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5.出会い
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「いたか?」
「奴は怪我をしているはずだ! そう遠くへは行けまい!」
茂みに隠れながら、騎士たちをやり過ごす。
(怪我……? 魔物とかかしら?)
平和ボケした騎士たちは整備された綺麗な道しか使わず、走って行く。私は森の中の獣道をザクザクと進んで行った。
(でも、この国に魔物は出ないし、魔物は喋らないのよね……)
私は、移動中も毎日浄化を欠かさなかった。
途中まで進んで、月明りが届かない深い場所まで入っていたことに気付く。
「わ……」
急に進むのが怖くなった私はそっと呼びかけてみる。
「誰かいますか……? 助けに来ましたよー……」
確かに導かれて来た声の方角に私の声は吸い込まれていく。
すると突然、キラキラと銀色の光が森の奥から伸びて、私の足元で止まった。
――こっち……!
不思議な出来事に驚きながらも、私は吸い寄せられるように光が示す方へ足を向けた。
木々を避け、どんどん奥へと進むと、光がふっと消える。
開かれたその場所に辿り着いた私は思わず息を飲んだ。
目の前には、銀色の毛皮を発光させ、吸い込むような海色の瞳でこちらを見るフェンリル。
美しいその姿と圧倒的な存在に、私はその場に縫い留められた。
(フェンリル……文献では見たことあるけど、実際にこの目で見られるなんて……)
フェンリルは聖魔法を司る聖獣。私たち聖女の間では神ともいうべき幻の存在。
昔、大聖女に仕えたフェンリルもいたらしいけど、伝説にすぎない。
(でも、何でこんな所に?)
未だ驚く私の目の前には気付けばフェンリルの顔。
「――?!」
驚いて離れようとすると、その威厳のある瞳に涙をうるると溜め、フェンリルは私に飛びついた。
「エクトルを助けて~!」
「へっ??」
☆
「じゃあ、あなたじゃなくて、あなたのご主人様が怪我をしたの?」
「うん……」
もふもふに飛びつかれた私はそのまま地面に倒れこんだ。幸いにも森には草が生い茂っており、服は払えば汚れも目立たない。
それよりも、フェンリルが本当に人間に仕えている事実が驚きだ。
さっきからぐすぐすしている隣のフェンリルは、アパタイトという名前らしい。第一印象の威厳さがすっかり無くなり、私は唖然としていた。
アパタイトはフェンリルとしてはまだ子供の年齢らしい。
大きな体に似つかわない子供のような話し方にだんだんおかしくなってくる。
「ここだよ」
(それどころじゃなかった!)
アパタイトの案内でさらに奥へ進むと、背の高い草で隠され、男の人が寝かされていた。
草をかき分け、その人を見る。
ブルーグレイの綺麗な髪、整った顔立ち。オルレアン帝国の紋様が入ったえんじ色の騎士服。
アパタイトが発光してくれているおかげで、彼がよく見えた。
「大丈夫ですか?」
彼の上半身をそっと起こす。
右腕がだらりと下がり、そこからは血が流れているのが見えた。ポケットのハンカチで止血する。
額に汗をかき、苦痛で顔を歪める彼は、美しいホリゾンブルーの瞳を開くと、私に気付いた。
「誰だか知らないが……アパタイトが警戒しないということは……」
「しゃべらない方が……!」
必死に言葉を紡ごうとする彼に私は声をかける。それでも彼は私に必死に伝えようとする。
「ご令嬢、アパタイト……そこのフェンリルをオルレアンまで送り届けてくれないだろうか」
「僕はエクトルを置いていかないよ!」
私に願う彼の横でアパタイトが叫んだ。
「アパタイト……私はお前の背に乗っていくのは無理だ。彼女を乗せ、助けを呼んで来てくれないか。お前の言葉は皆にはわからないのだから……」
(えっ!)
彼の言葉に私は驚いた。
(じゃあ何で私にはわかるんだろう?)
「その間にエクトルが見つかったら殺されちゃうよ!!」
こんな奥までラヴァルの騎士は来ないだろう。しかし彼の青い顔を見る限り、一刻も早い治療が必要そうだ。
「君なら治せるよね?」
「へっ?!」
「君、聖女だよね」
さすが聖魔法の権化。アパタイトは私が聖女であることを見抜いてしまった。でも――。
「ごめん、私にその力は無い……」
エクトルさんの方を見れば、苦しそうに肩で息をし、顔を歪めている。
「私の連れが戻って来るから……! そしたら……!」
エクトルさんも連れて、国境を越えよう――そう言おうとして口を噤んだ。
エクトルさんは目を閉じ、意識を手放していた。
もう、時間は無いのだと、突きつけられる。
私は瘴気の浄化しか出来ない。聖女は一つの奇跡しか起こせないのだ。
(何が、聖女……!)
魔物から国を守るこの力は誇りに思っている。でも。
(目の前の一人も救えないなんて……!)
助けられもしないのに、のこのこやって来て、立ち尽くすだけ。
「出来るよ、君なら」
いつの間にか私の目の前にいたアパタイトが私の鼻に自分の鼻をちょん、と付けて言った。
「僕の聖魔法を流せば出来るよ」
「……どうやるの?」
考えるよりも先に言葉が出ていた。
「君の名前を教えて?」
「……アデリーナ」
「アデリーナ! うん、良い名前だ!」
アパタイトはそう言って笑うと、再び私と鼻を合わせる。
「いい? 今から君に聖魔法を流すから、受け取って?」
「えっ、どうやって――」
パチン、とウインクしたアパタイトが両目を閉じた。それに倣って私も目を閉じた。
アパタイトの鼻を通じて、温かな光が私に流れ込んでくるのを感じる。
私の中に確かにある、それを掴むと、すぐにエクトルさんの腕に流し込んだ。
すう、とその光が消えると同時にエクトルさんの顔に赤みが差していく。
「アデリーナ、やった! ありがとう!」
腕の血は止まり、傷も塞がっている。意識は戻らないが、アパタイトの反応を見る限り大丈夫そうだ。
(これが治癒の奇跡――)
見たことはあるが、私が使えるなんて。
「アデリーナは選ばれた聖女なんだね」
「? 浄化が出来るだけじゃなくて?」
「僕も難しいことはわからないけど、フェンリルの声が聞こえる聖女は特別なんだよ。治癒の奇跡も使えたでしょ?」
ふんふん、と得意げにアパタイトが話す。
「てことは、エクトルさんも使えるの?」
自分で言って、出来ていたら自分で治癒するよな、とふと思う。
「ううん、エクトルは攻撃系の聖魔法しか使えないよ。アデリーナが防御なら、エクトルはその逆」
「そうなの?! ……ねえアパタイト、私の名前だけど、誰にも言わないでくれる?」
「えっ! 何で?」
アパタイトの話を聞きながら、私はうーんと考えてお願いをした。
「私、実はラヴァルから国外追放されたの」
「えっ! アデリーナは悪い人じゃないよ?」
当たり前のように言うアパタイトに思わず嬉しくて笑顔になる。
「うん、悪いことはしてないんだけどね、オルレアンでは平和に暮らしたいの。だから、二人だけの秘密。ね?」
オルレアンは移民を受け入れてくれる。
オーウェンなら騎士団に入ることも出来るだろうし、私はミアと子供がやっていけるの見届けたら、一人で生きていくつもりだ。こっそりと聖女の力でオルレアンを浄化しながら。
(そのためには仕事を探さないとな)
「ええ~、じゃあ、アデリーナにもう会えない?」
考え込む私にアパタイトがしょんぼりする。
「……騎士団でお仕事とかないのかな?」
「え! アデリーナ、騎士団に入る?」
「ふふ、入らないけど、メイドとか募集してないかな? 国境沿いの駐屯地でもいいから」
「エクトルは団長だから帝都を拠点にしてるよ!」
アパタイトがさらっと凄いことを言った。
(エクトルさん、団長だったのか……)
フェンリルを従えるのだから、当然と言えば当然で。
「うん! 僕、口添えするよ! エクトルのとこならアデリーナ、僕とも一緒だもんね!」
「え?!」
驚いているうちに、納得したアパタイトが話を進めていた。
「奴は怪我をしているはずだ! そう遠くへは行けまい!」
茂みに隠れながら、騎士たちをやり過ごす。
(怪我……? 魔物とかかしら?)
平和ボケした騎士たちは整備された綺麗な道しか使わず、走って行く。私は森の中の獣道をザクザクと進んで行った。
(でも、この国に魔物は出ないし、魔物は喋らないのよね……)
私は、移動中も毎日浄化を欠かさなかった。
途中まで進んで、月明りが届かない深い場所まで入っていたことに気付く。
「わ……」
急に進むのが怖くなった私はそっと呼びかけてみる。
「誰かいますか……? 助けに来ましたよー……」
確かに導かれて来た声の方角に私の声は吸い込まれていく。
すると突然、キラキラと銀色の光が森の奥から伸びて、私の足元で止まった。
――こっち……!
不思議な出来事に驚きながらも、私は吸い寄せられるように光が示す方へ足を向けた。
木々を避け、どんどん奥へと進むと、光がふっと消える。
開かれたその場所に辿り着いた私は思わず息を飲んだ。
目の前には、銀色の毛皮を発光させ、吸い込むような海色の瞳でこちらを見るフェンリル。
美しいその姿と圧倒的な存在に、私はその場に縫い留められた。
(フェンリル……文献では見たことあるけど、実際にこの目で見られるなんて……)
フェンリルは聖魔法を司る聖獣。私たち聖女の間では神ともいうべき幻の存在。
昔、大聖女に仕えたフェンリルもいたらしいけど、伝説にすぎない。
(でも、何でこんな所に?)
未だ驚く私の目の前には気付けばフェンリルの顔。
「――?!」
驚いて離れようとすると、その威厳のある瞳に涙をうるると溜め、フェンリルは私に飛びついた。
「エクトルを助けて~!」
「へっ??」
☆
「じゃあ、あなたじゃなくて、あなたのご主人様が怪我をしたの?」
「うん……」
もふもふに飛びつかれた私はそのまま地面に倒れこんだ。幸いにも森には草が生い茂っており、服は払えば汚れも目立たない。
それよりも、フェンリルが本当に人間に仕えている事実が驚きだ。
さっきからぐすぐすしている隣のフェンリルは、アパタイトという名前らしい。第一印象の威厳さがすっかり無くなり、私は唖然としていた。
アパタイトはフェンリルとしてはまだ子供の年齢らしい。
大きな体に似つかわない子供のような話し方にだんだんおかしくなってくる。
「ここだよ」
(それどころじゃなかった!)
アパタイトの案内でさらに奥へ進むと、背の高い草で隠され、男の人が寝かされていた。
草をかき分け、その人を見る。
ブルーグレイの綺麗な髪、整った顔立ち。オルレアン帝国の紋様が入ったえんじ色の騎士服。
アパタイトが発光してくれているおかげで、彼がよく見えた。
「大丈夫ですか?」
彼の上半身をそっと起こす。
右腕がだらりと下がり、そこからは血が流れているのが見えた。ポケットのハンカチで止血する。
額に汗をかき、苦痛で顔を歪める彼は、美しいホリゾンブルーの瞳を開くと、私に気付いた。
「誰だか知らないが……アパタイトが警戒しないということは……」
「しゃべらない方が……!」
必死に言葉を紡ごうとする彼に私は声をかける。それでも彼は私に必死に伝えようとする。
「ご令嬢、アパタイト……そこのフェンリルをオルレアンまで送り届けてくれないだろうか」
「僕はエクトルを置いていかないよ!」
私に願う彼の横でアパタイトが叫んだ。
「アパタイト……私はお前の背に乗っていくのは無理だ。彼女を乗せ、助けを呼んで来てくれないか。お前の言葉は皆にはわからないのだから……」
(えっ!)
彼の言葉に私は驚いた。
(じゃあ何で私にはわかるんだろう?)
「その間にエクトルが見つかったら殺されちゃうよ!!」
こんな奥までラヴァルの騎士は来ないだろう。しかし彼の青い顔を見る限り、一刻も早い治療が必要そうだ。
「君なら治せるよね?」
「へっ?!」
「君、聖女だよね」
さすが聖魔法の権化。アパタイトは私が聖女であることを見抜いてしまった。でも――。
「ごめん、私にその力は無い……」
エクトルさんの方を見れば、苦しそうに肩で息をし、顔を歪めている。
「私の連れが戻って来るから……! そしたら……!」
エクトルさんも連れて、国境を越えよう――そう言おうとして口を噤んだ。
エクトルさんは目を閉じ、意識を手放していた。
もう、時間は無いのだと、突きつけられる。
私は瘴気の浄化しか出来ない。聖女は一つの奇跡しか起こせないのだ。
(何が、聖女……!)
魔物から国を守るこの力は誇りに思っている。でも。
(目の前の一人も救えないなんて……!)
助けられもしないのに、のこのこやって来て、立ち尽くすだけ。
「出来るよ、君なら」
いつの間にか私の目の前にいたアパタイトが私の鼻に自分の鼻をちょん、と付けて言った。
「僕の聖魔法を流せば出来るよ」
「……どうやるの?」
考えるよりも先に言葉が出ていた。
「君の名前を教えて?」
「……アデリーナ」
「アデリーナ! うん、良い名前だ!」
アパタイトはそう言って笑うと、再び私と鼻を合わせる。
「いい? 今から君に聖魔法を流すから、受け取って?」
「えっ、どうやって――」
パチン、とウインクしたアパタイトが両目を閉じた。それに倣って私も目を閉じた。
アパタイトの鼻を通じて、温かな光が私に流れ込んでくるのを感じる。
私の中に確かにある、それを掴むと、すぐにエクトルさんの腕に流し込んだ。
すう、とその光が消えると同時にエクトルさんの顔に赤みが差していく。
「アデリーナ、やった! ありがとう!」
腕の血は止まり、傷も塞がっている。意識は戻らないが、アパタイトの反応を見る限り大丈夫そうだ。
(これが治癒の奇跡――)
見たことはあるが、私が使えるなんて。
「アデリーナは選ばれた聖女なんだね」
「? 浄化が出来るだけじゃなくて?」
「僕も難しいことはわからないけど、フェンリルの声が聞こえる聖女は特別なんだよ。治癒の奇跡も使えたでしょ?」
ふんふん、と得意げにアパタイトが話す。
「てことは、エクトルさんも使えるの?」
自分で言って、出来ていたら自分で治癒するよな、とふと思う。
「ううん、エクトルは攻撃系の聖魔法しか使えないよ。アデリーナが防御なら、エクトルはその逆」
「そうなの?! ……ねえアパタイト、私の名前だけど、誰にも言わないでくれる?」
「えっ! 何で?」
アパタイトの話を聞きながら、私はうーんと考えてお願いをした。
「私、実はラヴァルから国外追放されたの」
「えっ! アデリーナは悪い人じゃないよ?」
当たり前のように言うアパタイトに思わず嬉しくて笑顔になる。
「うん、悪いことはしてないんだけどね、オルレアンでは平和に暮らしたいの。だから、二人だけの秘密。ね?」
オルレアンは移民を受け入れてくれる。
オーウェンなら騎士団に入ることも出来るだろうし、私はミアと子供がやっていけるの見届けたら、一人で生きていくつもりだ。こっそりと聖女の力でオルレアンを浄化しながら。
(そのためには仕事を探さないとな)
「ええ~、じゃあ、アデリーナにもう会えない?」
考え込む私にアパタイトがしょんぼりする。
「……騎士団でお仕事とかないのかな?」
「え! アデリーナ、騎士団に入る?」
「ふふ、入らないけど、メイドとか募集してないかな? 国境沿いの駐屯地でもいいから」
「エクトルは団長だから帝都を拠点にしてるよ!」
アパタイトがさらっと凄いことを言った。
(エクトルさん、団長だったのか……)
フェンリルを従えるのだから、当然と言えば当然で。
「うん! 僕、口添えするよ! エクトルのとこならアデリーナ、僕とも一緒だもんね!」
「え?!」
驚いているうちに、納得したアパタイトが話を進めていた。
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