全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第二章

呪詛の国シャーマニアへ潜入

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 どのくらい心地よさに酔っていたのだろう。

『エマ、着いたぞ』

 彼の声が聞こえ、ぱっと身体が軽くなる。目を開くと黒竜様は消え失せており、私はふわっとクリフさんに抱えられた。

 (わぁ、お姫様抱っこ!! )

 そう思うが、クリフさんの綺麗な顔が目の前にあり、その優しい瞳で見つめられ……嫌でも勘違いしてしまいそうになる。

 その腕の中から脱出しようともがくが、

「俺の子猫ちゃんは素直じゃないな」

もがけばもがくほど、ぎゅっとされる。それで身体が熱くなりヘロヘロになってしまうのだ。

 思う存分抱きしめられ、かろうじて立っているだけの状態にまでほだされた私を、クリフさんはようやく解放してくれる。大切そうに私を地面に下ろし、持っていた鞄から茶色の布を取り出した。

黒竜国ウチの服だと目立つから、このボロ布を羽織るといい」

 ボロ布などと言うが、開いてみるとちゃんとした厚手の生地のローブである。そしてそれに腕を通し、フードを頭に被った。ほんのりとクリフさんの香りがして、頭がくらくらしたのは言うまでもない。

 クリフさんも同様に焦げ茶のローブを被り、フードを被る。すると、その黒い騎士服も綺麗な髪も、途端に目立たなくなるのだ。そしてそのまま差し出された手を、ぎゅっと握った。

 もちろん、恋人同士のデートだとか、そんな甘い気分ではない。私はクリフさんとはぐれないように手を繋ぐのであって、愛情表現ではない。そう思うのに、繋いだ手は温かく、幸せだと思ってしまうのであった。




 呪詛の国シャーマニアは、黒竜国とは全然違っていた。
 薄暗くて苔の生えた建物が建ち並び、その間には破れかけのテントが張り巡らされている。テントでは商売をしているのだろう、ボロボロのローブを着た人々がテントに入ったり出たりを繰り返している。
 すれ違う人はみな粗末な服装をしており、大多数が大きな数珠みたいなものを持っていた。そして彼らは決まって暗い表情をしているのだ。

「随分と雰囲気が暗いところですね」

 隣を歩くクリフさんにひそひそと告げると、

「ああ」

彼は低く頷いた。

「シャーマニアは貧しい国だからな。
 その国税のほとんどが上位層のシャーマンによって使われて、人々は高い税を取られて苦しい生活をしている」

 シャーマニアの人々を見ていると、いかに黒竜国が幸せなのかよく分かる。街の様子も、人々の身なりも、人々の表情でさえ全然違うのだ。

 私がシャーマニアから追放された時は、籠のような乗り物によって運ばれた。そのため、街の様子なんて知るはずもなかった。まさか、こんなにも陰々鬱々とした街だとは思ってもいなかった。

「シャーマニアの密輸組織の動きを探るのも大切だが、まずはエマの仲間を探さないとな」

 私はクリフさんを見上げる。すると、クリフさんは私に同情するような、それでいて怒っているような複雑な表現をしている。

「仲間っていうほど……仲間じゃないです」

 そう言いながらも裏切られてきた事実を思い出す。
 私も暗い顔をしていたのだろう。クリフさんが逃げる手に、ぎゅっと力を込めた。その繋いだ手が、クリフさんは私の味方だと言ってくれているように思える。

「シャーマニアは聖女を召喚したと言っている。エマの言う通り、その女が聖女とされているんだろうな」

「はい。……召喚された時から、自分が聖女だと言い張っていました」

 事実を告げると、クリフさんは鼻で笑う。

「彼女が本当に聖女だったとしても、俺はエマのほうがいい」

 その言葉にどれだけ救われただろう。思い返せば、私は里果に何でも奪われてきた。仲良しの友達に、好きだった恋人まで。クリフさんまで奪われることになってしまったら……そう考えるだけで胸が苦しくて、クリフさんの手を握る手に力が入る。
 知らず知らずのうちに、私はこんなにもクリフさんに依存しているのだ。

「人間は竜人族よりも遥かに弱い。だから、俺たちにとってシャーマニア単体では何の威力もないのだが……
 白竜国がシャーマニアの聖女を手に入れれば、さらに手強い国になるだろう。
 エマが俺たちを癒してくれるように、シャーマニアの聖女も白竜国の者を癒すのだから」

 その、シャーマニアの聖女の力が私よりも強かったら……そして、シャーマニアの聖女がクリフさんを手に入れようとしたら……クリフさんは、私を捨ててシャーマニアの聖女に乗り換えてしまうのだろうか。

 そんな一抹の不安を感じた時だった。




「聖女様の行進が始まるわ」

 すれ違う女性が発した言葉が聞こえる。クリフさんを見上げると、彼も怪訝な目で私を見返していた。

 破れたローブを着た女性は、隣にいる同じような身なりの女性にひそひそと告げる。

「嫌ね。私たちはこんなに貧しいというのに、着飾った聖女様に頭を下げなきゃいけないだなんて」

「でも、仕方がないわ。
 聖女様はきっとこの国を豊かにしてくれるって、司祭様が言っておられたから」

 (ちょっと待って……どういうこと? )

 話の内容が全く理解出来ない私は、貧しい身なりの二人を呆然と眺めていた。だが、彼女たちは足早に通り過ぎ、人混みの中へと消えていく。それとともに、どこからともなく鐘の音が鳴り響いた。

 鐘の音が鳴った瞬間、人々は慌てて道の中央を開けた。そして、道の脇にずらっと並び、両膝をついて座る。そのまま、土下座でもするかのように、頭を深く垂れるのだ。

「仕方ない。俺たちも真似しよう」

 クリフさんの言葉に頷き、私たちも最後尾に腰を下ろした。そして、見よう見まねで膝をつき、頭を深く垂れたのだ。

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