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35.現実
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「神官長、貴殿を横領、聖女誘拐・監禁の罪で拘束する!」
アンディ様の口上で聖騎士たちがぞろぞろと部屋に入って来た。
神官長は大人しく捕まっている。それが不気味に感じた。
「リリー!」
アンディ様の心配そうな瞳がこちらを向く。
『アンディ様!』
「アンディ様!」
声にならない叫びがリリーによってかき消される。
「心配した……!」
アンデイ様はベッドサイドの床にしゃがみ込むと、リリーの縄を急いで解いた。
(あ……)
自分が「リリー」じゃないことを目の当たりにして目の前が暗くなった。
「アネッタから君がいなくなったと知らせが来て、すぐに君を訪ねて来た聖女の痕跡を追ったら神官長の屋敷にたどり着いた」
「大事なときにご迷惑をおかけしてすみません……」
完璧に私の「リリー」を演じる彼女にアンディ様も気付かない。
「いいんだ。君が無事で良かった」
目の前でリリーを抱きしめるアンデイ様に胸が潰れそうになった。
「リリアン・フレミーだね? 副神官長が心配していたよ。どうしてこんなことをしたんだい? 神官長に脅されていたの?」
ベッドサイドまで来た副団長のライリーさんが私を覗き込んだ。
『あ……』
ぱくぱくと口を動かすも、声が出ない。
「? どうしたんだい?」
不思議そうにするライリーさんにリリーが叫んだ。
「その子は神官長に脅されて何でも言うことを聞いていたみたいなんです! 私、その子が持ち出した神官長の罪の証拠を預かっていたんです!」
「!?」
「リリー……記憶が?」
リリーの説明に私を含め三人が息を呑んで彼女を見た。
「はい……神官長はそのことに気付いて私に刺客を放ったようです」
「じゃあ……リリーはあの悪事に関わっていなかったんだな?」
「それでも私が今までしてきた行いが消えるわけではありませんが……」
安堵した顔を見せるアンディ様にリリーは殊勝な表情をしてみせる。
(違う! リリーは嘘をついている! アンディ様!)
「どうした!? もう神官長はいないんだから安心しろ」
アンディ様に伝えたいのに、ライリーさんに制されてしまう。
「その子はずっと神官長の世話をするためにここに監禁されていました。これからは私が教会で面倒を見ようと思います」
「ああ、わかった。でも君を危険な目に遭わせたんだ。事情聴取のため聖騎士団で一旦預かるぞ?」
「ありがとうございます、アンディ様!」
リリーがアンディ様の胸に飛び込んだので、嫉妬でどうにかなりそうだった。
「団長、婚約者様をお屋敷まで送ってさしあげたらどうですか? この子は私が連行しますから」
「そうか、すまないライリー」
アンディ様はそう言うと、リリーの肩を抱いて部屋を出て行ってしまった。リリーがこちらを振り返り、ほくそ笑んでいた。
「……君もバカなことをしたな。今のリリー様なら相談すれば助けてくださったはずだ。騎士団長の婚約者の誘拐補助は罪が重いよ? まあリリー様が面倒見てくださると言っていたし、大丈夫だろう」
私に語りかけるライリーさんにブンブンと首を振る。
「何だ? こんなに温情をかけられておいて反省していないのか?」
呆れたように話すライリーさんに、今の私では何を訴えようと無駄だと悟る。
(リリーのことを信用してくれて嬉しかったのは私だからであって……)
悲しくて泣けてくる。
リリーは本物の、とんでもない悪女だった。
(リリーと結婚しないとアンディ様は命を落とす……)
改めてそんな重大な決断をしてくれたアンディ様に嬉しいやら悲しいやらで感情が追い付かない。
(アンディ様と想いを通じ合わせたのは昨日のことでしたよね……)
熱を宿したアッシュグレーの瞳も、温かい彼の体温も、私に向けられたものではない。
リリーと違って美人でもないし、貧乏伯爵家の娘と聖騎士団の団長様とでは釣り合わない。
(でも……リリーはアンディ様のこと好きじゃありません。それに本物の悪女が相手では不幸になってしまいます……)
「何だ? 今反省したのか? ほら、行くぞ」
ライリーさんが俯いた私をベッドから下ろす。
「ん? そういえば何で君はベッドにいたんだ?」
「…………」
何も言えずに眉尻を下げて笑う。
「だんまりだな。リリー様がかばってくれなきゃ君は牢屋行きだったんだぞ?」
リリーは口封じのため私を殺すつもりでいる。ということは、私の声を封じた術も永久的なわけではないのかもしれない。それか、私の行いに本当に怒り狂っているかのどっちかだ。
(どちらにせよ、騎士団に拘束されたのはありがたいです)
まだアンディ様に接触できるチャンスがあるかもしれない。
そうして私はライリーさんに連れられて聖騎士団に拘束されることとなった。
「ほら好待遇なことに感謝するんだな」
ライリーさんに連れられて来たのは、聖騎士団内にある小さな部屋だった。とりあえず牢屋じゃなくてホッとする。
(そうだ、筆談なら!)
部屋を見渡すも、簡素なベッドに椅子一脚とテーブルがあるだけ。
ライリーさんにジェスチャーで筆談したいと伝えてみる。
「ん? ダメだよ。筆記用具さえも凶器になる。自害されて口を閉ざされたらたまったもんじゃないからな。君は神官長の悪事の片棒を担いでいたんだ」
あんなに敵視していたリリーの言うことを完全に信じている。
私は成す術もなく、けっきょく聖騎士団に拘束されたまま一夜を明かした。
アンディ様の口上で聖騎士たちがぞろぞろと部屋に入って来た。
神官長は大人しく捕まっている。それが不気味に感じた。
「リリー!」
アンディ様の心配そうな瞳がこちらを向く。
『アンディ様!』
「アンディ様!」
声にならない叫びがリリーによってかき消される。
「心配した……!」
アンデイ様はベッドサイドの床にしゃがみ込むと、リリーの縄を急いで解いた。
(あ……)
自分が「リリー」じゃないことを目の当たりにして目の前が暗くなった。
「アネッタから君がいなくなったと知らせが来て、すぐに君を訪ねて来た聖女の痕跡を追ったら神官長の屋敷にたどり着いた」
「大事なときにご迷惑をおかけしてすみません……」
完璧に私の「リリー」を演じる彼女にアンディ様も気付かない。
「いいんだ。君が無事で良かった」
目の前でリリーを抱きしめるアンデイ様に胸が潰れそうになった。
「リリアン・フレミーだね? 副神官長が心配していたよ。どうしてこんなことをしたんだい? 神官長に脅されていたの?」
ベッドサイドまで来た副団長のライリーさんが私を覗き込んだ。
『あ……』
ぱくぱくと口を動かすも、声が出ない。
「? どうしたんだい?」
不思議そうにするライリーさんにリリーが叫んだ。
「その子は神官長に脅されて何でも言うことを聞いていたみたいなんです! 私、その子が持ち出した神官長の罪の証拠を預かっていたんです!」
「!?」
「リリー……記憶が?」
リリーの説明に私を含め三人が息を呑んで彼女を見た。
「はい……神官長はそのことに気付いて私に刺客を放ったようです」
「じゃあ……リリーはあの悪事に関わっていなかったんだな?」
「それでも私が今までしてきた行いが消えるわけではありませんが……」
安堵した顔を見せるアンディ様にリリーは殊勝な表情をしてみせる。
(違う! リリーは嘘をついている! アンディ様!)
「どうした!? もう神官長はいないんだから安心しろ」
アンディ様に伝えたいのに、ライリーさんに制されてしまう。
「その子はずっと神官長の世話をするためにここに監禁されていました。これからは私が教会で面倒を見ようと思います」
「ああ、わかった。でも君を危険な目に遭わせたんだ。事情聴取のため聖騎士団で一旦預かるぞ?」
「ありがとうございます、アンディ様!」
リリーがアンディ様の胸に飛び込んだので、嫉妬でどうにかなりそうだった。
「団長、婚約者様をお屋敷まで送ってさしあげたらどうですか? この子は私が連行しますから」
「そうか、すまないライリー」
アンディ様はそう言うと、リリーの肩を抱いて部屋を出て行ってしまった。リリーがこちらを振り返り、ほくそ笑んでいた。
「……君もバカなことをしたな。今のリリー様なら相談すれば助けてくださったはずだ。騎士団長の婚約者の誘拐補助は罪が重いよ? まあリリー様が面倒見てくださると言っていたし、大丈夫だろう」
私に語りかけるライリーさんにブンブンと首を振る。
「何だ? こんなに温情をかけられておいて反省していないのか?」
呆れたように話すライリーさんに、今の私では何を訴えようと無駄だと悟る。
(リリーのことを信用してくれて嬉しかったのは私だからであって……)
悲しくて泣けてくる。
リリーは本物の、とんでもない悪女だった。
(リリーと結婚しないとアンディ様は命を落とす……)
改めてそんな重大な決断をしてくれたアンディ様に嬉しいやら悲しいやらで感情が追い付かない。
(アンディ様と想いを通じ合わせたのは昨日のことでしたよね……)
熱を宿したアッシュグレーの瞳も、温かい彼の体温も、私に向けられたものではない。
リリーと違って美人でもないし、貧乏伯爵家の娘と聖騎士団の団長様とでは釣り合わない。
(でも……リリーはアンディ様のこと好きじゃありません。それに本物の悪女が相手では不幸になってしまいます……)
「何だ? 今反省したのか? ほら、行くぞ」
ライリーさんが俯いた私をベッドから下ろす。
「ん? そういえば何で君はベッドにいたんだ?」
「…………」
何も言えずに眉尻を下げて笑う。
「だんまりだな。リリー様がかばってくれなきゃ君は牢屋行きだったんだぞ?」
リリーは口封じのため私を殺すつもりでいる。ということは、私の声を封じた術も永久的なわけではないのかもしれない。それか、私の行いに本当に怒り狂っているかのどっちかだ。
(どちらにせよ、騎士団に拘束されたのはありがたいです)
まだアンディ様に接触できるチャンスがあるかもしれない。
そうして私はライリーさんに連れられて聖騎士団に拘束されることとなった。
「ほら好待遇なことに感謝するんだな」
ライリーさんに連れられて来たのは、聖騎士団内にある小さな部屋だった。とりあえず牢屋じゃなくてホッとする。
(そうだ、筆談なら!)
部屋を見渡すも、簡素なベッドに椅子一脚とテーブルがあるだけ。
ライリーさんにジェスチャーで筆談したいと伝えてみる。
「ん? ダメだよ。筆記用具さえも凶器になる。自害されて口を閉ざされたらたまったもんじゃないからな。君は神官長の悪事の片棒を担いでいたんだ」
あんなに敵視していたリリーの言うことを完全に信じている。
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