落ちこぼれ魔術師なのに、王子殿下の家庭教師に任命されまして〜なぜ年下殿下から甘く口説かれているのでしょう?〜

海空里和

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第二章 王子様の家庭教師

第22話(クリスティー視点)

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(何で? 何でよ!?)

 自信満々にお姉様との勝負に向かったアンリ様が、今、私の目の前で地面に倒れている。

 ザワザワと私の取り巻きたちがざわめく。

 真っ直ぐにこちらを見るお姉様に、私はつい顔を逸らしてしまった。

(何でよ! 何で私が敗者みたいな、惨めな気持ちにならなきゃいけないの? そういうのはお姉様の役目でしょ!?)

 幼い頃、両親の期待を背負っていたお姉様。優しい両親の愛だけは、私に注がれていると思った。

 でも両親の期待も、シルヴァラン伯爵家も、皆お姉様が持って行ってしまう。私の物にはならない。

 お姉様の婚約者、アンリ様は出会ってからずっと、私を見る瞳がいつもうっとりとしていた。魔法学校でもモテまくっていたけど、良い所の子息には大抵婚約者がいた。

 アンリ様は次男だけど、名門クラリオン伯爵家。しかもお姉様の婚約者。そんな彼が私に夢中になっていく様は気分が良かった。

 そして天は私に味方をした。お姉様の魔力量は増える事無く、周りから無能認定されていった。

 私に夢中になりながらも、シルヴァラン伯爵家の当主の座を狙っていたアンリ様は、それでやっと決心をしてくれて、お姉様と婚約を破棄した。

 あの時のお姉様の表情は、気分が良かった。

 お姉様は私よりも無能で、不幸でなくっちゃ。

 それなのに、魔法省で見かける最近のお姉様は、昔のように活き活きとした顔をしていた。

 アドリア殿下の家庭教師になったとは聞いたが、両親は失敗してすぐにクビになると言っていたし、私もそうなると思っていた。

 でも、お姉様がクビになったという話は届いて来ず、代わりにどうやら上手くいっているらしい、といった話が聞こえてきた。

 お姉様は何故かあのブロワ侯爵家のご令嬢とその婚約者であるラヴァエール侯爵家のご子息と懇意にしている。

 私でも中々お会い出来ない魔法騎士団の方と安々と関わっているお姉様に、無能のくせに、と苛立つ。

『あなたが姉から家庭教師の座を奪えば良いのです』

 魔術師団長に言われ、何故そんな簡単なことを思いつかなかったのか、とハッとした。

 婚約者のアンリ様も奪えたのだから、あの王子様も簡単に虜にして奪えるはず。

『実は私は第二王子こそ王太子にと考えているのです。上手く行けばあなたを王太子妃に出来ますよ』
『でもアンリ様が……』
『そんなもの、姉に返せばよろしい。ご両親もその方が喜びますよ。貴方みたいな素晴らしい魔術師にはより良い相手が相応しい』

 魔術師団長の言葉に、その通りだと思った。

 アドリア殿下はガードが固く、彼どころか、お姉様にも近寄れずにいた。アンリ様を唆し、ようやく今日、姉に接触出来たと思えば、アドリア殿下も出てくるという好機。

 でもアドリア殿下は私の周りの男どもと違い、私に見惚れるわけでもなく、お姉様にその熱い視線を向けていた。私の潤んだ瞳にも動じない。

 何としてもこの人を私の物にしたいと思った。それなのに――

「勝負はついたな。これ以上、俺たちに口を出すな」

 アドリア殿下がお姉様の肩を抱き寄せ、私を見据えた。

 お姉様の首元には、エメラルドグリーンの石がついたネックレスが下がっている。魔法石は、まだ魔法騎士団にしか出回らない、上等な魔法具。

「ま、魔法石を使うなんて卑怯よ!」

 気付けば叫んでいた。アドリア殿下はそんな私に冷たい視線を向けると言った。

「アンリ・クラリオンも魔法具を使用しているだろう」

 倒れているアンリ様に目をやる殿下。アンリ様は魔法具であるグローブを手にはめている。

「わ、私たち魔術師が魔法具を扱うのは当たり前でしょ!」

 はあー、と殿下の大きな溜息が聞こえた。

「話にならんな。それに、この魔法石を扱えたのはミュリエルの知識の賜物だ。これだってミュリエルがいなければこの世に存在していない」

 ぐっと肩を寄せられたお姉様の頬が赤らみ、驚いた表情で殿下を見ている。

(何よ、その顔!!)

 殿下の態度が、お姉様に触れる仕草が、お姉様を愛おしいと言っている。

(私だって多くの人に愛されているのに……!)

 何故か負けたような気持ちになる。

「後悔なさりますよ」
「しないさ。なあ」

 悔しまぎれに出た言葉も、殿下に笑顔で返されてしまう。しかもその笑顔を向けられたお姉様がまだ頬を赤く染めて頷く。

「クリスティー、あなたにだって家庭教師の座は渡さない」

 真っ直ぐに私に目を向けたお姉様がきっぱりと告げた。

(何よ……誰よ……これ……)

 お姉様は私と比べられて俯いて腐って、最終的には私に跪いて許しを請うのよ!! そんな風になるはずなのよ!!

 私はお姉様のこんな瞳を知らない。

 プイ、と顔を逸らすと、私は急いで訓練場を後にした。気を失っているアンリ様なんて知らないわ!

「あ、クリスティー嬢、待って~」

 私の取り巻きたちも慌てて追いかけるように訓練場を出て行く。

 早く魔術師団長様に報告しなくては!

(お姉様に向ける、あの瞳を絶対に私に向けてやるんだから! 私の虜にして思いのままにしてやりたい!)

 どうしてもアドリア殿下が欲しい。

 私は急いで魔術師団長様のいる執務室へと走った。
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