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第二章
懐かしい黒竜国の大地
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次の日の朝。
行きたくないのに、引かれるように私は広場に立っていた。クリフさんはいつもの黒色の騎士服姿で、綺麗な瞳は遠くを見つめている。
「お……おはようございます」
おずおずと告げた私に気付くと、クリフさんは口元を緩める。そして、眩い笑顔で告げた。
「おはよう、エマ。来てくれると思っていた」
「いや……来たくなかったのですが……」
だが、引かれるように来てしまった。
こんな私を見て、満足げに笑うクリフさん。
「どうやら俺の子猫は、素直じゃないな」
「やめてください」
いつものように可愛げのないことを言う私。クリフさんのペースに巻き込まれないよう、必死に注意を払っている。それでも、クリフさんの近くにいるだけで幸せな気分になってしまう私は、完全にクリフさんに蝕まれている。
「今日はシャーマニアへ偵察に行こうと思う」
「え……」
シャーマニアと聞いて、咄嗟に里果と勇輝が思い浮かんだ。だが、クリフさんの手前、どんな顔をすればいいのか分からない。私はきっと難しい顔をしていたのだろう。そんな私を見て、クリフさんは面白そうに笑った。
「呪具をこの国に密輸しているようだし、白竜国とも手を組んだらしいからな。
……エマも友達のことを気にしていた。彼と彼女がどうしているのか、知りたくないか? 」
正直、勇輝と里果には関わりたくない。だが、二人がどうなっているのか気になるのも事実だった。おそらく、二人でイチャついているに決まっているだろうが。
「エマを召喚したのもシャーマニアの奴らだし、もとの世界に帰る手段も見つかるかもしれない」
もとの世界に帰るのが本望だ。だが、クリフさんの口からその言葉を聞くと、酷く胸が痛む。
(おかしいな、帰りたいはずなのに……)
「だが、敵国に行くということは、それなりに危険もあるかもしれない。
もちろん俺は全力でエマを守るが、万が一怪我したら……」
悩ましげなクリフさんに、
「行きます!! 」
私は告げていた。
「行きたいです!! 」
それは、もとの世界に帰りたいわけではない。里果と勇輝に会いたい訳でもない。ただ、クリフさんを一人で行かせるのが怖かった。私は足手まといかもしれないが、クリフさんを治療することも出来るからだ。
クリフさんは私を見て優しく微笑む。その笑顔、反則なのですが!真っ赤になってしまう私の前で、クリフさんは黒い光に包まれる。すると次の瞬間、彼は見慣れた黒竜様へと変化していた。そして、私が背中に乗りやすいよう、頭を下げてくれる。
『エマ、落ちないようにしっかり掴まっていろ』
「はいっ!! 」
いけないと思っているのに、その背中にぎゅっとしがみつく。硬い鱗の体に触れると、どっと幸せが流れ込んでくる。必死でガードしているが、もうそろそろ駄目かもしれない。クリフさんが私を大切にしてくれるたび、私のことを考えてくれるたび、少しずつ惹かれていく……
遥か下方に見えるヴェールの街並み。通りには人が溢れ、こちらを見て手を振っている。女将さんの言葉を思い出し、人々に見えないように身を低くした。
(変な噂を立てられちゃ、困るからね)
あっという間に街を過ぎ去ると、次は広い大平原だ。馬に乗った人々が、何かの群れを追っている。
『この平原では、食糧となる魔獣が放牧されている』
「へえー!! いつも食べている料理は、こんなところで飼われていた魔獣だったんですね。
私はてっきり野生の魔獣かと……」
思わず答えると、彼はいつもの調子で教えてくれる。
『野生の魔獣には、寄生虫が付いているからな。
取り除くのも困難だから、家畜のほうが扱いやすい』
「寄生虫がいるなんて、私の世界と同じですね」
こんな他愛のない会話が嬉しかった。クリフさんを好きになってはいけないと分かっているが、思わずにやけてしまう。この顔を見られると困るから、背中に乗っていて良かったと心から思う。
(美しい景色を見せられて、大切にされて。
好きにならないはずがないよね……)
ここまで考えてしまう自分に驚くばかりだ。
大平原を越えると、桃色の綺麗な花畑が並ぶ。
「このお花畑、綺麗ですね。
まるで天国みたい」
幻想的な景色にうっとりする私だが、彼はそれを見下ろしながら告げた。
『綺麗なものほど危ないんだ。
ここは別名、天国に一番近い場所。
あの桃色の花は人食草で、うっとり見惚れているといつの間にか食べられてしまう』
「えっ!? 」
『綺麗なものほど危ないっていうから、うちの子猫ちゃんもアブないんだろうな。
俺にとっては』
その言葉をいつものようにスルーしながらも、ぞぞーっと寒気が走った。
私はこの世界で街から追放されたが、命があったことが奇跡だろう。もしあの時クリフさんに出会えなかったら、私は死んでいたに違いない。そして、そんな世界に易々と私を放り出した勇輝と里果を恨んだ。
この世界に来た時、勇輝に未練がなくなったといえば嘘だった。だが、今はもはや、勇輝に好意は全く抱いていない。強いて言えば、強い怒りがあるのみだ。これもクリフさんのおかげだろう。
こうして私は、予想以上に早く失恋から立ち直っている。
このまま、黒い竜は二ヶ月前に私が辿った道を、どんどん遡っていった。私はその美しい景色を見ながらも、二ヶ月前のことを思い出し、懐かしむ。
そして、雪が残る急峻な山々を越えると、目の前には深い緑の森が広がっていた。
(ここでクリフさんと出会ったんだ)
クリフさんと出会ってから、私は信じられないほど楽しく充実した日々を過ごしている。クリフさんと出会えて良かったと心から思った。
『エマ。もうすぐシャーマニア領に入る。
シャーマニアの奴らにバレないように低空飛行するから、しっかり掴まって身を低くしておくように』
「はい!」
私はさらに彼にぎゅっとしがみつき、その硬い背中に頬を寄せた。その瞬間、黒い竜は高度を落とし、木々すれすれを凄い速さで飛んでいく。木にぶつかりそうで怖くも思い、彼にしがみついたまま目を閉じた。すると、吹き抜ける風の音とともに、彼の微かな息遣いを感じる。相変わらず胸は温かく、ずっとこうして抱きついていたいとさえ思った。
この心地よさは波長が合うからだと理解している。だが、関われば関わるほど、触れれば触れるほど、ますます離れられなくなっていくのだ。
行きたくないのに、引かれるように私は広場に立っていた。クリフさんはいつもの黒色の騎士服姿で、綺麗な瞳は遠くを見つめている。
「お……おはようございます」
おずおずと告げた私に気付くと、クリフさんは口元を緩める。そして、眩い笑顔で告げた。
「おはよう、エマ。来てくれると思っていた」
「いや……来たくなかったのですが……」
だが、引かれるように来てしまった。
こんな私を見て、満足げに笑うクリフさん。
「どうやら俺の子猫は、素直じゃないな」
「やめてください」
いつものように可愛げのないことを言う私。クリフさんのペースに巻き込まれないよう、必死に注意を払っている。それでも、クリフさんの近くにいるだけで幸せな気分になってしまう私は、完全にクリフさんに蝕まれている。
「今日はシャーマニアへ偵察に行こうと思う」
「え……」
シャーマニアと聞いて、咄嗟に里果と勇輝が思い浮かんだ。だが、クリフさんの手前、どんな顔をすればいいのか分からない。私はきっと難しい顔をしていたのだろう。そんな私を見て、クリフさんは面白そうに笑った。
「呪具をこの国に密輸しているようだし、白竜国とも手を組んだらしいからな。
……エマも友達のことを気にしていた。彼と彼女がどうしているのか、知りたくないか? 」
正直、勇輝と里果には関わりたくない。だが、二人がどうなっているのか気になるのも事実だった。おそらく、二人でイチャついているに決まっているだろうが。
「エマを召喚したのもシャーマニアの奴らだし、もとの世界に帰る手段も見つかるかもしれない」
もとの世界に帰るのが本望だ。だが、クリフさんの口からその言葉を聞くと、酷く胸が痛む。
(おかしいな、帰りたいはずなのに……)
「だが、敵国に行くということは、それなりに危険もあるかもしれない。
もちろん俺は全力でエマを守るが、万が一怪我したら……」
悩ましげなクリフさんに、
「行きます!! 」
私は告げていた。
「行きたいです!! 」
それは、もとの世界に帰りたいわけではない。里果と勇輝に会いたい訳でもない。ただ、クリフさんを一人で行かせるのが怖かった。私は足手まといかもしれないが、クリフさんを治療することも出来るからだ。
クリフさんは私を見て優しく微笑む。その笑顔、反則なのですが!真っ赤になってしまう私の前で、クリフさんは黒い光に包まれる。すると次の瞬間、彼は見慣れた黒竜様へと変化していた。そして、私が背中に乗りやすいよう、頭を下げてくれる。
『エマ、落ちないようにしっかり掴まっていろ』
「はいっ!! 」
いけないと思っているのに、その背中にぎゅっとしがみつく。硬い鱗の体に触れると、どっと幸せが流れ込んでくる。必死でガードしているが、もうそろそろ駄目かもしれない。クリフさんが私を大切にしてくれるたび、私のことを考えてくれるたび、少しずつ惹かれていく……
遥か下方に見えるヴェールの街並み。通りには人が溢れ、こちらを見て手を振っている。女将さんの言葉を思い出し、人々に見えないように身を低くした。
(変な噂を立てられちゃ、困るからね)
あっという間に街を過ぎ去ると、次は広い大平原だ。馬に乗った人々が、何かの群れを追っている。
『この平原では、食糧となる魔獣が放牧されている』
「へえー!! いつも食べている料理は、こんなところで飼われていた魔獣だったんですね。
私はてっきり野生の魔獣かと……」
思わず答えると、彼はいつもの調子で教えてくれる。
『野生の魔獣には、寄生虫が付いているからな。
取り除くのも困難だから、家畜のほうが扱いやすい』
「寄生虫がいるなんて、私の世界と同じですね」
こんな他愛のない会話が嬉しかった。クリフさんを好きになってはいけないと分かっているが、思わずにやけてしまう。この顔を見られると困るから、背中に乗っていて良かったと心から思う。
(美しい景色を見せられて、大切にされて。
好きにならないはずがないよね……)
ここまで考えてしまう自分に驚くばかりだ。
大平原を越えると、桃色の綺麗な花畑が並ぶ。
「このお花畑、綺麗ですね。
まるで天国みたい」
幻想的な景色にうっとりする私だが、彼はそれを見下ろしながら告げた。
『綺麗なものほど危ないんだ。
ここは別名、天国に一番近い場所。
あの桃色の花は人食草で、うっとり見惚れているといつの間にか食べられてしまう』
「えっ!? 」
『綺麗なものほど危ないっていうから、うちの子猫ちゃんもアブないんだろうな。
俺にとっては』
その言葉をいつものようにスルーしながらも、ぞぞーっと寒気が走った。
私はこの世界で街から追放されたが、命があったことが奇跡だろう。もしあの時クリフさんに出会えなかったら、私は死んでいたに違いない。そして、そんな世界に易々と私を放り出した勇輝と里果を恨んだ。
この世界に来た時、勇輝に未練がなくなったといえば嘘だった。だが、今はもはや、勇輝に好意は全く抱いていない。強いて言えば、強い怒りがあるのみだ。これもクリフさんのおかげだろう。
こうして私は、予想以上に早く失恋から立ち直っている。
このまま、黒い竜は二ヶ月前に私が辿った道を、どんどん遡っていった。私はその美しい景色を見ながらも、二ヶ月前のことを思い出し、懐かしむ。
そして、雪が残る急峻な山々を越えると、目の前には深い緑の森が広がっていた。
(ここでクリフさんと出会ったんだ)
クリフさんと出会ってから、私は信じられないほど楽しく充実した日々を過ごしている。クリフさんと出会えて良かったと心から思った。
『エマ。もうすぐシャーマニア領に入る。
シャーマニアの奴らにバレないように低空飛行するから、しっかり掴まって身を低くしておくように』
「はい!」
私はさらに彼にぎゅっとしがみつき、その硬い背中に頬を寄せた。その瞬間、黒い竜は高度を落とし、木々すれすれを凄い速さで飛んでいく。木にぶつかりそうで怖くも思い、彼にしがみついたまま目を閉じた。すると、吹き抜ける風の音とともに、彼の微かな息遣いを感じる。相変わらず胸は温かく、ずっとこうして抱きついていたいとさえ思った。
この心地よさは波長が合うからだと理解している。だが、関われば関わるほど、触れれば触れるほど、ますます離れられなくなっていくのだ。
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