聖騎士団長の婚約者様は悪女の私を捕まえたい

海空里和

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1.悪女に転生したようです

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「目が覚めたか悪女」

 色っぽいイケメンボイスで目が覚めた。

(あれ、そんな目覚まし、ダウンロードしていましたっけ?)

 ひどく身体が重い。

(昨日も残業でしたからね)
「おい?」

 瞼が重い。まだ布団に潜っていたい。

(あれ? うちの布団、こんなに手触りが良かったでしたっけ?)

 やけにふかふかなマットレスに、スベスベな生地の布団に違和感を覚える。

(まあ、いいです)

 まだ眠たい私は細かいことは無視して、再び夢の中へ――――

「おい! リリー!」
「はいっっ!!」

 イケメンボイスに名前・・を呼ばれ、私は反射的に飛び起きた。

(リリー?)

 覚醒とともに、私は目を瞠った。
 私の部屋じゃない!?

「痛いです!!」

 脇腹が痛い。
 あまりの痛さに、目からは涙が出た。

(え、私、こんな怪我してました?)

 自分の脇腹には包帯が巻かれているのがわかり、私はパジャマをめくろうとしてぎょっとする。

(え!? なぜこんなゴージャスなネグリジェを??)
「急に身体を起こすからだろう。自業自得だ」

 目をぱちくりとさせる私の目の前には、さきほどのイケメンボイスの主が。
 アイスシルバーの髪に、アッシュグレーの瞳。色っぽくてイケメンな声から想像されるよりも遥かに顔が良い。

(うわ~! かっこいいです! 私、疲れすぎてまだ夢でも見ているのでしょうか?)
「おい? 聞いているのか?」

 ぽや~っと彼に見惚れるも、目の前のイケメンは怪訝そうな顔になり、消えはしない。
 私は自分の頬をつねってみる。

「痛いです……」
「……君は何をやっているんだ」

 どうやら現実のようで、驚く私にイケメンさんは呆れた顔になった。

「あの……あなたはどちら様でしょうか……? 泥棒さん……ではないですよね?」

 私の部屋ではないということは、彼の部屋だろうか。
 ドキドキしながらもイケメンさんに尋ねると、彼は冷ややかな表情になった。

「君はまだ意識が混濁していると見える。無理もない、刺されたのだからな」
「刺された!?」

 物騒な話に、私は思わず青ざめた。

「私……誰かに恨まれるようなこと……しましたでしょうか」
「白々しい! お前が大聖女の権力で好き勝手やっているから、こんな事件が起きるんだ!」
「だい……せいじょ?」

 異世界のようなワードにハッとする。
 よく見れば、イケメンさんの装いも様子がおかしい。白いネクタイ、鮮やかなスカイブルーの騎士服はコスプレではないようだ。
 サイドテーブルに置かれた手鏡が目に付き、私は恐る恐るそれを手に取った。

(わ……! なんて美人さんでしょう!)

 鏡の中の私は、ホワイトブロンドの巻き髪に、ラベンダー色の瞳がきりっとしている。

(これは……いわゆる異世界転生というやつでしょうか?)

 鏡を見ながら自身の顔をペタペタと触ってみる。

(私、過労で死んだのでしょうか?)
「刺されたからと同情する気はない」

 呆然とする私にイケメンさんは続けた。

「流行り病が蔓延る中、治療院に入れる者を金で選別し、貧しい者は街の隅に追いやり蓋をする……」
「なんてひどいことを……」

 イケメンさんの話に私は心が痛み、手で口を覆った。

「お前の所業だ!!」
「ええええ!?」

 すかさずイケメンさんから怒号が飛び、私は驚愕した。
 話についていけないが、とりあえず私は悪いことをして、刺されたらしい。

「それでは、私は捕まるのでしょうか?」
「…………!!」

 しょんぼりする私にイケメンさんは鋭い視線を送った。

「君を捕まえるのは不可能だ。だが、罪を告白し、自ら出頭するというのなら、聖騎士団団長として俺が君を拘束してやろう」

 とりあえず、すぐには捕まらないらしい。

「……わかりました。ただ、私は怪我をしておりますし、刺されたショックで記憶を失ったようです」
「――っ、いまさら何を……っ」

 私の言葉にイケメンさんがカッとなったので、私は唇に指をあてて静かに微笑んだ。

「っ……!」

 言葉を呑み込んでくれたイケメンさんに会釈すると、私は続けた。

「まずは怪我を治し、それから己がしてきた所業を振り返りたいと思います。記憶を取り戻し、許されるなら罪滅ぼしもしたいと思います。出頭はそれからです」
「……時間を稼いで逃げようというのか!?」

 イケメンさんが怖い顔で私を睨んだ。

(うーん、信用がないです。この美人さんはいったいどれだけ悪いことをしてきたのでしょう)

 ふう、と深呼吸をしてイケメンさんに向き合う。

「けして逃げはしません。そのためにあなたが私を監視されに来られたのでは? もしおかしな動きをすれば罰していただいて構いません」

 イケメンさんは聖騎士団の団長だと言った。ならば、今回のことでこの美人さんを見張るために派遣されたのだと考えた。

「……お前、本当にあのリリー・グランジュか?」
「私はリリー・グランジュというのですね」
「さきほど俺が呼んだら返事をしていただろう」

 怖い顔のまま、イケメンさんが言った。

(確かに、記憶は無いのに、自分の名前だとわかった・・・・んですよね)

 私は人差し指を頭に付け、考え込む。

(異世界転生って、前世の記憶を思い出すだけの物ですよね?)

 リリーとしての記憶が無いのは、刺されたショックのせいなのか。

「俺は聖騎士団としてだけではなく、お前の婚約者として今回、白羽の矢が立った」

 考え込む私に、イケメンさんがとんでもない事実を教えてくれた。

「えっ……婚約者……ですか? あなたみたいなイケメンさんが?」

 驚きで素直に口に出してしまった。
 イケメンさんは怪訝な顔をすると、私に告げた。

「お前は俺の顔がお気に入りでよくからかっていたな。いい機会だ。お前の悪行を洗い出し、今度こそ婚約破棄してやる」
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