全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第一章

竜王陛下はヤキモチ妬き

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 私はそっとクリフさんに手を伸ばす。そして、その腕にそっと触れた。その瞬間、私の心は温かい気持ちで満たされていく。
 クリフさんは少し驚き、私の手に大きなその手を重ねる。そして、頬を緩めて甘い声で告げた。

「初めて俺に触れてくれたな」

 思わず手を引こうとするが、ぎゅっと手を絡められて身動き出来ない。

「は……初めてじゃ……ないです」

 かろうじてそう告げた私を、目を細めて見るクリフさん。

「そうか。黒竜の俺にはよく抱きついてくれたからな」

 それを聞き、真っ赤になってしまう。そして、黒竜様には二度と抱きつけないと思った。だからといって、クリフさんに抱きつくのはもってのほかだ。
 頬を染める私を、クリフさんはいつもの優しい瞳で見る。まるで愛しい者を見るような、甘くて幸せそうな瞳で。この顔に、私は弱い。
 思わずそっぽを向くと、クリフさんはふふっと小さく笑う。

「エマは波長で相手を選ぶのに不満だが、俺は波長だけでエマを見ている訳ではない」

 低くて甘い声で、囁くように告げられる。

「エマに初めて会った日。エマは怪物とも思える俺を心配し、助けてくれた。血で体が汚れることをものともせず、懸命に助けてくれた。
 獣人のいない世界から来たのだから、なおさら怖かっただろう。

 でも俺は、そんなエマの優しさに惹かれ、大切にしたいと思ったんだ」

「え……」

 クリフさんを見つめる。その瞳は相変わらず優しく、嘘を言っているようには見えない。そして、クリフさんのまっすぐな言葉が、少しずつ自分の胸に沁み込んでいく。

 (そんなことを言われると、好きだと言われてると勘違いしてしまうよ)

 だが、勇輝にも散々甘い言葉を吐かれ、捨てられた私だ。簡単にクリフさんを信じてはいけないと思う。そもそも、恋愛には懲り懲りで、もう当分したくない。私は必死にクリフさんに絆されないようにと耐えるのであった。

「エマ」

 甘い瞳で私を見て、優しく名前を呼ばれる。見上げると、美しい黒髪に、整った顔で、愛しげに私を見て微笑む。

「俺はこれからもエマといたい。
 これからもたまには俺に会いに来て欲しい」

 いつもの私であれば、そっぽを向いて拒否していたかもしれない。だが、私は少しずつクリフさんに手懐けられているのだろう。この美しい黒髪の竜王陛下に、笑顔で告げていた。

「もちろんです!! 」

 


 私はクリフさんから離れ、広場の端から城外を見る。遠くまで広がるヴェールの街の向こうには、緑の草原が続く。遥か向こうには、頂に雪を蓄えた急峻な山々。まるで絵になるような美しい景色に見惚れながら、ふと思った。

「クリフさん? 」

 私は振り向き、後ろに立つ彼に聞く。

「私もやっぱり、騎士さんたちと同じ考えです」

 クリフさんは何も言わず、少し疑うような瞳で私を見る。そんな彼に、告げていた。

「黒竜様はいつも一人で国を守っておられます。
 だから、騎士さんたちを頼ってはどうですか?

 だって……」

 一瞬口ごもったが、思いのままを告げていた。

「クリフさんばかりが傷付くのは、私も辛いですから」


 クリフさんは驚いた顔をし、次第に嬉しそうな笑顔になる。そして、満面の笑みで答えた。

「そうだな」

 彼は少し考えた後、また嬉しそうに告げる。

「だが、俺が怪我をしても、エマが抱きしめて治してくれるからな」

「ちょっと待って。……もしかして、それを期待してたんですか!? 」

 (最低だ。
 やっぱりクリフさんは下心ありありだ)

 だが、実際に彼が傷付くと私は酷く動揺し、抱きついて怪我を治してしまうのだろう。その甘い間違いを、これからも繰り返してしまうのだろう。

「分かった。これからは、自分自身も大切にする。
 だが……」

「だが……? 」

「エマがライアンに乗ったこと、俺は一生恨み続ける。
 そうだな。呪いの腕輪とやらを買って、ライアンに嵌めてやろうか」

「や……やめてぇぇぇえ!! 」


 どうやら、竜王陛下はヤキモチ妬きらしい。私はこれからも、このヤキモチに付き合わないといけないのだろう。

 そして、ヤキモチだけでなく……

「エマには首輪を付けて、俺から離れないように繋いでおきたいくらいだよ。

 俺の大切なこねこ……」

「やめてください!!! 」


 王城の広場に、私の大声が響き渡っていた。

 この、セクハラまがいの危ない言動にも、冗談か本気か分からない甘い言葉にも、私は惑わされていくのだろう。


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