この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに、なぜか潔癖公爵様に溺愛されています!〜

海空里和

文字の大きさ
5 / 34

5.新しいメイド?

しおりを挟む
「何をしているんだ?!」

 屋敷に帰ったフレディは驚愕した。

「お、おかえりなさいませ!!」

 メイドのお仕着せに着替えたアリアは、箒を片手に庭を掃除していた。

 フレディが驚いていると、玄関から通いのメイドがやって来た。恰幅のいい、お団子頭の40代くらいの女性だ。

「リア、庭は終わったのかい?」
「は、はははい!」
「リア?」

 二人の会話にフレディが眉を寄せると、通いのメイドがフレディに気付いて慌てて頭を下げた。

「お、お帰りなさいませ! ローレン公爵様……!」
「ああ」

 潔癖で人を寄せ付けないフレディは、メイドが出入りする時間にほとんど帰って来ない。

 魔法省での仕事や研究をこなし、だいたい夜遅くに帰って来る。食事も家令の妻、唯一の住み込みのメイド長であるサーナが作った物しかとらない。

 通いのメイドは主に屋敷の掃除や洗濯が主だった。

 めったに姿を現さない主人にそのメイドはおののいた。

「これはお早いお帰りで」

 緊張した空気が流れる中、そこに現れたのはメイド長のサーナ。

 ベン同様、ローレン公爵家に長く仕えてくれていた女性で、二人が結婚した時、フレディは姉とささやかなお祝いをしたものだ。

 公爵家に仕えるメイドらしく、気品はそのまま、美しかった黒髪には今は白髪が混じっている。

「サーナ、これは……」

 フレディがサーナに問いただそうとした所で、彼女はメイドに合図をしてこの場を離れさせた。

「フレディ様、ここでは何ですから」
「ああ」

 サーナに促され、フレディはそれもそうだと頷き、屋敷に足を入れた。

「君も来るんだ」
「えっ?!」

 未だほうきを握りしめるアリアに声をかけると、アリアは驚いてその場で飛び上がった。

「わ、わわわ私、何か粗相でも……」

 青ざめるアリアにフレディはふっ、と口を緩めた。

「話をするだけだ」
「はあ……」

 何故か優しい微笑みを向けるフレディに首を傾げるアリア。

「リアさん、早くいらっしゃい」
「は、はい!!」

 サーナに呼ばれ、アリアはピャッと足早に彼女を追いかけた。

「何でサーナの言う事は素直に聞くんだ……」

 アリアの背中を見つめながら、フレディは少しだけ面白くない、と思った。

 フレディは自身の執務室にベンとサーナ、アリアを入れた。念のため、屋敷にいたメイドたちも全員帰した。

「さて……なぜ君がメイドのような真似事をしているんだ?」
「す、すすすすすみません」

 フレディがアリアに視線をやると、アリアは俯き、どもる。

「聞きたいのはこちらの方です、フレディ様」
「何?」

 二人の間にサーナが割って入る。

「契約結婚だなんて馬鹿げたこと、どうしてお決めになったのです」

 サーナの言葉にフレディはベンを見た。ベンは困ったように微笑んで、頭を下げた。

 サーナがこの契約結婚を反対することはわかっていた。だからこそ、ベンにしか話していなかったというのに。

「あの悪名高いご令嬢と結婚を決められたかと思ったら……」

 サーラは溜息混じりに小言を漏らした。

「これは義兄上と姉上も関わっていることだ。彼女も仕事として来たんだ」

 アリアの悪名は作られたもので、彼女自身は悪女じゃない、と説明しようとした所でサーラに遮られる。

「こんな、素直で良いお嬢さんを傷物にするなんて! あなたたち姉弟は何をお考えです!!」

 ぽかんとするフレディ。

 アリアと結婚する、と前日に突然報告したとき、サーラはすごい剣幕で反対した。アリアを追い出そうとするんじゃないかと心配したほどだった。

 まあ悪役令嬢なら仕返しするかもしれない、サーラのことは守らなければ、と思っていた昔の自分をフレディは内心殴りつける。

「サ、サーラさん、フレディ様のおっしゃる通りです」

 アリアがおずおずとサーラに言う。

「まあ! 利用されて可哀想に!」

 アリアを抱き締めるサーラ。二人はいつの間に仲良くなったのか。

「サーラ、話が進んでおりませんよ」

 ベンが優しくその場をとりなす。「そうね」とフレディに顔を向き直すとサーラが続けた。

「フレディ様と結婚された悪女がいつまでも部屋から出て来ないので、起こしに行ったら部屋にいないじゃないですか! そしたら見慣れない若いメイドがくるくるとよく動き回っていて……」
「あの、お屋敷の方に何かすることはないかと尋ねたら……」

 サーラの言葉にアリアが付け足す。

 フレディと悪役令嬢の結婚は屋敷の中でも話題になっていた。悪女は赤い燃えるような髪の色をしていると有名だった。

 しかしアリアのその時の髪の色はラベンダー色。

 この家は若いメイドを採用して来なかったので皆驚いたが、即戦力が来たと喜んでアリアにお仕着せを渡し、仕事を分担した。

 サーナが気付いた頃にはいつもに増して屋敷中がピカピカになっていた。そして何も食べていなかったアリアはサーナに声をかけられた所で、大きくお腹を鳴らした。

 この屋敷に若い女性はアリアだけ。そしてそのアップルグリーンの瞳でサーナは彼女がアリアだと気付いた。アリアにご飯を与えると、すぐにベンを問い詰めた。そして今に至る。

「朝食も摂らず、屋敷中を掃除していたんですよ! ご令嬢ともあろう方が! 事情を聞いた後も、お世話になるから何かしたいと言って……」

 サーナは涙ながらに言った。アリアにずいぶん絆されたらしい。

 結局アリアの懇願によって、そのまま通いのメイドたちに混じって掃除をしていた所に、フレディが帰って来たようだ。

「結婚初日すら帰りが遅かったのに、今日はどうされたんですか?」

 サーナの厳しい目がフレディを捉える。主人だというのに、すっかり悪者扱いだ。しかし幼い頃から自身を知るサーラにフレディは弱い。

「いや……俺も彼女が本当は悪女なんかじゃないって昨晩初めて知ったんだ」
「も、申し訳……!!」
「いいから!!」
 

 悪役令嬢を全う出来ていないアリアは勢いよく土下座しようとして、フレディに止められる。

「まったく、君は……」
「フレディ様?」

 眉尻を下げてアリアの肩を抱くフレディに、ベンもサーナも驚愕した。

「フ、フレディ様が自ら女性に触れた……?!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...