全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第一章

予想外の新事実

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「呪詛の国、シャーマニア!? 」

 次の日。昨日の出来事を女将さんに話すと、女将さんは複雑な顔で私を見た。

「知ってるよ、シャーマニア。
 黒竜国の隣国で、呪術師のシャーマンをトップとした怪しい国でしょう? 」

「いかにも怪しそうですね」

 思わず答えていた。
 
 この世界は、もとの世界の常識が通用しない。獣人がいたり、竜がいたり。はたまた、怪しすぎるシャーマンの国だってあるようだ。

 女将さんは続ける。

「シャーマニアって、黒竜国ウチが敵対している白竜国と手を組んでるんでしょ?
 しかも、怪しい呪術で異世界から聖女を呼び寄せたとか」

「えっ!? 」

 思わず声を上げていた。
 白竜国と手を組んだくだりは知らないが、異世界から聖女を呼ぶとなると……私たちが召喚された地は、シャーマニアだったのだろうか。そして、里果と勇輝はシャーマニアにいるのだろうか。
 二人には会いたくないが、シャーマニアで元気にしているのか少しだけ気になった。

 (きっと、二人でイチャイチャしてるに違いないわ)

 そう思っても、もはや何のダメージもない。あれだけショックを受けた失恋だが、予想以上に私の心は立ち直っているらしい。

「さあ、もうこんな時間ね。
 今日もランチが忙しかったから、あっという間に時間が過ぎたわ」

 女将さんは時計を見て、驚いたように言う。

「エマちゃんも、そろそろ帰らないと。
 ご家族が心配するわよ? 」

「ありがとうございます。
 お先に失礼します」

 私は頭を下げ、食堂を後にしていた。




 この街に来て数週間、すっかり生活にも慣れてきた。そして、この世界での常識を受け入れつつもある。人間とも獣人とも分け隔てなく仲良くし、黒竜様に寄り添って話をする。夜にはクリフさんと夕食をいただく。
 もとの世界に戻りたくないと言えば嘘になるが、もとの世界に対する執着は薄れかかっていた。むしろ、この世界でも楽しく生きていけるとさえ思い始めていた……

 

 城の黒い石畳の上を歩いていると、夕闇の中黒竜様が城へ舞い降りるのが見えた。その姿は立派だが、少しふらついている。

 (また怪我をされたんだわ)

 黒竜様を治さなきゃと広場へ急ぐが、

「エマさん!」

不意に声をかけられた。思わず振り返ると、そこには黒い騎士服を着た、緑色の髪のライアンさんが立っていた。

「エマさん、どこへ行かれるのですか? 」

 ライアンさんは不思議そうに私に聞き、私は

「黒竜様のところです!」

吐き捨ててまた走り始める。すると、ライアンさんも私の横を走ってついてくるのだ。

「!? 」

 予想外のライアンさんの行動に驚きつつも、

「黒竜様、また怪我をされているんです!」

慌てて告げる。だから、私のことは放っておいてと言う意味だ。
 だが、ライアンさんは空気が読めないのだろうか。私の横を走りながら口走る。

「クリフォード様が怪我をされるのは、いつものことです」

「えっ!? 」

 思わず立ち止まってライアンさんを見る。

 私は、黒竜様とクリフさんのことを考えすぎて、頭がおかしくなってしまったのだろうか。今のライアンさんの言葉はまるで、黒竜様がクリフさんだと言っているようだ。

 ライアンさんは、しまったとでも言うように口を塞ぐ。だが、時すでに遅しだ。

「黒竜様は……クリフさんなんですか? 」

 そんなはずはない。クリフさんはどう見ても人間だからだ。だが、常識が通用しないこの世界だ。クリフさんが黒竜様であっても、おかしくはない。

 ライアンさんは観念したように告げる。

「申し訳ありません。エマさんなら知っていると思ったのですが……」

 いや、知るはずがない。

「クリフォード様は竜人族で……竜人族というのは、竜に変化へんげする能力を持つのです」

 頭に雷が落ちたような衝撃を覚える。私としたことが、黒竜様とクリフさんは関係がないと思って、黒竜様に無駄なことをベラベラと話しすぎた。クリフさんはそれを全部知っているのだ。それに、クリフさんがスカーフを巻いていたのも……私が黒竜様にプレゼントをしたからだ。

 (ジャイアンじゃないじゃん……)

 力なくへなへなと崩れ落ちる。
 そんな私を見て、意を決したようにライアンさんは言う。

「かく言う私も竜人族のため、変化へんげ出来ます」

 私の前でライアンさんは緑色の光を放ち、次の瞬間緑色の竜へと変化へんげしていた。黒竜様よりも少し小ぶりだが、鱗に覆われた強そうな竜だ。

『エマさん、私に乗ってください』

 緑竜は言葉を発していないが、その言葉が頭の中に響いてくる。

『すぐにクリフォード様の元までお連れしましょう』

 恐る恐る緑竜に触れる。緑竜はゴツゴツしていて岩のように硬かった。だが、黒竜様に触れた時のような温かい気持ちになることはない。

 私は緑竜の背中に跨り、首に腕を回した。その瞬間、緑竜は大きく羽を広げ、空高く舞い上がる。そしてみるみるうちに城壁を登っていく。

 王城の上部の広場に、見慣れた黒竜様が見えた。黒竜様は緑竜に乗った私を見て、その長い首をもたげた……

 
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