21 / 43
第二章 王子様の家庭教師
第21話
しおりを挟む
「えーっと……何でこうなった?」
魔術師団棟の中にある訓練場に初めて入った私は、記憶を整理する。
『なら証明してもらおうかな?』
不敵に笑ったアドは、私とクリスティーが魔法で対決することを提案した。
クリスティーは顔を引きつらせていたけど、魔術師団たちは薄ら笑い、私をバカにした目で見た。
「研究棟の奴とクリスティー嬢が?」
「殿下は気でも狂われたのか」
「そんなもの勝負にならない」
そんなことが囁かれ、あちらの勝利は決まったかのような空気で、今ここにいる。
「クリスティーは俺の大切な婚約者だ。それに彼女は治癒の魔法にこそ長けているから戦いには向いていない」
クリスティーを庇うようにアンリ様が私の前に歩み出る。
「俺が相手になる。それでミュリエルが負けたら、家庭教師をクリスティーに譲るんだ」
「なっ!?」
アンリ様のとんでもない条件に私は口をあんぐりと開けた。
クリスティーが治癒魔法にだけ長けているのは知っている。だからこそ、彼女の攻撃魔法ならばかわし、勝つことが出来ると思っていたのだ。
「卑怯じゃありません?」
「何を言っている。殿下の家庭教師を務めるならば、俺くらい倒せなくてどうする」
クリスティーのことは棚に上げ、アンリ様が悪びれずに言う。
(てか、それでアンリ様が勝ってクリスティーが家庭教師をやるっておかしくない!? 自分で勝ち取りに来なさいよね!)
アンリ様の後ろで殊勝な顔を見せるクリスティーは、私と目が合うと、勝ち誇ったように笑った。
(何でもかんでもアンリ様はあなたの思い通りってわけね)
さて、どうしようか、と思う。
アンリ様は残念な人だが、腐ってもクラリオン伯爵家の次男である。それなりの魔力量を持った魔術師だ。
彼の攻撃を防ぐくらい訳ないが、圧倒的な魔力量の差で、こちらが攻撃を仕掛ける余裕は無さそうだ。魔力切れで負けるのが目に見えている。
「俺の家庭教師を甘く見んなよ。目にもの見せてやる」
「ほお?」
「ちょ、ちょ、ちょっ…!!」
アドがアンリ様を煽るので、慌てて彼を掴んで離れた所へ連れて行く。
「ちょっと!! 何言ってるのよ!?」
アドを解放した私は彼に怒鳴った。
「んだよ、俺の攻撃をかわせるんだから、あんな奴くらい秒だろ」
「防ぐだけならね!」
不貞腐れるアドに私は抗議を続けた。
「魔力量の差がありすぎる! 私……アドの家庭教師、辞めたくないよ!?」
情けないことに弱音を吐いてふにゃ、っとした表情で泣きそうになる。
つい、掴んだアドのシャツの裾に力が入ってしまう。
『俺の家庭教師はミュリエルだけだ』
そう言ってくれたのに。アドは私が家庭教師を辞めさせられても良いの? そんな不安で情けない顔をしてしまう。
するとアドは私の手を取って、ふわりと笑った。
「お前なら勝てる」
「……買いかぶりすぎだよ……本当に魔力量じゃ勝てないもの」
自信たっぷりのアドに対して私はさっきから情けない姿ばかり見せている。家庭教師であり続けたいと願うのに、弱気な自分しか出て来ない。
魔力量重視なこの国のことを、クソ食らえ、とは思う。でも実際にどんなに正しくて的確な魔法陣や詠唱を重ねても、持久戦になれば負けるのだ。
「俺がついてる」
アドはそう言うと、私の首に鎖をかけた。
「ネックレス……?」
かけられた鎖の先を見れば、眩しいばかりのエメラルドグリーンの石が付けられていた。
「これ……」
イリスの研究を手伝っていたからわかる。
(これ、魔法石だ……)
「俺の魔力、こめといた」
見つめた先のアドの表情がにやりと勝ち誇る。
「俺の魔力と、お前の知識があれば、向かうところ敵なしだろ?」
勝ちを確信した、アドの表情。
「俺の家庭教師は最強だってこと、魔術師団連中に見せつけてこい」
高鳴る高揚感に、私は思わず笑顔になる。
そんな私を見たアドにトン、と背中を押された。
「行って来い」
「うん!」
振り返らずに、でも力強く返事をした。
「別れは済んだのか?」
訓練場で待ち構えていたアンリ様が勝ち誇ったように言う。
「ええ。あなたとのね!」
「言ってろ!」
私の言葉をきっかけに、アンリ様が先制攻撃をしかけた。
(流石、卑怯者ね!)
私は瞬時にアンリ様の魔法を防御魔法で跳ね返す。
「なっ――!?」
アンリ様は驚いた表情を見せた。
思えば、アンリ様と魔法で手合わせをするのは初めてだ。魔法学校の実技は男女別だし。
「このっ……」
すぐに攻撃魔法を連発するアンリ様の魔法陣の軌道を読み、的確な防御魔法を張る。
(アドに比べたら、何て単純な軌道!)
改めて私の教え子凄い、と思いながら、アンリ様の魔法を次々に無効にしていく。
「アンリ様!? 遊んでいらっしゃるの? 早く片付けて!」
クリスティーの叫ぶ声が聞こえると、アンリ様は「くそっ」と苦しそうな表情で魔法を連発する。
「ミュリエルの魔力量は少ないんだ! すぐに魔力切れになるだろ!」
ドン、ドン、と単純な攻撃魔法を繰り返すアンリ様。
(これでよく偉そうにふんぞり返ってるわよね。騎士団の皆の方がよっぽど動けるわよ)
確かにここまでされたら、いつもの私なら魔力切れになる。でも――――。
私は胸元のネックレスの石をぎゅう、っと握りしめた。
温かな光が私に力をくれる。
アンリ様の攻撃魔法を全て打ち消すと、間も与えず、私は攻撃魔法を繰り出した。
ドオン、という大きな音と砂埃が舞った。
観衆にいた魔術師団員たちは目を丸くして、野次っていたその口を噤んだ。
砂埃が収まると、私の足元にはアンリ様が倒れていた。
魔術師団棟の中にある訓練場に初めて入った私は、記憶を整理する。
『なら証明してもらおうかな?』
不敵に笑ったアドは、私とクリスティーが魔法で対決することを提案した。
クリスティーは顔を引きつらせていたけど、魔術師団たちは薄ら笑い、私をバカにした目で見た。
「研究棟の奴とクリスティー嬢が?」
「殿下は気でも狂われたのか」
「そんなもの勝負にならない」
そんなことが囁かれ、あちらの勝利は決まったかのような空気で、今ここにいる。
「クリスティーは俺の大切な婚約者だ。それに彼女は治癒の魔法にこそ長けているから戦いには向いていない」
クリスティーを庇うようにアンリ様が私の前に歩み出る。
「俺が相手になる。それでミュリエルが負けたら、家庭教師をクリスティーに譲るんだ」
「なっ!?」
アンリ様のとんでもない条件に私は口をあんぐりと開けた。
クリスティーが治癒魔法にだけ長けているのは知っている。だからこそ、彼女の攻撃魔法ならばかわし、勝つことが出来ると思っていたのだ。
「卑怯じゃありません?」
「何を言っている。殿下の家庭教師を務めるならば、俺くらい倒せなくてどうする」
クリスティーのことは棚に上げ、アンリ様が悪びれずに言う。
(てか、それでアンリ様が勝ってクリスティーが家庭教師をやるっておかしくない!? 自分で勝ち取りに来なさいよね!)
アンリ様の後ろで殊勝な顔を見せるクリスティーは、私と目が合うと、勝ち誇ったように笑った。
(何でもかんでもアンリ様はあなたの思い通りってわけね)
さて、どうしようか、と思う。
アンリ様は残念な人だが、腐ってもクラリオン伯爵家の次男である。それなりの魔力量を持った魔術師だ。
彼の攻撃を防ぐくらい訳ないが、圧倒的な魔力量の差で、こちらが攻撃を仕掛ける余裕は無さそうだ。魔力切れで負けるのが目に見えている。
「俺の家庭教師を甘く見んなよ。目にもの見せてやる」
「ほお?」
「ちょ、ちょ、ちょっ…!!」
アドがアンリ様を煽るので、慌てて彼を掴んで離れた所へ連れて行く。
「ちょっと!! 何言ってるのよ!?」
アドを解放した私は彼に怒鳴った。
「んだよ、俺の攻撃をかわせるんだから、あんな奴くらい秒だろ」
「防ぐだけならね!」
不貞腐れるアドに私は抗議を続けた。
「魔力量の差がありすぎる! 私……アドの家庭教師、辞めたくないよ!?」
情けないことに弱音を吐いてふにゃ、っとした表情で泣きそうになる。
つい、掴んだアドのシャツの裾に力が入ってしまう。
『俺の家庭教師はミュリエルだけだ』
そう言ってくれたのに。アドは私が家庭教師を辞めさせられても良いの? そんな不安で情けない顔をしてしまう。
するとアドは私の手を取って、ふわりと笑った。
「お前なら勝てる」
「……買いかぶりすぎだよ……本当に魔力量じゃ勝てないもの」
自信たっぷりのアドに対して私はさっきから情けない姿ばかり見せている。家庭教師であり続けたいと願うのに、弱気な自分しか出て来ない。
魔力量重視なこの国のことを、クソ食らえ、とは思う。でも実際にどんなに正しくて的確な魔法陣や詠唱を重ねても、持久戦になれば負けるのだ。
「俺がついてる」
アドはそう言うと、私の首に鎖をかけた。
「ネックレス……?」
かけられた鎖の先を見れば、眩しいばかりのエメラルドグリーンの石が付けられていた。
「これ……」
イリスの研究を手伝っていたからわかる。
(これ、魔法石だ……)
「俺の魔力、こめといた」
見つめた先のアドの表情がにやりと勝ち誇る。
「俺の魔力と、お前の知識があれば、向かうところ敵なしだろ?」
勝ちを確信した、アドの表情。
「俺の家庭教師は最強だってこと、魔術師団連中に見せつけてこい」
高鳴る高揚感に、私は思わず笑顔になる。
そんな私を見たアドにトン、と背中を押された。
「行って来い」
「うん!」
振り返らずに、でも力強く返事をした。
「別れは済んだのか?」
訓練場で待ち構えていたアンリ様が勝ち誇ったように言う。
「ええ。あなたとのね!」
「言ってろ!」
私の言葉をきっかけに、アンリ様が先制攻撃をしかけた。
(流石、卑怯者ね!)
私は瞬時にアンリ様の魔法を防御魔法で跳ね返す。
「なっ――!?」
アンリ様は驚いた表情を見せた。
思えば、アンリ様と魔法で手合わせをするのは初めてだ。魔法学校の実技は男女別だし。
「このっ……」
すぐに攻撃魔法を連発するアンリ様の魔法陣の軌道を読み、的確な防御魔法を張る。
(アドに比べたら、何て単純な軌道!)
改めて私の教え子凄い、と思いながら、アンリ様の魔法を次々に無効にしていく。
「アンリ様!? 遊んでいらっしゃるの? 早く片付けて!」
クリスティーの叫ぶ声が聞こえると、アンリ様は「くそっ」と苦しそうな表情で魔法を連発する。
「ミュリエルの魔力量は少ないんだ! すぐに魔力切れになるだろ!」
ドン、ドン、と単純な攻撃魔法を繰り返すアンリ様。
(これでよく偉そうにふんぞり返ってるわよね。騎士団の皆の方がよっぽど動けるわよ)
確かにここまでされたら、いつもの私なら魔力切れになる。でも――――。
私は胸元のネックレスの石をぎゅう、っと握りしめた。
温かな光が私に力をくれる。
アンリ様の攻撃魔法を全て打ち消すと、間も与えず、私は攻撃魔法を繰り出した。
ドオン、という大きな音と砂埃が舞った。
観衆にいた魔術師団員たちは目を丸くして、野次っていたその口を噤んだ。
砂埃が収まると、私の足元にはアンリ様が倒れていた。
57
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~
めもぐあい
恋愛
イスティリア王国では忌み嫌われる黒髪黒目を持ったクローディアは、ハイド伯爵領の領主だった父が亡くなってから叔父一家に虐げられ生きてきた。
成人間近のある日、突然叔父夫妻が逮捕されたことで、なんとかハイド伯爵となったクローディア。
だが、今度は家令が横領していたことを知る。証拠を押さえ追及すると、逆上した家令はクローディアに襲いかかった。
そこに、天使の様な美しい男が現れ、クローディアは助けられる。
ユージーンと名乗った男は、そのまま伯爵家で雇ってほしいと願い出るが――
【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!
こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。
そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。
婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。
・・・だったら、婚約解消すれば良くない?
それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。
結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。
「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」
これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。
そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。
※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。
※本編完結しました。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
【完結】精霊姫は魔王陛下のかごの中~実家から独立して生きてこうと思ったら就職先の王子様にとろとろに甘やかされています~
吉武 止少
恋愛
ソフィアは小さい頃から孤独な生活を送ってきた。どれほど努力をしても妹ばかりが溺愛され、ないがしろにされる毎日。
ある日「修道院に入れ」と言われたソフィアはついに我慢の限界を迎え、実家を逃げ出す決意を固める。
幼い頃から精霊に愛されてきたソフィアは、祖母のような“精霊の御子”として監視下に置かれないよう身許を隠して王都へ向かう。
仕事を探す中で彼女が出会ったのは、卓越した剣技と鋭利な美貌によって『魔王』と恐れられる第二王子エルネストだった。
精霊に悪戯される体質のエルネストはそれが原因の不調に苦しんでいた。見かねたソフィアは自分がやったとバレないようこっそり精霊を追い払ってあげる。
ソフィアの正体に違和感を覚えたエルネストは監視の意味もかねて彼女に仕事を持ち掛ける。
侍女として雇われると思っていたのに、エルネストが意中の女性を射止めるための『練習相手』にされてしまう。
当て馬扱いかと思っていたが、恋人ごっこをしていくうちにお互いの距離がどんどん縮まっていってーー!?
本編は全42話。執筆を終えており、投稿予約も済ませています。完結保証。
+番外編があります。
11/17 HOTランキング女性向け第2位達成。
11/18~20 HOTランキング女性向け第1位達成。応援ありがとうございます。
【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました
er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。
宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。
絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。
近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる