、来れないかな」
「アキラくん来てくれるから、ダメ」
「ふーん。客の部屋に泊まったりしないよね」
「……」
「しないよね ?」
「12時過ぎたら来てよ」
「行かないとダメ ?」
「露天風呂がついてる部屋なんだ。見に来たら」
「気が向いたら」
「OK」
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