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33.記憶
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リリアン・フレミー、16歳。キャラメルブロンドの髪は肩まで伸びていて、ライムグリーンの瞳はお母様譲りだ。
フレミー伯爵家は小さな辺境の地を治める貧乏な家だけど、両親、妹に弟、家族はみんな仲良しだ。
私は小さい頃から癒しの魔法が得意で、領地では小さなお医者さんと呼ばれていた。
15歳のとき、私の能力は聖女が持つ聖魔法によるものだと知ると、王都に行く決意をした。
聖女のお給金は破格らしく、弟や妹を良い学校に通わせるための決断だった。
聖女として教会に迎えられた私は、正聖女としての地位を与えられた。
しかし、この正聖女には表立った仕事しか来ず、ほとんどの者がお茶会ばかりで働いていない。
報酬だけ取り、聖女たちは競い合うようにドレスを新調し、己を飾り立てていく。
『汚れ仕事は準聖女がやっているのだから、私たちは聖女の品格を民衆に知らしめるために存在するのが仕事よ』
ある日疑問を口にしたら、先輩聖女がそう言った。
社交界の場と何ら変わりのないこの場所に、私の聖女に対する憧れは打ち砕かれた。
聖女の派遣は神官長と大聖女様に権限がある。
(私には勝手に動くこともできない……)
己のふがいなさを責めながらも、私は準聖女と呼ばれる子たちと接触することに成功する。
私は準聖女たちがリスクのある現場に送り込まれながらも、何のケアもされていないことを知った。
そこで私は準聖女たちが任務へ行く前に浄化魔法、帰ってきたときに治癒魔法をこっそりと施すようになった。
間接的に私も聖女として役に立ちたかった。
全ては無理だったけど、それで何人かの準聖女たちと仲良くなり、助けることができた。
『あなたがリリアン・フレミーですね?』
そうするうちに、副神官長に声をかけられた。
彼は教会の現状に嘆いており、準聖女たちを私と同じようにサポートしていた。
副神官長と協力するようになると、より多くの準聖女を助けることができた。そして私自身、孤児院へ訪問できるようにもなった。見つかれば処罰ものだけど、根本を変えることもできず、準聖女を手伝うことしかできない私はホッとした。自身もようやく聖女として仕事ができるのだと。
私は教会からのお給金を実家に送金して、残りは孤児院に寄付をした。副神官長からのアドバイスで、怪しまれないよう毎月ドレスを買い替え、他の正聖女たちと同じように過ごした。古いドレスをすぐにお金に換えたので生活も何とかなった。
今年最後の式典の朝、なぜか私は大聖女様付きに任命された。
彼女の後ろを三人の正聖女が補佐として付いて回るのだ。
『君は一番後ろで付いて歩くだけでいいから』
白い顎ひげを蓄え、髪もなくつるつるの頭で強欲そうな顔――初めて見た神官長の印象だ。
私は大聖女と揃いの銀色のドレスを身に付け、他の正聖女と式典に臨んだ。
大聖女様はホワイトブロンドのゆったりとした巻き髪が美しく、吊り上がったラベンダーの瞳は全てを見透かしているようで怖かった。
「皆、ご苦労様」
お話しすることはもちろん叶わないけど、彼女は私たちに向かって一言だけ声をかけた。
他の二人はそのことに歓喜していたけど、私は彼女の底知れない冷たさを感じたようで、震えが止まらなかった。
「死ね! リリー・グランジュ!」
事件が起こったのは、大聖女様が式典の会場に辿り着き、馬車から降りたときだった。
囲んでいた民衆の中からナイフを持った男が大聖女様に迫った。
恐怖で混乱する会場の中、大聖女様は笑った気がした。
「痛っ……」
大聖女様の脇腹が刺されたはずなのに、私が痛みでうずくまる。
薄汚れた緑のマントに身を包み、私を刺したのは、ルートと呼ばれていた聖騎士――
「あの男を捕らえろ!」
(あの場に聖騎士団がいたのはリリーを捕らえるためだったんだ)
聖騎士たちは逃げたその男を追って行った。
「リリー様!!」
悲痛な叫び声が私に向かって響く。
(あれ……? どうして私が倒れているのでしょう?)
痛みで崩れ落ちる私の目には、お揃いの銀色のドレスを着て、先輩正聖女二人の後ろで倒れる私――
騒然とする式典がどうなったのかなんて知らない。私はその場で気を失ったのだから。
『リリーおねえさまは、ぽやっとしているのですから、知らない人についていったらダメですよ?』
そう言ったのは確か、私の弟――
(そうです!! 私はリリアンです!)
前世とリリアンの記憶がようやく同化する。見慣れない天井が目の前に広がる。
「もうっ! 最悪! 何、この爪!?」
聞きなれた私の――リリーの声がして、顔を横に向けた。
「あら、お目覚め?」
いまだお仕着せを来た彼女は私に気付いて笑った。その笑みに、初めて声をかけてもらったあのときの感覚がよみがえり背筋が凍った。
「お互い眠っているはずだったのに、まさか好き勝手動いているとはね」
意味の分からないことを言いながら、リリーが私のベッドに近付く。
「その万が一のときのためにルートを仕込んでいたのではないですか」
リリーの後ろからは聞いたことのある高齢男性の声がした。
趣味の悪い赤いガウンを纏った強欲そうな顔―――神官長がリリーと並んで立っていた。
フレミー伯爵家は小さな辺境の地を治める貧乏な家だけど、両親、妹に弟、家族はみんな仲良しだ。
私は小さい頃から癒しの魔法が得意で、領地では小さなお医者さんと呼ばれていた。
15歳のとき、私の能力は聖女が持つ聖魔法によるものだと知ると、王都に行く決意をした。
聖女のお給金は破格らしく、弟や妹を良い学校に通わせるための決断だった。
聖女として教会に迎えられた私は、正聖女としての地位を与えられた。
しかし、この正聖女には表立った仕事しか来ず、ほとんどの者がお茶会ばかりで働いていない。
報酬だけ取り、聖女たちは競い合うようにドレスを新調し、己を飾り立てていく。
『汚れ仕事は準聖女がやっているのだから、私たちは聖女の品格を民衆に知らしめるために存在するのが仕事よ』
ある日疑問を口にしたら、先輩聖女がそう言った。
社交界の場と何ら変わりのないこの場所に、私の聖女に対する憧れは打ち砕かれた。
聖女の派遣は神官長と大聖女様に権限がある。
(私には勝手に動くこともできない……)
己のふがいなさを責めながらも、私は準聖女と呼ばれる子たちと接触することに成功する。
私は準聖女たちがリスクのある現場に送り込まれながらも、何のケアもされていないことを知った。
そこで私は準聖女たちが任務へ行く前に浄化魔法、帰ってきたときに治癒魔法をこっそりと施すようになった。
間接的に私も聖女として役に立ちたかった。
全ては無理だったけど、それで何人かの準聖女たちと仲良くなり、助けることができた。
『あなたがリリアン・フレミーですね?』
そうするうちに、副神官長に声をかけられた。
彼は教会の現状に嘆いており、準聖女たちを私と同じようにサポートしていた。
副神官長と協力するようになると、より多くの準聖女を助けることができた。そして私自身、孤児院へ訪問できるようにもなった。見つかれば処罰ものだけど、根本を変えることもできず、準聖女を手伝うことしかできない私はホッとした。自身もようやく聖女として仕事ができるのだと。
私は教会からのお給金を実家に送金して、残りは孤児院に寄付をした。副神官長からのアドバイスで、怪しまれないよう毎月ドレスを買い替え、他の正聖女たちと同じように過ごした。古いドレスをすぐにお金に換えたので生活も何とかなった。
今年最後の式典の朝、なぜか私は大聖女様付きに任命された。
彼女の後ろを三人の正聖女が補佐として付いて回るのだ。
『君は一番後ろで付いて歩くだけでいいから』
白い顎ひげを蓄え、髪もなくつるつるの頭で強欲そうな顔――初めて見た神官長の印象だ。
私は大聖女と揃いの銀色のドレスを身に付け、他の正聖女と式典に臨んだ。
大聖女様はホワイトブロンドのゆったりとした巻き髪が美しく、吊り上がったラベンダーの瞳は全てを見透かしているようで怖かった。
「皆、ご苦労様」
お話しすることはもちろん叶わないけど、彼女は私たちに向かって一言だけ声をかけた。
他の二人はそのことに歓喜していたけど、私は彼女の底知れない冷たさを感じたようで、震えが止まらなかった。
「死ね! リリー・グランジュ!」
事件が起こったのは、大聖女様が式典の会場に辿り着き、馬車から降りたときだった。
囲んでいた民衆の中からナイフを持った男が大聖女様に迫った。
恐怖で混乱する会場の中、大聖女様は笑った気がした。
「痛っ……」
大聖女様の脇腹が刺されたはずなのに、私が痛みでうずくまる。
薄汚れた緑のマントに身を包み、私を刺したのは、ルートと呼ばれていた聖騎士――
「あの男を捕らえろ!」
(あの場に聖騎士団がいたのはリリーを捕らえるためだったんだ)
聖騎士たちは逃げたその男を追って行った。
「リリー様!!」
悲痛な叫び声が私に向かって響く。
(あれ……? どうして私が倒れているのでしょう?)
痛みで崩れ落ちる私の目には、お揃いの銀色のドレスを着て、先輩正聖女二人の後ろで倒れる私――
騒然とする式典がどうなったのかなんて知らない。私はその場で気を失ったのだから。
『リリーおねえさまは、ぽやっとしているのですから、知らない人についていったらダメですよ?』
そう言ったのは確か、私の弟――
(そうです!! 私はリリアンです!)
前世とリリアンの記憶がようやく同化する。見慣れない天井が目の前に広がる。
「もうっ! 最悪! 何、この爪!?」
聞きなれた私の――リリーの声がして、顔を横に向けた。
「あら、お目覚め?」
いまだお仕着せを来た彼女は私に気付いて笑った。その笑みに、初めて声をかけてもらったあのときの感覚がよみがえり背筋が凍った。
「お互い眠っているはずだったのに、まさか好き勝手動いているとはね」
意味の分からないことを言いながら、リリーが私のベッドに近付く。
「その万が一のときのためにルートを仕込んでいたのではないですか」
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