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はずかしがりやのとうもろこし、ことさん
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ある小さな町のスーパーマーケットに、はずかしがりやのとうもろこしがいました。
とうもろこしのことさんです。
ことさんは、お客さんに皮をめくられるのがとても嫌でした。
スーパーマーケットにとうもろこしを買いに来るお客さんは、おいしそうだなと思うと、本当においしいのか確かめるために皮をむいてつぶがそろっているか確かめます。そういう時、ことさんはお客さんに絶対に皮をむかれないように、あっちをむいたりこっちをむいたり、きゅっと皮をくっつけたりしてお客さんを困らせていました。
ある日のこと。ことさんは、どうしてみんなは皮をむかれても平気なのか不思議に思って、仲間に聞いてみました。
「ねえ、もろさん」
「なあに」
「もろさんはお客さんに体をさわられても平気そうだけど、はずかしくないの?」
「はずかしくなんかないわよ。逆にわたしには、ことさんがなぜそんなに皮をむかれるのをいやがるのか、わからないわ」
「だって、指で一枚一枚はがされていくのよ。体のつぶがそろっているか、つやがいいかみられるのよ。そんなはずかしいことってあるかしら」
「それでも、お客さんに買ってもらわなければ、私たちひからびてすてられてしまうのよ」
「でも……」
「私たちは一日一日年を取っていくのよ」
「それはわかっているわ。」
「わかってないわよ。こんなにたくさん売られるのを待っている野菜がいるのよ。お客様に手を取ってみてもらえたら、それはラッキーだと思わないといけないのよ。」
そういわれても、ことさんは次の日もあいかわらずお客さんが(おいしそうなとうもろこしね。中身はどうかしら)と皮をむこうとすると、あっちこっちころがりまわっていました。
「ことさん、いい加減にしないと店長さん困っちゃうよ。さっきのお客さんだって、変な顔して僕らのことを見ていたよ」
少し年上のこしさんがやれやれと頭のひげをゆらゆらさせました。
店長さんも困っていました。
お客さんから苦情が来ていたのです。
「おたくのとうもろこしはへんなのよ。手に取って見ようとすると、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして、逃げるようにころがりまわるの。いったいどうなっているのかしら」
「私もそんなことがありましたよ。子供に食べさせようと思って手に取ったら、ほかのとうもろこしは簡単に皮がむけるのに、そのとうもろこしだけはどうやっても皮がむけないのよ。皮をむこうとすると、きゅっと皮をのりみたいにくっつける感じが伝わってくるのよ。気持ち悪いったらありゃしないわ。」
「ころがったり手からすり抜けたりして。おたくのとうもろこしは一体どうなっているの?」
「このお店の野菜は生きているみたい、気味が悪いわ」
「このあたりの奥さんたちのもっぱらのうわさよ。あの店にはおばけとうもろこしがいるって」
こんな苦情を言われたのは、店長になって以来初めてのことです。
店長さんは困ってしまいました。
お店に悪いうわさでもたったら、ここはつぶれてしまいます。まわりには大型スーパーも建ち始めているし、ただでさえお客さんが離れていくのでは、と毎日のように心配しているところでした。
(とにかくこの目で確かめなくては)
店長さんは、野菜売り場に行ってみることにしました。
はずかしがりやのことさんは、野菜達の中でも話題になっていました。
とうもろこしのとなりのピーマン売り場からもぶつぶつ言う声が聞こえてきました。
「まったくはずかしがりやのとうもろこしのせいで、ここの野菜は動き回って気持ち悪いって評判だよ」
「ほんとだぜ。おれたちは、お客さんに買われてなんぼの身なのにな」
「本当よね~、あのとうもろこしはいったいなにをかんがえているのかしら」
「ぼく、聞いてみたんだけどね、仲間のもろさんがいうには、体をさわられるのがいやなそうだよ。おいしいかどうか確かめるために皮をめくられるのがはずかしいんだって」
「さわられるのがいやですって?野菜はさわって確かめるものでしょう」
「本当だね」
「私たちとうもろこし売り場の隣だから、本当にいい迷惑だわ」
ジャガイモたちもごろごろ転がりながら、こそこそと話しています。
「ずいぶんとプライドのお高いとうもろこしがいるそうじゃないですの」
「そうらしいですわね、奥様。なんでもお客さんに体をさわられるのがいやなんですって」
「私は体をさわられても何ともなくてよ。まあ、少しくすぐったい時もありますがね」
「でも、さわられるのはおいしそうかな、と思ってもらえている証拠ですわ」
「お客様に手に取って眺められると、うっとりとした気持ちになりますわよね」
「まったく、そのとうもろこしは何を考えているのかしら」
ことさんは、きゅっと身を小さくして、なるべくすみっこの方に隠れるように転がっていました。
他のとうもろこしたちも、じっと黙っていました。
(だってはずかしいんだもの)
ことさんは心の中でつぶやきました。
(あなたたちはピーマンやジャガイモだもの。皮をむかれる私のはずかしさなんてわからないわ。どこでだれが何をしていたかわからない手で、おいしいかなと確かめるためだけにじろじろ見られて、しかも皮をむかれるのよ……)
ことさんはぷいっと横を向きました。
その時です。様子を見に来た店長さんと目が合ってしまいました。
店長さんは、ことさんを手のひらで包みこむようにそっと持ち上げました。
ことさんは、皮をきゅっととくっつけます。
「きみかい?はずかしがりやのとうもろこしは」
店長さんはとうもろこしに顔を近づけると、皮の隙間からとうもろこしの顔のように見えるつぶつぶをのぞき込みました。
「どうしてお客さんが皮をむこうとすると、いやがって逃げ回るのかな」
「だって……。はずかしいんだもの」
口と思われるつぶつぶがもごもごと動きました。
(とうもろこしがしゃべった!)
深呼吸をしてから、もう一度話しかけてみました。
「どうしてはずかしいの?」
「だって知らない人に体をさわられてじろじろ見られて……。しかもおいしそうか確かめるために指で一枚一枚皮をむかれるのよ。こんなはずかしいことってあるかしら」
「でも、つぶがそろっておいしかったら、みんなに(おいしい、おいしい)って、たべてもらえるんだよ」
「つぶがそろっていなくておいしくなかったら、食べてもらえないのかしら」
「そんなことはないよ。万が一おいしくなかったとしても、すぐに捨てられやしないよ。世の中の包丁を握る人たちはどうやったらいろんな食材をおいしく料理できるか考えている人が多いんだから」
「そんなことわからないわ。本当にそんな気持ちがあったら、わざわざ皮をはがしてまで野菜の中身まで確かめようとしないはずよ」
「お客さんに食べてもらいたくないの?」
「食べてもらいたくないとは思わないけど、皮をむいて体をじろじろ見られてまで、人間に食べてもらいたいとは思わないわ」
「うーむ」
店長さんは頭を抱えてしまいました。
とうもろこしと話すのは初めてな上に、よりによってなんだかめんどうくさそうな性格のとうもろこしだったからです。
ひとまず部屋に戻ってよく考えることにしました。
冷たい麦茶を一口飲むと、ワイシャツを何枚も重ねて着てみることにしました。
エアコンのスイッチを切ると、部屋の中はあっという間に蒸し風呂のようです。
ごろり、とソファーに横になりました。
はずかしがりやのとうもろこしになった自分が、お客さんに一枚一枚シャツを脱がされていく自分を想像してみました。
次の日、店長さんはふたたびとうもろこしのところにやってきました。
はずかしがりやさんをみつけるとやさしく手に取りました。
「君にはなまえがあるの?」
「あるわ。ことよ」
「ことさん、ってよんでいいかな」
「いいわよ」
「きのう、あれからことさんの気持ちになって考えてみたんだ。かなり難しかったけれど、ほんのすこしだけ君の気持ちがわかったような気がするよ」
「それはとてもうれしいことだわ。私の気持ちをみんななかなか分かってくれないから、少しだけ悲しかったの」
「ほかのとうもろこしたちと話をするのかい?」
「もちろんするわよ。みんなおんなじ畑で育った仲間だもの。収穫された時期が少しずれただけで、ほとんど一緒」
「ほかのみんなは君のことをなんて言っているの?」
「みんな私の気持ちがわからないというわ」
ことさんは小さくひげを振りました
「そうか」
「毎日のように、もろさんやこしさんから怒られているわ。自分たちはお客さんに買ってもらってなんぼの身だって。今のままでは売れ残ってしまうぞって。このままでは、いずれゴミとなるか牛のエサに持っていかれてしまうぞって。だけど、怒られたってそんなにすぐ性格なんてなおせるものじゃないわよ。いやなものはいやなんだもの」
店長さんはまたまた困ってしまいました。
ふたたびワイシャツをたくさん着込むと、ゴロンと横になってみました。
大地に広がるとうもろこし畑には、さわやかな風が渡っていきます。
たわわに実っているとうもろこしたち。その中にはことさんやほかのなかまたちが楽しそうに風にさわられながらおしゃべりしています。
すると、そこへ麦わら帽子をかぶってトラックに乗り、手ぬぐいを首にかけた人たちがやってきます。鎌でことさんたちが刈り取られて、次々とプラスチックのかごに入れられていきます。
(ああ、私たちこれからどこへ行くのかしら。町かしら。それとも、農家の販売所かしら。それとも……)
期待に胸をふくらませていることさんたちの姿が頭に浮かびました。
そこへ野菜担当のもろこしさんがドアをノックする音が聞こえました。
店長さんはあわてておきあがろうとしましたが、どすり、と後ろにひっくり返ってしまいました。
「どうしたんですか、店長」
もろこしさんは、よっこいしょと店長さんを起こしてあげました。
「いいところに来てくれたよ、もろこし君。ぼくは、どうやったらはずかしがりやのとうもろこしの気持ちになれるか考えていたんだよ」
「ことさんの事ですね。それは僕も考えていました。」
「だけど、ことさんは今のようにお客さんから逃げ回っていては、間違いなく売れ残ってしまう。干からびて売り物にならなくなってしまうよ」
「そのことで相談に来たんです。ことさんが動き回るおかげで野菜の売り上げが落ちて困っているんです。もうすぐイヨンモールもできるし、かなりダメージが大きいですよ。(このままでは自分たちの将来が心配だ、もろこしさん、店長さんとなんとか野菜売り場の状況を改善してほしい)って、とうもろこし以外の野菜たちからも苦情が来てしまったくらいです」
「苦情って、きみ、野菜としゃべれるのか?それにことさんって……」
「ええ、しゃべりますよ。店長は話したことないんですか?」
「私は、このあいだはじめてことさんと話をしたばかりだよ。そこではじめて彼女の気持ちを知ったんだ」
「だから暑いのにシャツをたくさん着込んでころがっていたんですね。」
「皮をはがされてじろじろ見られるのが、たまらなくはずかしいというんだよ。自分はそこまでして人間に食べてもらわなくてもいい、と。とうもろこしがそんなことを考えているとは……。本当におどろいたよ。」
「野菜たちもいろいろ考えているんですよ。それにしても、暑いですよ。エアコンつけましょうよ、店長」
「ふぅ。ちょっとみんなで話した方がよさそうだね」
店長さんはワイシャツを脱ぐと、冷蔵庫から冷たい麦茶を紙パックごと、ごくごくと飲み干しました。
「もろこしくん、ちょっとみんなを集めてきてくれたまえ。とうもろこしはことさんと仲間たち、ほかの野菜は代表を数名だな」
最初に入ってきたのは、ジャガイモでした。
「こんにちは。店長さん。この度はたいへんなことになりましたね。私たちも近くで見ていましたが、本当にわがままなとうもろこしだと思いますわ。お店の評判も落ちたようで、本当にお気の毒様」
「いやいや」
「私たちもとうもろこしと同じ野菜のなかまでしょう。ですが、私どもにはどうしてもあのとうもろこしの気持ちがわかりかねますのよ。私たちは男爵家の一族でございますでしょう。そんなにじろじろ見られなくても、ちょっとさわれば、おいしいかおいしくないなんてお客様にはわかるものですから、おほほほほ」
男爵夫人は得意げに店長さんの前でくるりとコマのように回ってみせました。
そこへ、ピーマンが飛び跳ねながらやってきました。
「こんにちは!店長さん」
「こんにちは、ピーマン君。君はどう思うかね」
「店長さんとお話しするのは初めてだよね。僕が代表のピーマン太郎です。よろしくね」
ピーマン太郎は、店長さんの足元までころころところがりました。
「それにしても、なんであんなにはずかしがるのか、ぼくにはさっぱりわからないよ。あれではだれにも買っていってもらえなくなってしまうよ。買ってもらえなければ、ぼくたち捨てられちゃうか、別のところに持っていかれて牛のエサになるとか畑の肥料になるとか……。そんなところだよね。まあ、それも悪くないけどさ。どうせならみんなにおいしく食べてもらいたいよね。だってお百姓さんが人間のみんなにおいしく食べてもらうように、って大切に育ててくれたんだもんね。それがおいしく育ててくれたお百姓さんへの恩返しみたいなものだと思うんだよね」
「ピーマン君。君は何というか。お百姓さん思いなんだね」
次にやって来たのは玉ねぎの玉さんです。ころがってくる間にどこかにひっかけたのでしょうか。上の皮がはがれかかっていました。
「私どもも、とうもろこしさんのように皮をむかないとたべられない野菜の一つですわ。でも、私どもはざんねんながら、皮をむくと人間たちは辛くて涙が出るそうですの。だから、皮をむいて中身を確かめることはしません。形が丸いか、小さすぎないか確かめるくらいですわ。なので申し訳ないのですが、気持ちがわからないのでコメントはできませんわ」
「それはそうかもしれないね。だけど、ことさんが困っているんだよ。これ以上このままにしておいたら、君たち野菜も売れないし、お客さんも来なくなってしまう。みんなでどうにかしないといけないと思うんだよ」
店長さんはみんなの顔を見渡しました。
その時、キュウリのきゅうさんに連れられて、とうもろこしのことさんがやってきました。
「みなさん、私のせいでご迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。だけど、私本当につらいんです。さわられるのはまだ我慢できても、人間がおいしいか確かめるためだけに、あんなに何をしていたかわからない手で無神経にぱりぱり皮をむいて品定めされるのって我慢ができないんです。でも、私もみんなみたいにお客さんに買っていってもらいたい。おいしい料理になりたい。でも……」
「さっき、ことさんから話を聞きました。みんなの売り場のひそひそ話も部屋の中のみんなの考えも聞きました。野菜にだっていろんな立場や気持ちがありますよね。ことさんだけじゃないと思うんです。ねえ、店長さん」
店長さんはうんうん、とうなずきます。
「私たちは、こう見えてもいつも考えているんです。ああ、この人はどうやって自分たちを食べてくれるのかなって。サラダかしら?漬物かしら?それとも夏カレー?ワクワクします。でも、売れなかったらどうなるのかな、畑の肥料にされてしまうのかなとか。牛のエサになってしまうのかな、牛はきゅうりを食べないから鈴虫のエサ用にたたき売られるのかしら、とか。実は、不安でいっぱいなんです」
きゅうさんはからだをまっすぐに立て直しました。
「とうもろこしはバラでつみ重ねられて売られていることが多いですよね。そうすると、皮をむかないとよいとうもろこしかそうでないのかわからない。ただでさえ野菜は自分から買ってもらうことはできないから、手に取ってもらえるかもらえないかが、今後の生き方にかかわってくるのです。それなのに、ことさんは皮をむかれるのがいやだという。この苦しみがわかりますか。本当は買ってほしいのに」
きゅうりは汗をかきすぎて干からびそうになっています。
「大げさな」
「お客様だぞ。お客様は神様だぞ。手に取って皮をむいてもらってありがとう、だろ」
「ただ甘えているんじゃないか?スーパーマーケットに連れてこられた時点でわかりきっていることだろう」
「それになんだことさんは、でもでもって!」
ほかの野菜たちも声が大きくなってきました。
「あなたたちは見られても、ちょっと形がいいか悪いかぐらいでしょう。ことさんの気持ちになってみなさいよ。無神経な人間たちに皮をはがされてじろじろ見られるのよ。私たちは人間に食べられるためだけに生まれてきたの?」
話が大きくなってきました。
「ちょっとみんな落ち着いて」
店長さんともろこしさんは、大きなたらいに水を張るとその中に野菜たちを入れてあげました。
野菜たちの体から、しゅっと湯気が上がります。
「みんなありがとう。少しわかってきたよ。野菜のみんなにも気持ちがあること。できればおいしいお料理になりたいこと。でも、自分が野菜だからといってもどうしてもいやなことやはずかしいことはあるよね。それはよくわかったよ。じゃあどうすればことさんは、嫌な気持ちにならずに気持ちよく買っていってもらえるかなぁ」
「わたしをラップに巻いてくれませんか」
ことさんが口を開きました。
「ラップに巻かれたら誰もラップをはがしてまで皮をはがしたりしませんよね。もしかしたら、ラップに巻いているとうもろこしは、きれいだと思って買っていってくれるお客さんもいるかもしれません。」
「確かに私達も三本まとめて売られるときはラップに包まれることが多いわ」と、きゅうさん。
「私はまだ新鮮だと思うけど、さいきん皮が乾いてきて見栄えが悪くなってきているわ。安売りにして売れるのなら、そっちの方がいいです。もし、それでも売れなかったときは、私あきらめます。牛のエサにでも豚のエサにでもなります」
ことさんの目には、涙がうっすらとうかんでいます。
「そうかい。ちょっと待ってくれるかな。もろこしくん、ちょっといいかい。みんなありがとう。きゅうさんとピーマン君、男爵夫人たちは、一度売り場に戻ってもらって平気だよ」
もうちょっと水に入っていたいなぁ、とピーマンたちが駄々をこねるので、洗面器に水を移してピーマンたちを売り場まで戻しに行きました。
「よし、ことさんと一緒に巻かれてもいいとうもろこしはいるかね」
「私巻かれてもいいわよ。」
一番年上のとしさんがはっきりした声で答えました。
「だけど、きつく巻かれると苦しいからゆるく巻いてね。最近年をとってきたから、水分がへってきているのよ」
「私もいいわよ」
もろさんが皮をひらひらさせました。
「店長さん、いい考えがあるの。大きなトレーにつぶが見えるように皮をむいた私と皮をむかないとしさんとことさんを並べていれる、っていうのはどうかしら?」
「つぶが見えているもろさんをみれば私たちを見なくてもおいしいってわかるわけね」
としさんが言いました。
「そうそう、まあ私もぴちぴちとまではいかないけれどね」
「それはいいアイデアだね。ほかに意見はあるかね」
「そういえば、この間小さなお子さんのお母さんが話しているのを聞いたんですけど……」
ことさんが涙をふきながら店長さんに話したところによると……。
お店には山積みのとうもろこしの隣に、トレーに入ったことさんたちが置かれていました。
ひとパックでは寂しい、とのもろさんの意見で、三本入りパックが何個かかさねられています。
たなの上にはこんな張り紙が書かれていましたよ。
《甘くてとってもおいしいとうもろこし
三本入り 298円。
夏休みのおやつにピッタリ
皮をむかないでレンジでチンするだけでおいしいよ!
電子レンジで三分ラップに巻いてチンしてね♡》
しゅう~~~
自動ドアが開きました。
「おとうさーん。甘くてとってもおいしいとうもろこし、だって!おいしそう!買ってもいい?」
「もちろん。かごに入れていいよ。お、レンジでチンで食べられるんだな。これならお父さんでもできそうだ。」
「お父さん、皮をむかなくてもおいしいってわかるんだね」
「レンジでチンすると、うまみが閉じ込められるからおいしく食べられるってわけだろ」
「今日のおやつはとうもろこしだね!」
男の子は嬉しそうに2パックかごに入れました。
「ありがと」
ことさんが小さくひげを揺らしました。
とうもろこしのことさんです。
ことさんは、お客さんに皮をめくられるのがとても嫌でした。
スーパーマーケットにとうもろこしを買いに来るお客さんは、おいしそうだなと思うと、本当においしいのか確かめるために皮をむいてつぶがそろっているか確かめます。そういう時、ことさんはお客さんに絶対に皮をむかれないように、あっちをむいたりこっちをむいたり、きゅっと皮をくっつけたりしてお客さんを困らせていました。
ある日のこと。ことさんは、どうしてみんなは皮をむかれても平気なのか不思議に思って、仲間に聞いてみました。
「ねえ、もろさん」
「なあに」
「もろさんはお客さんに体をさわられても平気そうだけど、はずかしくないの?」
「はずかしくなんかないわよ。逆にわたしには、ことさんがなぜそんなに皮をむかれるのをいやがるのか、わからないわ」
「だって、指で一枚一枚はがされていくのよ。体のつぶがそろっているか、つやがいいかみられるのよ。そんなはずかしいことってあるかしら」
「それでも、お客さんに買ってもらわなければ、私たちひからびてすてられてしまうのよ」
「でも……」
「私たちは一日一日年を取っていくのよ」
「それはわかっているわ。」
「わかってないわよ。こんなにたくさん売られるのを待っている野菜がいるのよ。お客様に手を取ってみてもらえたら、それはラッキーだと思わないといけないのよ。」
そういわれても、ことさんは次の日もあいかわらずお客さんが(おいしそうなとうもろこしね。中身はどうかしら)と皮をむこうとすると、あっちこっちころがりまわっていました。
「ことさん、いい加減にしないと店長さん困っちゃうよ。さっきのお客さんだって、変な顔して僕らのことを見ていたよ」
少し年上のこしさんがやれやれと頭のひげをゆらゆらさせました。
店長さんも困っていました。
お客さんから苦情が来ていたのです。
「おたくのとうもろこしはへんなのよ。手に取って見ようとすると、あっちへ行ったりこっちへ行ったりして、逃げるようにころがりまわるの。いったいどうなっているのかしら」
「私もそんなことがありましたよ。子供に食べさせようと思って手に取ったら、ほかのとうもろこしは簡単に皮がむけるのに、そのとうもろこしだけはどうやっても皮がむけないのよ。皮をむこうとすると、きゅっと皮をのりみたいにくっつける感じが伝わってくるのよ。気持ち悪いったらありゃしないわ。」
「ころがったり手からすり抜けたりして。おたくのとうもろこしは一体どうなっているの?」
「このお店の野菜は生きているみたい、気味が悪いわ」
「このあたりの奥さんたちのもっぱらのうわさよ。あの店にはおばけとうもろこしがいるって」
こんな苦情を言われたのは、店長になって以来初めてのことです。
店長さんは困ってしまいました。
お店に悪いうわさでもたったら、ここはつぶれてしまいます。まわりには大型スーパーも建ち始めているし、ただでさえお客さんが離れていくのでは、と毎日のように心配しているところでした。
(とにかくこの目で確かめなくては)
店長さんは、野菜売り場に行ってみることにしました。
はずかしがりやのことさんは、野菜達の中でも話題になっていました。
とうもろこしのとなりのピーマン売り場からもぶつぶつ言う声が聞こえてきました。
「まったくはずかしがりやのとうもろこしのせいで、ここの野菜は動き回って気持ち悪いって評判だよ」
「ほんとだぜ。おれたちは、お客さんに買われてなんぼの身なのにな」
「本当よね~、あのとうもろこしはいったいなにをかんがえているのかしら」
「ぼく、聞いてみたんだけどね、仲間のもろさんがいうには、体をさわられるのがいやなそうだよ。おいしいかどうか確かめるために皮をめくられるのがはずかしいんだって」
「さわられるのがいやですって?野菜はさわって確かめるものでしょう」
「本当だね」
「私たちとうもろこし売り場の隣だから、本当にいい迷惑だわ」
ジャガイモたちもごろごろ転がりながら、こそこそと話しています。
「ずいぶんとプライドのお高いとうもろこしがいるそうじゃないですの」
「そうらしいですわね、奥様。なんでもお客さんに体をさわられるのがいやなんですって」
「私は体をさわられても何ともなくてよ。まあ、少しくすぐったい時もありますがね」
「でも、さわられるのはおいしそうかな、と思ってもらえている証拠ですわ」
「お客様に手に取って眺められると、うっとりとした気持ちになりますわよね」
「まったく、そのとうもろこしは何を考えているのかしら」
ことさんは、きゅっと身を小さくして、なるべくすみっこの方に隠れるように転がっていました。
他のとうもろこしたちも、じっと黙っていました。
(だってはずかしいんだもの)
ことさんは心の中でつぶやきました。
(あなたたちはピーマンやジャガイモだもの。皮をむかれる私のはずかしさなんてわからないわ。どこでだれが何をしていたかわからない手で、おいしいかなと確かめるためだけにじろじろ見られて、しかも皮をむかれるのよ……)
ことさんはぷいっと横を向きました。
その時です。様子を見に来た店長さんと目が合ってしまいました。
店長さんは、ことさんを手のひらで包みこむようにそっと持ち上げました。
ことさんは、皮をきゅっととくっつけます。
「きみかい?はずかしがりやのとうもろこしは」
店長さんはとうもろこしに顔を近づけると、皮の隙間からとうもろこしの顔のように見えるつぶつぶをのぞき込みました。
「どうしてお客さんが皮をむこうとすると、いやがって逃げ回るのかな」
「だって……。はずかしいんだもの」
口と思われるつぶつぶがもごもごと動きました。
(とうもろこしがしゃべった!)
深呼吸をしてから、もう一度話しかけてみました。
「どうしてはずかしいの?」
「だって知らない人に体をさわられてじろじろ見られて……。しかもおいしそうか確かめるために指で一枚一枚皮をむかれるのよ。こんなはずかしいことってあるかしら」
「でも、つぶがそろっておいしかったら、みんなに(おいしい、おいしい)って、たべてもらえるんだよ」
「つぶがそろっていなくておいしくなかったら、食べてもらえないのかしら」
「そんなことはないよ。万が一おいしくなかったとしても、すぐに捨てられやしないよ。世の中の包丁を握る人たちはどうやったらいろんな食材をおいしく料理できるか考えている人が多いんだから」
「そんなことわからないわ。本当にそんな気持ちがあったら、わざわざ皮をはがしてまで野菜の中身まで確かめようとしないはずよ」
「お客さんに食べてもらいたくないの?」
「食べてもらいたくないとは思わないけど、皮をむいて体をじろじろ見られてまで、人間に食べてもらいたいとは思わないわ」
「うーむ」
店長さんは頭を抱えてしまいました。
とうもろこしと話すのは初めてな上に、よりによってなんだかめんどうくさそうな性格のとうもろこしだったからです。
ひとまず部屋に戻ってよく考えることにしました。
冷たい麦茶を一口飲むと、ワイシャツを何枚も重ねて着てみることにしました。
エアコンのスイッチを切ると、部屋の中はあっという間に蒸し風呂のようです。
ごろり、とソファーに横になりました。
はずかしがりやのとうもろこしになった自分が、お客さんに一枚一枚シャツを脱がされていく自分を想像してみました。
次の日、店長さんはふたたびとうもろこしのところにやってきました。
はずかしがりやさんをみつけるとやさしく手に取りました。
「君にはなまえがあるの?」
「あるわ。ことよ」
「ことさん、ってよんでいいかな」
「いいわよ」
「きのう、あれからことさんの気持ちになって考えてみたんだ。かなり難しかったけれど、ほんのすこしだけ君の気持ちがわかったような気がするよ」
「それはとてもうれしいことだわ。私の気持ちをみんななかなか分かってくれないから、少しだけ悲しかったの」
「ほかのとうもろこしたちと話をするのかい?」
「もちろんするわよ。みんなおんなじ畑で育った仲間だもの。収穫された時期が少しずれただけで、ほとんど一緒」
「ほかのみんなは君のことをなんて言っているの?」
「みんな私の気持ちがわからないというわ」
ことさんは小さくひげを振りました
「そうか」
「毎日のように、もろさんやこしさんから怒られているわ。自分たちはお客さんに買ってもらってなんぼの身だって。今のままでは売れ残ってしまうぞって。このままでは、いずれゴミとなるか牛のエサに持っていかれてしまうぞって。だけど、怒られたってそんなにすぐ性格なんてなおせるものじゃないわよ。いやなものはいやなんだもの」
店長さんはまたまた困ってしまいました。
ふたたびワイシャツをたくさん着込むと、ゴロンと横になってみました。
大地に広がるとうもろこし畑には、さわやかな風が渡っていきます。
たわわに実っているとうもろこしたち。その中にはことさんやほかのなかまたちが楽しそうに風にさわられながらおしゃべりしています。
すると、そこへ麦わら帽子をかぶってトラックに乗り、手ぬぐいを首にかけた人たちがやってきます。鎌でことさんたちが刈り取られて、次々とプラスチックのかごに入れられていきます。
(ああ、私たちこれからどこへ行くのかしら。町かしら。それとも、農家の販売所かしら。それとも……)
期待に胸をふくらませていることさんたちの姿が頭に浮かびました。
そこへ野菜担当のもろこしさんがドアをノックする音が聞こえました。
店長さんはあわてておきあがろうとしましたが、どすり、と後ろにひっくり返ってしまいました。
「どうしたんですか、店長」
もろこしさんは、よっこいしょと店長さんを起こしてあげました。
「いいところに来てくれたよ、もろこし君。ぼくは、どうやったらはずかしがりやのとうもろこしの気持ちになれるか考えていたんだよ」
「ことさんの事ですね。それは僕も考えていました。」
「だけど、ことさんは今のようにお客さんから逃げ回っていては、間違いなく売れ残ってしまう。干からびて売り物にならなくなってしまうよ」
「そのことで相談に来たんです。ことさんが動き回るおかげで野菜の売り上げが落ちて困っているんです。もうすぐイヨンモールもできるし、かなりダメージが大きいですよ。(このままでは自分たちの将来が心配だ、もろこしさん、店長さんとなんとか野菜売り場の状況を改善してほしい)って、とうもろこし以外の野菜たちからも苦情が来てしまったくらいです」
「苦情って、きみ、野菜としゃべれるのか?それにことさんって……」
「ええ、しゃべりますよ。店長は話したことないんですか?」
「私は、このあいだはじめてことさんと話をしたばかりだよ。そこではじめて彼女の気持ちを知ったんだ」
「だから暑いのにシャツをたくさん着込んでころがっていたんですね。」
「皮をはがされてじろじろ見られるのが、たまらなくはずかしいというんだよ。自分はそこまでして人間に食べてもらわなくてもいい、と。とうもろこしがそんなことを考えているとは……。本当におどろいたよ。」
「野菜たちもいろいろ考えているんですよ。それにしても、暑いですよ。エアコンつけましょうよ、店長」
「ふぅ。ちょっとみんなで話した方がよさそうだね」
店長さんはワイシャツを脱ぐと、冷蔵庫から冷たい麦茶を紙パックごと、ごくごくと飲み干しました。
「もろこしくん、ちょっとみんなを集めてきてくれたまえ。とうもろこしはことさんと仲間たち、ほかの野菜は代表を数名だな」
最初に入ってきたのは、ジャガイモでした。
「こんにちは。店長さん。この度はたいへんなことになりましたね。私たちも近くで見ていましたが、本当にわがままなとうもろこしだと思いますわ。お店の評判も落ちたようで、本当にお気の毒様」
「いやいや」
「私たちもとうもろこしと同じ野菜のなかまでしょう。ですが、私どもにはどうしてもあのとうもろこしの気持ちがわかりかねますのよ。私たちは男爵家の一族でございますでしょう。そんなにじろじろ見られなくても、ちょっとさわれば、おいしいかおいしくないなんてお客様にはわかるものですから、おほほほほ」
男爵夫人は得意げに店長さんの前でくるりとコマのように回ってみせました。
そこへ、ピーマンが飛び跳ねながらやってきました。
「こんにちは!店長さん」
「こんにちは、ピーマン君。君はどう思うかね」
「店長さんとお話しするのは初めてだよね。僕が代表のピーマン太郎です。よろしくね」
ピーマン太郎は、店長さんの足元までころころところがりました。
「それにしても、なんであんなにはずかしがるのか、ぼくにはさっぱりわからないよ。あれではだれにも買っていってもらえなくなってしまうよ。買ってもらえなければ、ぼくたち捨てられちゃうか、別のところに持っていかれて牛のエサになるとか畑の肥料になるとか……。そんなところだよね。まあ、それも悪くないけどさ。どうせならみんなにおいしく食べてもらいたいよね。だってお百姓さんが人間のみんなにおいしく食べてもらうように、って大切に育ててくれたんだもんね。それがおいしく育ててくれたお百姓さんへの恩返しみたいなものだと思うんだよね」
「ピーマン君。君は何というか。お百姓さん思いなんだね」
次にやって来たのは玉ねぎの玉さんです。ころがってくる間にどこかにひっかけたのでしょうか。上の皮がはがれかかっていました。
「私どもも、とうもろこしさんのように皮をむかないとたべられない野菜の一つですわ。でも、私どもはざんねんながら、皮をむくと人間たちは辛くて涙が出るそうですの。だから、皮をむいて中身を確かめることはしません。形が丸いか、小さすぎないか確かめるくらいですわ。なので申し訳ないのですが、気持ちがわからないのでコメントはできませんわ」
「それはそうかもしれないね。だけど、ことさんが困っているんだよ。これ以上このままにしておいたら、君たち野菜も売れないし、お客さんも来なくなってしまう。みんなでどうにかしないといけないと思うんだよ」
店長さんはみんなの顔を見渡しました。
その時、キュウリのきゅうさんに連れられて、とうもろこしのことさんがやってきました。
「みなさん、私のせいでご迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい。だけど、私本当につらいんです。さわられるのはまだ我慢できても、人間がおいしいか確かめるためだけに、あんなに何をしていたかわからない手で無神経にぱりぱり皮をむいて品定めされるのって我慢ができないんです。でも、私もみんなみたいにお客さんに買っていってもらいたい。おいしい料理になりたい。でも……」
「さっき、ことさんから話を聞きました。みんなの売り場のひそひそ話も部屋の中のみんなの考えも聞きました。野菜にだっていろんな立場や気持ちがありますよね。ことさんだけじゃないと思うんです。ねえ、店長さん」
店長さんはうんうん、とうなずきます。
「私たちは、こう見えてもいつも考えているんです。ああ、この人はどうやって自分たちを食べてくれるのかなって。サラダかしら?漬物かしら?それとも夏カレー?ワクワクします。でも、売れなかったらどうなるのかな、畑の肥料にされてしまうのかなとか。牛のエサになってしまうのかな、牛はきゅうりを食べないから鈴虫のエサ用にたたき売られるのかしら、とか。実は、不安でいっぱいなんです」
きゅうさんはからだをまっすぐに立て直しました。
「とうもろこしはバラでつみ重ねられて売られていることが多いですよね。そうすると、皮をむかないとよいとうもろこしかそうでないのかわからない。ただでさえ野菜は自分から買ってもらうことはできないから、手に取ってもらえるかもらえないかが、今後の生き方にかかわってくるのです。それなのに、ことさんは皮をむかれるのがいやだという。この苦しみがわかりますか。本当は買ってほしいのに」
きゅうりは汗をかきすぎて干からびそうになっています。
「大げさな」
「お客様だぞ。お客様は神様だぞ。手に取って皮をむいてもらってありがとう、だろ」
「ただ甘えているんじゃないか?スーパーマーケットに連れてこられた時点でわかりきっていることだろう」
「それになんだことさんは、でもでもって!」
ほかの野菜たちも声が大きくなってきました。
「あなたたちは見られても、ちょっと形がいいか悪いかぐらいでしょう。ことさんの気持ちになってみなさいよ。無神経な人間たちに皮をはがされてじろじろ見られるのよ。私たちは人間に食べられるためだけに生まれてきたの?」
話が大きくなってきました。
「ちょっとみんな落ち着いて」
店長さんともろこしさんは、大きなたらいに水を張るとその中に野菜たちを入れてあげました。
野菜たちの体から、しゅっと湯気が上がります。
「みんなありがとう。少しわかってきたよ。野菜のみんなにも気持ちがあること。できればおいしいお料理になりたいこと。でも、自分が野菜だからといってもどうしてもいやなことやはずかしいことはあるよね。それはよくわかったよ。じゃあどうすればことさんは、嫌な気持ちにならずに気持ちよく買っていってもらえるかなぁ」
「わたしをラップに巻いてくれませんか」
ことさんが口を開きました。
「ラップに巻かれたら誰もラップをはがしてまで皮をはがしたりしませんよね。もしかしたら、ラップに巻いているとうもろこしは、きれいだと思って買っていってくれるお客さんもいるかもしれません。」
「確かに私達も三本まとめて売られるときはラップに包まれることが多いわ」と、きゅうさん。
「私はまだ新鮮だと思うけど、さいきん皮が乾いてきて見栄えが悪くなってきているわ。安売りにして売れるのなら、そっちの方がいいです。もし、それでも売れなかったときは、私あきらめます。牛のエサにでも豚のエサにでもなります」
ことさんの目には、涙がうっすらとうかんでいます。
「そうかい。ちょっと待ってくれるかな。もろこしくん、ちょっといいかい。みんなありがとう。きゅうさんとピーマン君、男爵夫人たちは、一度売り場に戻ってもらって平気だよ」
もうちょっと水に入っていたいなぁ、とピーマンたちが駄々をこねるので、洗面器に水を移してピーマンたちを売り場まで戻しに行きました。
「よし、ことさんと一緒に巻かれてもいいとうもろこしはいるかね」
「私巻かれてもいいわよ。」
一番年上のとしさんがはっきりした声で答えました。
「だけど、きつく巻かれると苦しいからゆるく巻いてね。最近年をとってきたから、水分がへってきているのよ」
「私もいいわよ」
もろさんが皮をひらひらさせました。
「店長さん、いい考えがあるの。大きなトレーにつぶが見えるように皮をむいた私と皮をむかないとしさんとことさんを並べていれる、っていうのはどうかしら?」
「つぶが見えているもろさんをみれば私たちを見なくてもおいしいってわかるわけね」
としさんが言いました。
「そうそう、まあ私もぴちぴちとまではいかないけれどね」
「それはいいアイデアだね。ほかに意見はあるかね」
「そういえば、この間小さなお子さんのお母さんが話しているのを聞いたんですけど……」
ことさんが涙をふきながら店長さんに話したところによると……。
お店には山積みのとうもろこしの隣に、トレーに入ったことさんたちが置かれていました。
ひとパックでは寂しい、とのもろさんの意見で、三本入りパックが何個かかさねられています。
たなの上にはこんな張り紙が書かれていましたよ。
《甘くてとってもおいしいとうもろこし
三本入り 298円。
夏休みのおやつにピッタリ
皮をむかないでレンジでチンするだけでおいしいよ!
電子レンジで三分ラップに巻いてチンしてね♡》
しゅう~~~
自動ドアが開きました。
「おとうさーん。甘くてとってもおいしいとうもろこし、だって!おいしそう!買ってもいい?」
「もちろん。かごに入れていいよ。お、レンジでチンで食べられるんだな。これならお父さんでもできそうだ。」
「お父さん、皮をむかなくてもおいしいってわかるんだね」
「レンジでチンすると、うまみが閉じ込められるからおいしく食べられるってわけだろ」
「今日のおやつはとうもろこしだね!」
男の子は嬉しそうに2パックかごに入れました。
「ありがと」
ことさんが小さくひげを揺らしました。
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