全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第二章

宿敵、白竜王

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 熱い瞳で見上げる里果と、凍える瞳で見下ろすクリフさん。その様子に私のほうがハラハラしてしまう。

「あ……あの……」

 帰りましょうとクリフさんに言おうと思った時だった。

「リカ!! 何をしている? 」

 そう、里果の乗っていた馬車から降りてきたのは、白いスーツを着た勇輝……ではなく、見知らぬ美形の男性だったのだ。白銀の髪に明るい金色の瞳。一般的に美男とされるだろうが、私はクリフさんのほうが好みではある。

 その美男は甘い瞳で里果を見つめ、その後クリフさんを見つめた。

「……誰かと思えば、黒竜国のクリフォード陛下じゃありませんか」

 その瞬間、耐えきれないと言うように、ずざざざざっと周りの人が逃げ始めた。「うわぁぁあ」とか、「ひゃぁぁあ」などという、おっかない悲鳴とともに。それを白ローブが制止するが、クリフォード陛下に対する恐怖のほうが優っているらしい。周りにははすっかり人がいなくなってしまった。

 白スーツの美男は、そんなことお構いなくクリフさんに告げる。

「黒竜国は我らに抵抗するだけでなく、我が第六妻候補のリカまで奪うのか」

「だ、第六妻!? 」

 思わず叫び、そして口を塞ぐ。すると美男は私を見て、見下すように告げる。

「これはまあ、庶民的で泥臭い女。黒竜国のクリフォード陛下にぴったりですね」

 (泥臭い!? )

 反応する前に、クリフさんが反応していた。白スーツの胸ぐらをぐっと掴み上げている。そしてその深い青色の瞳は、燃え上がるような怒りを放っている。

「エマのことを悪く言うな」

 地の底から湧き起こるような恐ろしい声で、白スーツに言う。だが、この竜王陛下に胸ぐらを掴まれても、白スーツの男はびくともしなかった。相変わらず余裕の表情で、その手を振り解いた。

「クリフォード陛下は、こんな庶民を側に置いているんですね。さすが弱小国、早く我らに屈すればいいのに」

 鼻で笑うこの男を、ぶっ飛ばしてやりたい。だが、竜人族の王であるクリフさんをこのようにあしらうということは、この男も相当強いのだろう。
 一方、白スーツの隣にいる里果は、何だか暗い顔をしている。さすがの里果も、第六妻は嫌なのかもしれない。

「女よ、よく聞くがいい。
 竜人族は自らの能力を上げるため、妻を娶る。
 余がリカを妻として迎えるのも、聖女の能力があるからだ。リカは聖女として、余に貢献するのだ」

 そして彼は、とどめを指すように優しい口調で……だが、冷たい声色で、私にささやいた。

「クリフォード王が貴女を近くに置いているのは、おそらく貴女の能力に惚れ込んでいるからでしょう。
 ですが、弱小黒竜国の陛下の側にいることが、貴女にとって幸せですか? 

 黒竜国よりも、我ら白竜国のほうに……」

「遠慮しておきます!」

 私は、この冷酷な美男に向かって吐き捨てていた。クリフさんが私を近くに置いているのは、その能力に惚れ込んだからだ。その事実が辛くて、だが認めたくなくて。性格の悪い私は、この美男に向かって八つ当たりをしている。

「クリフォード様が私の能力に惚れ込んだからだとしても、私はクリフォード様の側に居続けます。

 ……えぇ、寄生虫だって言われても居続けます。

 だって、妻を六人も娶る下衆の近くになんて、いたくないですから!! 」

 私の言葉を聞き、隣にいるクリフさんが思わず吹き出した。そして、嬉しそうにそっと私の頭を撫でる。クリフさんに触れられるだけで、どっと幸せが押し寄せる。

 一方、美男は目をひん剥き、般若みたいな顔になっている。これがこの男の本性なのだろう。

「おのれ、ドブネズミめ!焼き殺す!! 」

 怒りを露わに声を上げた時……

「白竜国のコーネリウス王。市街地で争うなんてみっともないことはされぬよう」

 クリフさんが嘲笑うように言い放った。

「ここで我々が争えば、罪のないシャーマニアの人々を巻き込むことになる。
 一国の王であれば、それがどれだけ無駄なことか分かるだろう」

 すると、白竜国のコーネリウス王と呼ばれた男はクリフさんを血走った目で睨み、里果を引き連れて馬車へと戻っていった。里果は何度も振り返るが、その瞳は常にクリフさんを見ているため、ひどく不快でもある。

 (やっぱり、私のことはどうでもいいんだ)




 白い馬車が去った後、跪いていた人々はクリフさんと私を避けるようにそそくさと去っていった。そして家の中に入り、ぴしゃりと扉を閉めてしまう。
 シャーマニアの人々にとって竜人族は恐怖の対象であることを改めて感じた。

 (そうだよね。さっきの一瞬で、力の差を思い知ったよ)

 だが、私はクリフさんを怖いとも思わない。むしろ関われば関わるほど、知れば知るほど、惹かれていく。

 クリフさんの手をぎゅっと握り、

「ごめんなさい」

私は呟いた。

「私のせいで、面倒なことになってしまいました。
 それに……シャーマニアの人々に過剰に怖がられてしまって……」

 クリフさんはいつもの優しい瞳で私を見下ろす。先ほどの冷たい瞳が嘘のような優しい瞳だ。その瞳で見つめられると胸がとくんと音を当てる。

「怖がられるのは、気にしていない。
 エマが分かってくれるなら、それでいい」

 クリフさんは甘い声で囁いて、そっと私に身を寄せる。

「それよりも、俺は嬉しかった。
 エマが白竜王よりも俺を選んでくれて」

 その言葉に思わず声を張り上げてしまった。

「当然です!妻が六人もいる男なんて、死んでも嫌ですから」

 だが、それがこの国の慣わしなのかもしれない。実はクリフさんにも妻が多数いて、私はその存在を知らないだけかもしれない。そんなことを考えると、頭がくらくらしてくる……

 思わず頭を押さえて首を振った私を見て、クリフさんは面白そうに笑った。

「まさか、俺を奴と同類にしていないだろうな? 」

「いや……ちょっと考えてしまいました……」

 恐る恐る答える私。

「クリフさんはチャラいし、女の扱いに長けていそうだし……」

 私はきっと甘い夢を見せられているのだろう。
 よくよく考えれば、一国の王だ。愛する女性の一人や二人、いてもおかしくない……

「はぁ!? だから俺は……」

 クリフさんは顔を歪めて口を開きかけた時……

「絵麻!! 」

 聞き慣れた彼の声が背後から聞こえた。

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