全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

文字の大きさ
15 / 43
第二章

いつもの甘い生活

しおりを挟む
 ここは黒竜国の王都、ヴェール。
 異世界から召喚された私は、ここで毎日楽しい日々を送っている。




「最近、黒竜様が仲間を連れて飛んでいかれるようになったわね」

 ランチのピークを過ぎ、ひと息ついた食堂内で女将さんが言う。黒竜様と聞いて飛び上がりつつも、その言葉に頷いていた。

 一人で身を犠牲にするのはやめて欲しい。私がそう言ってから、彼は数頭の竜を伴って飛ぶようになった。もちろん怪我を負うことはあるが、その頻度は減り、程度も随分軽くなった。そして私は決まって彼の治療をし、他の騎士たちの治療も行っていた。もちろん、抱きついての治療ではなく、軽く触れる程度で、だ。

 そんなことを知らない女将さんは、少し不安そうな顔で言う。

「白竜国がシャーマニアと手を組んだなんて聞くし、戦いも激しくなってきているのかしら」

「そうかもしれませんね……」

 そう答えながらも、ふと思った。里果と勇輝は今何をしているのだろうか。里果と勇輝を説得すれば、戦況も何か変わるのではないだろうか。だが、里果と勇輝と会いたくはない。

「私たちの黒竜様が負けるはずがないから、安心しているんだけどね」

「そうですね。私も黒竜様を応援しています」

 笑顔で女将さんに告げていた。


 すると、女将さんは思い出したように真顔になる。

「そういえば二ヶ月くらい前、一度だけ黒竜様が女性を乗せて飛んでいたらしいのよ」

「えっ!? 」

 思わずビクッと飛び上がる。

 (もしかして浮気!? )

 一瞬そう思ったが、よくよく考えるとそんなはずはない。二ヶ月ほど前に黒竜様に乗ったのは、きっと私だ。

「その女性って竜王陛下みたいな綺麗な黒髪をしていて……黒竜様とも波長が合うんだろうね」

 どうやら、一般市民は黒竜様と竜王陛下が同一人物だとは思っていないらしい。竜人族が竜に変化する事実も知らず、竜をペットか何かだと思っているようなのだ。事実、黒竜様は竜王陛下のしもべのような扱いになっている。

「そ……そうですね」

 引き攣った笑顔で同調しつつも、その女性が私だということは言えるはずもなかったのだ。

 私は竜王陛下という、一般人にとっては雲の上の人と知り合いになってしまったようだ。しかも、とても気に入られているようだ。





 夕方。家に帰るとすぐに、クリフさんが大量の食事とともにやってくる。

「こんばんは、エマ。今日は月が綺麗だな」

 クリフさんの後ろには、真っ青な満月が登っている。もとの世界の黄色の月もいいが、この世界の神秘的な青色の月は驚くほど美しい。

「そうですね」

 思わず見惚れてしまうと、

「エマのほうが綺麗だ」

とんでもないことを言われ、思わず扉を閉めそうになった。クリフさんは笑顔のまま、その扉をぐっと手で押さえる。

 この、いつものチャラい調子にホッとする。こうやってチャラチャラされると、いつものように軽くあしらうことが出来るからだ。黒竜様の件について悩んでいた話なんてされた時には、あしらうことなんて出来なかった。そうすると、私はこの甘くて美しい竜王の餌食となり、おかしな気分になってしまうのだ。

 (ほだされてはいけない)

 必死に心の中で呪文のように唱えていた。



 食卓にいつものように料理が並べられ、

「いただきます!」

ナイフとフォークを手に、薄い生ハムを切る。魔獣の肉だと言われるが、豚肉よりも濃厚で甘い肉汁が溢れる。

「わあ、美味しい!」

 思わず頬を押さえると、クリフさんは愛しそうに目を細めて私を見つめる。その表情、反則だ。慌てて視線を逸らした。

 こうやって、クリフさんは食事をする私を愛しそうに見つめている。国王なのだから、城で豪華な食事を食べるのが普通だろう。それなのに、こうやってこの家を訪れ、毎日私と夕食を食べる。

「クリフさんは、城で食事を摂らないのですか? 
 国王なのに、私なんかと……」

 思わずそう聞くと、彼は満足そうに頬を緩めて甘い声で告げるのだ。

「エマと一緒にいただく食事ほど美味しいものはない」

 (あ、これ、スルーすればいいやつだ)

 咄嗟にそう思い、

「わぁー!! 美味しそうなデザートまで!! 」

綺麗なクリスタルの皿に盛り付けてあるフルーツを慌てて見た。
 こうして、クリフさんの扱いも上手くなったと思っていたのだが……

「そうやって、エマは俺を邪険に扱うから」

クリフさんはぞっとするような甘い声で囁く。そして、すっと立ち上がって私の隣へ歩いてくる。

 (逃げなくちゃ)

 そう思った時には、私はすでに彼の腕の中に収まっている。胸がじーんと痺れ幸せを感じる私は、何とかこの甘い罠から抜け出そうともがくが……

「お仕置きだ」

 耳元でそっと囁かれて、ふにゃーっと体の力だって抜けてしまう。

 クリフさんは罪な男だ。波長の合う私に触れると私がどうなるか分かっていて、やっているのだ。こうやって徐々に私を蝕み、クリフさんから離れられなくしているのだ。

 男なんて当分勘弁だったのに、こうして私の頭の中はクリフさんで埋められていく。

「エマ、明日は仕事、休みだったな」

 そっと抱きしめられたまま、クリフさんは思い出したように告げる。

「明日の朝、いつもの広場で待っている」

 これ以上のめり込んではいけないと分かっているのに、きっと私は行ってしまうのだろう。波長が合うせいで、クリフさんに会いたいと思ってしまうのだから。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

声を聞かせて

はるきりょう
恋愛
動物の声が聞こえる彼女と冷たい第二王子の物語。完成しました。 「……反対されない、というのは、寂しいことだと思いますの。だから…私が反対してさしあげます」  サーシャは最上級の笑顔を浮かべた。そして、思い切り息を吸い込む。 「何でも思い通りいくと思うなよ、くそ王子!!」 「サ、サーシャ様!?」  なりゆきを見守っていたハリオが慌てたようにサーシャの名を呼んだ。一国の王子への暴言は不敬罪で捕まりかねない。けれど、言わずにはいられなかった。  そんなサーシャの言動にユリウスは一瞬目を丸くし、しかしすぐに楽しそうに笑った。  「お前面白いな。本当に気に入った」 小説家になろうサイト様にも掲載してします。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】婚約者の真実の愛探しのお手伝い。私たち、愛のキューピッドなんです?

buchi
恋愛
家の都合で決められた婚約者の扱いがひどい。招待状は無視する、学園では目も合わさない。メガネっ子の私になんか、関心がないんだと思っていました。それならいっそ解放して欲しいものです。と、思っていたら、婚約者は真実の愛を求めてパーティ会場で婚約破棄! でも、事情もあったみたい。元婚約者には幸せになって欲しい。私、彼の真実の愛探しを一生懸命お手伝いしました。知り合いのご令嬢も紹介しましたのよ? だのに強硬に再婚約を迫られて大弱り。一度婚約破棄されたら戻すのなんか至難の業。母だって、私のために他の縁談を探してますし、彼の友達だって私に親身になって寄り添ってくれたり。これはそんな私たちの愛と友情(と下心)の物語です! 12万字くらい。58話。単純な恋愛物語です。

処理中です...