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5.新しいメイド?
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「何をしているんだ?!」
屋敷に帰ったフレディは驚愕した。
「お、おかえりなさいませ!!」
メイドのお仕着せに着替えたアリアは、箒を片手に庭を掃除していた。
フレディが驚いていると、玄関から通いのメイドがやって来た。恰幅のいい、お団子頭の40代くらいの女性だ。
「リア、庭は終わったのかい?」
「は、はははい!」
「リア?」
二人の会話にフレディが眉を寄せると、通いのメイドがフレディに気付いて慌てて頭を下げた。
「お、お帰りなさいませ! ローレン公爵様……!」
「ああ」
潔癖で人を寄せ付けないフレディは、メイドが出入りする時間にほとんど帰って来ない。
魔法省での仕事や研究をこなし、だいたい夜遅くに帰って来る。食事も家令の妻、唯一の住み込みのメイド長であるサーナが作った物しかとらない。
通いのメイドは主に屋敷の掃除や洗濯が主だった。
めったに姿を現さない主人にそのメイドはおののいた。
「これはお早いお帰りで」
緊張した空気が流れる中、そこに現れたのはメイド長のサーナ。
ベン同様、ローレン公爵家に長く仕えてくれていた女性で、二人が結婚した時、フレディは姉とささやかなお祝いをしたものだ。
公爵家に仕えるメイドらしく、気品はそのまま、美しかった黒髪には今は白髪が混じっている。
「サーナ、これは……」
フレディがサーナに問いただそうとした所で、彼女はメイドに合図をしてこの場を離れさせた。
「フレディ様、ここでは何ですから」
「ああ」
サーナに促され、フレディはそれもそうだと頷き、屋敷に足を入れた。
「君も来るんだ」
「えっ?!」
未だほうきを握りしめるアリアに声をかけると、アリアは驚いてその場で飛び上がった。
「わ、わわわ私、何か粗相でも……」
青ざめるアリアにフレディはふっ、と口を緩めた。
「話をするだけだ」
「はあ……」
何故か優しい微笑みを向けるフレディに首を傾げるアリア。
「リアさん、早くいらっしゃい」
「は、はい!!」
サーナに呼ばれ、アリアはピャッと足早に彼女を追いかけた。
「何でサーナの言う事は素直に聞くんだ……」
アリアの背中を見つめながら、フレディは少しだけ面白くない、と思った。
フレディは自身の執務室にベンとサーナ、アリアを入れた。念のため、屋敷にいたメイドたちも全員帰した。
「さて……なぜ君がメイドのような真似事をしているんだ?」
「す、すすすすすみません」
フレディがアリアに視線をやると、アリアは俯き、どもる。
「聞きたいのはこちらの方です、フレディ様」
「何?」
二人の間にサーナが割って入る。
「契約結婚だなんて馬鹿げたこと、どうしてお決めになったのです」
サーナの言葉にフレディはベンを見た。ベンは困ったように微笑んで、頭を下げた。
サーナがこの契約結婚を反対することはわかっていた。だからこそ、ベンにしか話していなかったというのに。
「あの悪名高いご令嬢と結婚を決められたかと思ったら……」
サーラは溜息混じりに小言を漏らした。
「これは義兄上と姉上も関わっていることだ。彼女も仕事として来たんだ」
アリアの悪名は作られたもので、彼女自身は悪女じゃない、と説明しようとした所でサーラに遮られる。
「こんな、素直で良いお嬢さんを傷物にするなんて! あなたたち姉弟は何をお考えです!!」
ぽかんとするフレディ。
アリアと結婚する、と前日に突然報告したとき、サーラはすごい剣幕で反対した。アリアを追い出そうとするんじゃないかと心配したほどだった。
まあ悪役令嬢なら仕返しするかもしれない、サーラのことは守らなければ、と思っていた昔の自分をフレディは内心殴りつける。
「サ、サーラさん、フレディ様のおっしゃる通りです」
アリアがおずおずとサーラに言う。
「まあ! 利用されて可哀想に!」
アリアを抱き締めるサーラ。二人はいつの間に仲良くなったのか。
「サーラ、話が進んでおりませんよ」
ベンが優しくその場をとりなす。「そうね」とフレディに顔を向き直すとサーラが続けた。
「フレディ様と結婚された悪女がいつまでも部屋から出て来ないので、起こしに行ったら部屋にいないじゃないですか! そしたら見慣れない若いメイドがくるくるとよく動き回っていて……」
「あの、お屋敷の方に何かすることはないかと尋ねたら……」
サーラの言葉にアリアが付け足す。
フレディと悪役令嬢の結婚は屋敷の中でも話題になっていた。悪女は赤い燃えるような髪の色をしていると有名だった。
しかしアリアのその時の髪の色はラベンダー色。
この家は若いメイドを採用して来なかったので皆驚いたが、即戦力が来たと喜んでアリアにお仕着せを渡し、仕事を分担した。
サーナが気付いた頃にはいつもに増して屋敷中がピカピカになっていた。そして何も食べていなかったアリアはサーナに声をかけられた所で、大きくお腹を鳴らした。
この屋敷に若い女性はアリアだけ。そしてそのアップルグリーンの瞳でサーナは彼女がアリアだと気付いた。アリアにご飯を与えると、すぐにベンを問い詰めた。そして今に至る。
「朝食も摂らず、屋敷中を掃除していたんですよ! ご令嬢ともあろう方が! 事情を聞いた後も、お世話になるから何かしたいと言って……」
サーナは涙ながらに言った。アリアにずいぶん絆されたらしい。
結局アリアの懇願によって、そのまま通いのメイドたちに混じって掃除をしていた所に、フレディが帰って来たようだ。
「結婚初日すら帰りが遅かったのに、今日はどうされたんですか?」
サーナの厳しい目がフレディを捉える。主人だというのに、すっかり悪者扱いだ。しかし幼い頃から自身を知るサーラにフレディは弱い。
「いや……俺も彼女が本当は悪女なんかじゃないって昨晩初めて知ったんだ」
「も、申し訳……!!」
「いいから!!」
悪役令嬢を全う出来ていないアリアは勢いよく土下座しようとして、フレディに止められる。
「まったく、君は……」
「フレディ様?」
眉尻を下げてアリアの肩を抱くフレディに、ベンもサーナも驚愕した。
「フ、フレディ様が自ら女性に触れた……?!」
屋敷に帰ったフレディは驚愕した。
「お、おかえりなさいませ!!」
メイドのお仕着せに着替えたアリアは、箒を片手に庭を掃除していた。
フレディが驚いていると、玄関から通いのメイドがやって来た。恰幅のいい、お団子頭の40代くらいの女性だ。
「リア、庭は終わったのかい?」
「は、はははい!」
「リア?」
二人の会話にフレディが眉を寄せると、通いのメイドがフレディに気付いて慌てて頭を下げた。
「お、お帰りなさいませ! ローレン公爵様……!」
「ああ」
潔癖で人を寄せ付けないフレディは、メイドが出入りする時間にほとんど帰って来ない。
魔法省での仕事や研究をこなし、だいたい夜遅くに帰って来る。食事も家令の妻、唯一の住み込みのメイド長であるサーナが作った物しかとらない。
通いのメイドは主に屋敷の掃除や洗濯が主だった。
めったに姿を現さない主人にそのメイドはおののいた。
「これはお早いお帰りで」
緊張した空気が流れる中、そこに現れたのはメイド長のサーナ。
ベン同様、ローレン公爵家に長く仕えてくれていた女性で、二人が結婚した時、フレディは姉とささやかなお祝いをしたものだ。
公爵家に仕えるメイドらしく、気品はそのまま、美しかった黒髪には今は白髪が混じっている。
「サーナ、これは……」
フレディがサーナに問いただそうとした所で、彼女はメイドに合図をしてこの場を離れさせた。
「フレディ様、ここでは何ですから」
「ああ」
サーナに促され、フレディはそれもそうだと頷き、屋敷に足を入れた。
「君も来るんだ」
「えっ?!」
未だほうきを握りしめるアリアに声をかけると、アリアは驚いてその場で飛び上がった。
「わ、わわわ私、何か粗相でも……」
青ざめるアリアにフレディはふっ、と口を緩めた。
「話をするだけだ」
「はあ……」
何故か優しい微笑みを向けるフレディに首を傾げるアリア。
「リアさん、早くいらっしゃい」
「は、はい!!」
サーナに呼ばれ、アリアはピャッと足早に彼女を追いかけた。
「何でサーナの言う事は素直に聞くんだ……」
アリアの背中を見つめながら、フレディは少しだけ面白くない、と思った。
フレディは自身の執務室にベンとサーナ、アリアを入れた。念のため、屋敷にいたメイドたちも全員帰した。
「さて……なぜ君がメイドのような真似事をしているんだ?」
「す、すすすすすみません」
フレディがアリアに視線をやると、アリアは俯き、どもる。
「聞きたいのはこちらの方です、フレディ様」
「何?」
二人の間にサーナが割って入る。
「契約結婚だなんて馬鹿げたこと、どうしてお決めになったのです」
サーナの言葉にフレディはベンを見た。ベンは困ったように微笑んで、頭を下げた。
サーナがこの契約結婚を反対することはわかっていた。だからこそ、ベンにしか話していなかったというのに。
「あの悪名高いご令嬢と結婚を決められたかと思ったら……」
サーラは溜息混じりに小言を漏らした。
「これは義兄上と姉上も関わっていることだ。彼女も仕事として来たんだ」
アリアの悪名は作られたもので、彼女自身は悪女じゃない、と説明しようとした所でサーラに遮られる。
「こんな、素直で良いお嬢さんを傷物にするなんて! あなたたち姉弟は何をお考えです!!」
ぽかんとするフレディ。
アリアと結婚する、と前日に突然報告したとき、サーラはすごい剣幕で反対した。アリアを追い出そうとするんじゃないかと心配したほどだった。
まあ悪役令嬢なら仕返しするかもしれない、サーラのことは守らなければ、と思っていた昔の自分をフレディは内心殴りつける。
「サ、サーラさん、フレディ様のおっしゃる通りです」
アリアがおずおずとサーラに言う。
「まあ! 利用されて可哀想に!」
アリアを抱き締めるサーラ。二人はいつの間に仲良くなったのか。
「サーラ、話が進んでおりませんよ」
ベンが優しくその場をとりなす。「そうね」とフレディに顔を向き直すとサーラが続けた。
「フレディ様と結婚された悪女がいつまでも部屋から出て来ないので、起こしに行ったら部屋にいないじゃないですか! そしたら見慣れない若いメイドがくるくるとよく動き回っていて……」
「あの、お屋敷の方に何かすることはないかと尋ねたら……」
サーラの言葉にアリアが付け足す。
フレディと悪役令嬢の結婚は屋敷の中でも話題になっていた。悪女は赤い燃えるような髪の色をしていると有名だった。
しかしアリアのその時の髪の色はラベンダー色。
この家は若いメイドを採用して来なかったので皆驚いたが、即戦力が来たと喜んでアリアにお仕着せを渡し、仕事を分担した。
サーナが気付いた頃にはいつもに増して屋敷中がピカピカになっていた。そして何も食べていなかったアリアはサーナに声をかけられた所で、大きくお腹を鳴らした。
この屋敷に若い女性はアリアだけ。そしてそのアップルグリーンの瞳でサーナは彼女がアリアだと気付いた。アリアにご飯を与えると、すぐにベンを問い詰めた。そして今に至る。
「朝食も摂らず、屋敷中を掃除していたんですよ! ご令嬢ともあろう方が! 事情を聞いた後も、お世話になるから何かしたいと言って……」
サーナは涙ながらに言った。アリアにずいぶん絆されたらしい。
結局アリアの懇願によって、そのまま通いのメイドたちに混じって掃除をしていた所に、フレディが帰って来たようだ。
「結婚初日すら帰りが遅かったのに、今日はどうされたんですか?」
サーナの厳しい目がフレディを捉える。主人だというのに、すっかり悪者扱いだ。しかし幼い頃から自身を知るサーラにフレディは弱い。
「いや……俺も彼女が本当は悪女なんかじゃないって昨晩初めて知ったんだ」
「も、申し訳……!!」
「いいから!!」
悪役令嬢を全う出来ていないアリアは勢いよく土下座しようとして、フレディに止められる。
「まったく、君は……」
「フレディ様?」
眉尻を下げてアリアの肩を抱くフレディに、ベンもサーナも驚愕した。
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