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20.二人でお仕事
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「ほらアリア、この石に触れて」
「あ、あのフレディ様?」
「何だい?」
「……近すぎませんか?」
魔法具に慣れるまで一緒に片付けをすると言ったフレディに、アリアは後ろから密着される形で使い方を教わっていた。
「でも、またアリアが落ちたら心配だから……」
「あの……もう落ちたりしませんので……」
にっこりと笑いながらもアリアから離れないフレディに、アリアはドギマギしながら答える。
「心配だから、慣れるまで、ね?」
至近距離で念を押され、アリアは、うっ、となる。
魔法具に触れ、ふわりとアリアの身体が持ち上げられれば、本棚の一番高い所まで届く。
アリアにとっては高い場所だが、フレディと同じ目線に何度も上がり、その度に見つめられている視線に頭がのぼせそうになる。
「あの、フレディ様……もう大丈夫ですから……」
赤くなりながら振り返れば、フレディの顔はすぐ近くにあった。
「うん……もう少しだけ……」
絡み合う同じ高さのフレディの視線からは熱っぽさが窺えて、アリアは目を伏せてしまう。
「何か、新鮮――」
そう言ったフレディに頬をグイッと引き寄せられると、アリアは彼にキスをされた。
魔法具から落ちないように、フレディがしっかりと身体を支えてくれている。板から落ちないように、アリアもしっかりと足を踏みしめる。
「……スティングさんに怒られます……」
「仕事はちゃんとしてるよ」
おでこをつけたまま、アリアは困ったように言った。フレディは少しだけ拗ねながら返す。
(何か、可愛い……)
そんなフレディにアリアは愛しさを募らせる。
(わ、私……! お仕事なのになんてこと……!)
自分のフレディに対する感情にアリアはすぐに叱咤した。
「図書館のために開発した物だったけど、アリアとこんな使い方が出来るなんて儲けものだったな」
「へえっ?!」
恥ずかしいことをサラッと言ったフレディにアリアは驚きで体勢を崩す。
「アリア!」
今度は落ちる前に魔法具の上でフレディが抱きしめる形で支えてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
心臓をバクバクとさせながらアリアは抱き締められたままお礼を言う。
「……まったく、やっぱり危なかっしいから、このまま二人で片付けようね?」
「そ、それはフレディ様が……」
やれやれ、と呆れた声を出すフレディに、アリアは少し抵抗気味に言うも、彼に「ん?」と優しく圧力をかけられ、ゴニョゴニョと黙ってしまった。
そうしてアリアはフレディに至近距離で見守られながら、机の上を綺麗に片付けた。
「というか、戻す場所、完璧なんだけどどうして?!」
アリアが片付けた本棚を見渡し、フレディが驚きの声を上げた。
「えっ? フレディ様の局長室にはお昼を届けに来ていますので……」
「……二回だけだよね?」
「……二回見れば充分ですが……」
「……そういうもの?」
お互いポカン、と見合う。
「そういえば義兄上が書いた悪役令嬢の台本もアリアは完璧に覚えて振る舞っていたんだもんな……アリアは凄いんだな」
フレディの中で点と点が結び付き、理解に至り、アリアの頭を撫でて微笑んだ。
「……凄いのはフレディ様です」
「俺?」
「はい。この魔法具もそうですけど、私を悪役令嬢にしてくれたあの魔法薬だって、みんな凄いです!」
凄い、とフレディはもてはやされてきた。魔法省の中での権力争いも然ることながら、令嬢がフレディに近寄ろうとするおべっかが主だった。
しかし、目の前のアリアは純粋な瞳でフレディを「凄い」と言っている。
「あの時もそう言ってくれた」
「あの時?」
懐かしそうに、愛おしそうに目を細めるフレディにドキドキしながらもアリアは聞いた。
「ああ。研究途中だった俺の魔法薬を「凄い」って君は瞳を輝かせていた」
「私は……」
「良いんだ……」
思い出を語るフレディに、アリアは申し訳ない気持ちになったが、彼は今度は寂しそうな表情は見せなかった。
「昔のことは良いんだ。今、君がここにいてくれれば」
「フレディ様……」
「君は君のままで……そして今は俺の妻だ」
手を取られ、フレディに真っ直ぐに見つめられたアリアは胸がぎゅうっとなる。
「でも私は……」
「アリア、「お仕事」でしょう?」
「……はい……」
いつもは背筋が伸びるほど嬉しい言葉のはずが、今日は何だか複雑で悲しい。
フレディもアリアを自分に縛り付けるために言った言葉に過ぎないが、アリアが知る由もない。
(悪役令嬢役を全うしたら、王都から去る……あんなに望んでいたことなのに、私はいつからこんなに強欲になってしまったのでしょう……)
悲しくて泣きそうな自分を叱咤しながらアリアは平常心を保つ。
「アリア?」
いつもは喜々として返事をするアリアが俯いているので、フレディは心配になってアリアを覗き込んだ。
「はい! お仕事、ですから、フレディ様の「妻役」、果たしてみせます!」
パッと笑顔を作り顔を上げたアリアに、フレディは一瞬傷付いた表情を見せた。
「フレディ様……?」
「うん! そうだね。アリアには頑張ってもらわないとね?」
すぐにいつもの意地悪な表情に戻ったフレディに、アリアは身体を引き寄せられる。
「これは「仕事」だから」
そう言うとフレディはアリアにキスをした。
(これは、仕事――――)
冷たいはずのキスなのに、切なくて愛おしい。
すれ違いの想いはお互いの秘めた本心を唇に乗せて、じわじわと浸透していくのだった。
「あ、あのフレディ様?」
「何だい?」
「……近すぎませんか?」
魔法具に慣れるまで一緒に片付けをすると言ったフレディに、アリアは後ろから密着される形で使い方を教わっていた。
「でも、またアリアが落ちたら心配だから……」
「あの……もう落ちたりしませんので……」
にっこりと笑いながらもアリアから離れないフレディに、アリアはドギマギしながら答える。
「心配だから、慣れるまで、ね?」
至近距離で念を押され、アリアは、うっ、となる。
魔法具に触れ、ふわりとアリアの身体が持ち上げられれば、本棚の一番高い所まで届く。
アリアにとっては高い場所だが、フレディと同じ目線に何度も上がり、その度に見つめられている視線に頭がのぼせそうになる。
「あの、フレディ様……もう大丈夫ですから……」
赤くなりながら振り返れば、フレディの顔はすぐ近くにあった。
「うん……もう少しだけ……」
絡み合う同じ高さのフレディの視線からは熱っぽさが窺えて、アリアは目を伏せてしまう。
「何か、新鮮――」
そう言ったフレディに頬をグイッと引き寄せられると、アリアは彼にキスをされた。
魔法具から落ちないように、フレディがしっかりと身体を支えてくれている。板から落ちないように、アリアもしっかりと足を踏みしめる。
「……スティングさんに怒られます……」
「仕事はちゃんとしてるよ」
おでこをつけたまま、アリアは困ったように言った。フレディは少しだけ拗ねながら返す。
(何か、可愛い……)
そんなフレディにアリアは愛しさを募らせる。
(わ、私……! お仕事なのになんてこと……!)
自分のフレディに対する感情にアリアはすぐに叱咤した。
「図書館のために開発した物だったけど、アリアとこんな使い方が出来るなんて儲けものだったな」
「へえっ?!」
恥ずかしいことをサラッと言ったフレディにアリアは驚きで体勢を崩す。
「アリア!」
今度は落ちる前に魔法具の上でフレディが抱きしめる形で支えてくれた。
「あ、ありがとうございます……」
心臓をバクバクとさせながらアリアは抱き締められたままお礼を言う。
「……まったく、やっぱり危なかっしいから、このまま二人で片付けようね?」
「そ、それはフレディ様が……」
やれやれ、と呆れた声を出すフレディに、アリアは少し抵抗気味に言うも、彼に「ん?」と優しく圧力をかけられ、ゴニョゴニョと黙ってしまった。
そうしてアリアはフレディに至近距離で見守られながら、机の上を綺麗に片付けた。
「というか、戻す場所、完璧なんだけどどうして?!」
アリアが片付けた本棚を見渡し、フレディが驚きの声を上げた。
「えっ? フレディ様の局長室にはお昼を届けに来ていますので……」
「……二回だけだよね?」
「……二回見れば充分ですが……」
「……そういうもの?」
お互いポカン、と見合う。
「そういえば義兄上が書いた悪役令嬢の台本もアリアは完璧に覚えて振る舞っていたんだもんな……アリアは凄いんだな」
フレディの中で点と点が結び付き、理解に至り、アリアの頭を撫でて微笑んだ。
「……凄いのはフレディ様です」
「俺?」
「はい。この魔法具もそうですけど、私を悪役令嬢にしてくれたあの魔法薬だって、みんな凄いです!」
凄い、とフレディはもてはやされてきた。魔法省の中での権力争いも然ることながら、令嬢がフレディに近寄ろうとするおべっかが主だった。
しかし、目の前のアリアは純粋な瞳でフレディを「凄い」と言っている。
「あの時もそう言ってくれた」
「あの時?」
懐かしそうに、愛おしそうに目を細めるフレディにドキドキしながらもアリアは聞いた。
「ああ。研究途中だった俺の魔法薬を「凄い」って君は瞳を輝かせていた」
「私は……」
「良いんだ……」
思い出を語るフレディに、アリアは申し訳ない気持ちになったが、彼は今度は寂しそうな表情は見せなかった。
「昔のことは良いんだ。今、君がここにいてくれれば」
「フレディ様……」
「君は君のままで……そして今は俺の妻だ」
手を取られ、フレディに真っ直ぐに見つめられたアリアは胸がぎゅうっとなる。
「でも私は……」
「アリア、「お仕事」でしょう?」
「……はい……」
いつもは背筋が伸びるほど嬉しい言葉のはずが、今日は何だか複雑で悲しい。
フレディもアリアを自分に縛り付けるために言った言葉に過ぎないが、アリアが知る由もない。
(悪役令嬢役を全うしたら、王都から去る……あんなに望んでいたことなのに、私はいつからこんなに強欲になってしまったのでしょう……)
悲しくて泣きそうな自分を叱咤しながらアリアは平常心を保つ。
「アリア?」
いつもは喜々として返事をするアリアが俯いているので、フレディは心配になってアリアを覗き込んだ。
「はい! お仕事、ですから、フレディ様の「妻役」、果たしてみせます!」
パッと笑顔を作り顔を上げたアリアに、フレディは一瞬傷付いた表情を見せた。
「フレディ様……?」
「うん! そうだね。アリアには頑張ってもらわないとね?」
すぐにいつもの意地悪な表情に戻ったフレディに、アリアは身体を引き寄せられる。
「これは「仕事」だから」
そう言うとフレディはアリアにキスをした。
(これは、仕事――――)
冷たいはずのキスなのに、切なくて愛おしい。
すれ違いの想いはお互いの秘めた本心を唇に乗せて、じわじわと浸透していくのだった。
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