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1.結婚が決まったようです
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「エルダー、お前の結婚が決まった」
「まあ、私にですか?」
私、エルダー・ジンセンは、二年前に婚約破棄をされた。
そんな私に結婚の話が来るなんて。
「そういう訳だから、一度屋敷に戻りなさい。馬車も手配してある」
ジンセン伯爵家の当主である父はそう言うと、店の扉を開いて、私を外に促した。
ここは王都の中心にある、ハーブを取り扱ったお店。私が母から受け継いだお店だ。
小さいながらも、王都唯一のハーブティーのお店。
昔、ハーブの調合が盛んだったこの国も、今はこのお店だけになってしまった。
中には所狭しと瓶に詰められたドライハーブが並んでいる。白と緑を基調とした壁や棚は、私のお気に入り。
亡き母からは、調合や効能、ハーブの全てを叩き込まれた。
「早くしなさい」
私が母に思いを馳せて店を眺めていると、入口の父から急かす声が聞こえた。
「はい、ただいま」
私は父に返事をすると、共同経営者のエミリーに声をかけた。
「エミリー、お店を頼むわね」
「最近は暇なので大丈夫ですよ」
私の言葉にエミリーは苦笑いした。
彼女は、母と一緒にお店を経営していた信頼できる人。私のことを娘の様に可愛がってくれている。
茶色の柔らかい髪の毛を後ろに縛り、髪と同じ優しい瞳をした彼女は、もう一人の母のような存在。
私が婚約破棄をされて、家にも居づらくなって、このお店に住むようになってからも何も言わずに、温かく包み込んでくれた人。
「……行って来るわね」
確かに、最近お店を訪れるお客さんが目に見えて減っている。
その原因には心当たりがあるのだけど。
苦笑いするエミリーに声をかけ、私は店を出た。
やっと出てきた私を見て、父は怪訝な顔で私を見ると、ため息をついた。
「行くぞ」
御者により開かれた馬車に、父に続いて乗り込んだ。
ジンセン伯爵領は、この王都から半日程で着く小さな領地。
王都の石畳を馬車がゴトゴトと音を立てて進んでいくと、窓から行列になっているお店が見えた。
最近流行りのお店だ。
一年程前から、隣のロズイエ王国銘産である薔薇を使った石鹸や美容商品を輸入して売り始め、王都で大ヒット。
ロズイエ製の商品が貴族のステイタスになっている。
そんな行列のお店を横目に馬車が通り過ぎて行くと、父が鼻を鳴らして言った。
「お前が嫁ぐのはロズイエ王国だ。良かったな」
「え?」
隣の国に?
どうして私が?
「ふふふ、私は運が良い」
首を傾げて疑問に思う私に、父は答えずに不気味に笑っていた。
何故かわからないけど、私なんかを受け入れてくれるのだ。感謝しないと。
本当は、気になる人もいた。でも、結婚は家が決めるもの。仕方ない。
うーん、屋敷を追い出されて、平民のように自由生きられるかと思ったけど、そうはいかなかったみたいね。
ガタゴトと揺れる馬車の中、儚い夢を描いて、私はため息をついた。
「まあ、お姉様。すっかり平民のようになられて」
店のエプロン姿のまま屋敷に戻った私を、開口一番嫌味を言ってきたのは義妹のティナだ。
昔は可愛かったし、あんなに懐いていたのになあ。
ピンクブロンドの長い髪を揺らめかせ、自信たっぷりに私の前に立ちはだかる彼女のドレスには、宝石が所狭しと付いている。
……うちにそんなお金あったかしら?
遠い目をしてティナを見つめていると、反応が無いことに怒った彼女は、目を釣り上げて怒鳴った。
「そんなだから、隣国に売られるんですよ!」
「売られる??」
ティナの言葉に首を傾げると、彼女は得意そうに答えた。
「お姉様の結婚ですわ。おかわいそうに」
「かわいそう??」
ティナの含みのある言葉に、増々首を傾げる。
後ろで沈黙を守っていた父を振り返ると、はあ、とため息をついた。
「とにかく、サロンに行こう」
促された私たちがサロンにたどり着くと、義母がすでにソファーに腰掛けていた。
真っ赤な生地の絨毯に、たっぷり刺繍のついた豪奢なソファー。
屋敷を出てから随分様変わりをしている。
「お久しぶりです、お義母様」
私がエプロンの端を持って挨拶をすると、義母は嫌悪感たっぷりにこちらを見て、無視した。
ごほん、と父が咳払いをし、テーブルに一枚の書類を置いた。
父に促され、書類を手に取り目をやると、私は驚いた。
「支度金、3,000万オース?!」
「しかも向こうは、身一つで来てくれて良いと言ってくれている」
「何でそんな破格な……」
ホクホクと微笑んでいる父に、私は驚きの表情で訪ねる。
「ロズイエ王国は、婚約破棄されたお前でも良いと言ってくれている!」
いや、だから何で??
そんな疑問などどうでも良いかのように、父は高笑いしていた。
「かわいそうなお姉様。どうせ婚約者様には愛してもらえないのに」
「どういうこと?」
ティナの言葉に思わず眉をひそめると、彼女は喜々として答えた。
というか、本人よりもティナの方が私の結婚相手について知っているのはどうなんだろう。
「知らないんですか?! お姉様が結婚するロズイエの第二王子は、平民の女に夢中だと噂になっております。その女と結婚するために奔走されているとか。お姉様はお飾りの正妻として据え置かれるだけですわ」
「ティナ、そんな残酷な事実、知らないほうが幸せでしたよ。可哀想に」
全然可哀想に思っていない表情で、義母が言った。
「あなたは、ロズイエの体裁として迎え入れられるだけ。貴族なら珍しくないことでしょ?」
どうやら私の結婚相手は、隣国の王子様らしい。
「まあ、私にですか?」
私、エルダー・ジンセンは、二年前に婚約破棄をされた。
そんな私に結婚の話が来るなんて。
「そういう訳だから、一度屋敷に戻りなさい。馬車も手配してある」
ジンセン伯爵家の当主である父はそう言うと、店の扉を開いて、私を外に促した。
ここは王都の中心にある、ハーブを取り扱ったお店。私が母から受け継いだお店だ。
小さいながらも、王都唯一のハーブティーのお店。
昔、ハーブの調合が盛んだったこの国も、今はこのお店だけになってしまった。
中には所狭しと瓶に詰められたドライハーブが並んでいる。白と緑を基調とした壁や棚は、私のお気に入り。
亡き母からは、調合や効能、ハーブの全てを叩き込まれた。
「早くしなさい」
私が母に思いを馳せて店を眺めていると、入口の父から急かす声が聞こえた。
「はい、ただいま」
私は父に返事をすると、共同経営者のエミリーに声をかけた。
「エミリー、お店を頼むわね」
「最近は暇なので大丈夫ですよ」
私の言葉にエミリーは苦笑いした。
彼女は、母と一緒にお店を経営していた信頼できる人。私のことを娘の様に可愛がってくれている。
茶色の柔らかい髪の毛を後ろに縛り、髪と同じ優しい瞳をした彼女は、もう一人の母のような存在。
私が婚約破棄をされて、家にも居づらくなって、このお店に住むようになってからも何も言わずに、温かく包み込んでくれた人。
「……行って来るわね」
確かに、最近お店を訪れるお客さんが目に見えて減っている。
その原因には心当たりがあるのだけど。
苦笑いするエミリーに声をかけ、私は店を出た。
やっと出てきた私を見て、父は怪訝な顔で私を見ると、ため息をついた。
「行くぞ」
御者により開かれた馬車に、父に続いて乗り込んだ。
ジンセン伯爵領は、この王都から半日程で着く小さな領地。
王都の石畳を馬車がゴトゴトと音を立てて進んでいくと、窓から行列になっているお店が見えた。
最近流行りのお店だ。
一年程前から、隣のロズイエ王国銘産である薔薇を使った石鹸や美容商品を輸入して売り始め、王都で大ヒット。
ロズイエ製の商品が貴族のステイタスになっている。
そんな行列のお店を横目に馬車が通り過ぎて行くと、父が鼻を鳴らして言った。
「お前が嫁ぐのはロズイエ王国だ。良かったな」
「え?」
隣の国に?
どうして私が?
「ふふふ、私は運が良い」
首を傾げて疑問に思う私に、父は答えずに不気味に笑っていた。
何故かわからないけど、私なんかを受け入れてくれるのだ。感謝しないと。
本当は、気になる人もいた。でも、結婚は家が決めるもの。仕方ない。
うーん、屋敷を追い出されて、平民のように自由生きられるかと思ったけど、そうはいかなかったみたいね。
ガタゴトと揺れる馬車の中、儚い夢を描いて、私はため息をついた。
「まあ、お姉様。すっかり平民のようになられて」
店のエプロン姿のまま屋敷に戻った私を、開口一番嫌味を言ってきたのは義妹のティナだ。
昔は可愛かったし、あんなに懐いていたのになあ。
ピンクブロンドの長い髪を揺らめかせ、自信たっぷりに私の前に立ちはだかる彼女のドレスには、宝石が所狭しと付いている。
……うちにそんなお金あったかしら?
遠い目をしてティナを見つめていると、反応が無いことに怒った彼女は、目を釣り上げて怒鳴った。
「そんなだから、隣国に売られるんですよ!」
「売られる??」
ティナの言葉に首を傾げると、彼女は得意そうに答えた。
「お姉様の結婚ですわ。おかわいそうに」
「かわいそう??」
ティナの含みのある言葉に、増々首を傾げる。
後ろで沈黙を守っていた父を振り返ると、はあ、とため息をついた。
「とにかく、サロンに行こう」
促された私たちがサロンにたどり着くと、義母がすでにソファーに腰掛けていた。
真っ赤な生地の絨毯に、たっぷり刺繍のついた豪奢なソファー。
屋敷を出てから随分様変わりをしている。
「お久しぶりです、お義母様」
私がエプロンの端を持って挨拶をすると、義母は嫌悪感たっぷりにこちらを見て、無視した。
ごほん、と父が咳払いをし、テーブルに一枚の書類を置いた。
父に促され、書類を手に取り目をやると、私は驚いた。
「支度金、3,000万オース?!」
「しかも向こうは、身一つで来てくれて良いと言ってくれている」
「何でそんな破格な……」
ホクホクと微笑んでいる父に、私は驚きの表情で訪ねる。
「ロズイエ王国は、婚約破棄されたお前でも良いと言ってくれている!」
いや、だから何で??
そんな疑問などどうでも良いかのように、父は高笑いしていた。
「かわいそうなお姉様。どうせ婚約者様には愛してもらえないのに」
「どういうこと?」
ティナの言葉に思わず眉をひそめると、彼女は喜々として答えた。
というか、本人よりもティナの方が私の結婚相手について知っているのはどうなんだろう。
「知らないんですか?! お姉様が結婚するロズイエの第二王子は、平民の女に夢中だと噂になっております。その女と結婚するために奔走されているとか。お姉様はお飾りの正妻として据え置かれるだけですわ」
「ティナ、そんな残酷な事実、知らないほうが幸せでしたよ。可哀想に」
全然可哀想に思っていない表情で、義母が言った。
「あなたは、ロズイエの体裁として迎え入れられるだけ。貴族なら珍しくないことでしょ?」
どうやら私の結婚相手は、隣国の王子様らしい。
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