全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第三章

ギャル騎士ニコラ

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 遠くで戦いの音が響くなか、私は初めて出来た竜人族の友人と話をした。人々は竜人族を高貴な種族と言うが、ニコラも至って普通の人間と変わらなかった。いや、むしろミーハーなギャルだった。

「えっ!? クリフォード様?
 ……私は無理」

 疑問に思っていたことを聞いてみると、ニコラは顔を歪めた。

「なんていうか……あの人重いじゃん。
 つがいの契約とか、普通はしないよ」

 その言葉に固まる。

「竜人族の男って重い人が多いけど、クリフォード様は群を抜いて重いわ。岩だわ。
 
 いつもエマのこと追い回しているの見て、エマも大変だなぁーって思ってたもん」

 散々な言われかたをして、クリフさんが哀れに思うほどだ。そして、竜人族の女性も私の存在を受け入れてくれていると思うと、なんだか安心した。

「クリフォード様って国王なのに結婚しないのかと思ってた。
 騎士時代から石頭で面白みがなくって、女性にも興味がなくって……

 みんなそれを知ってるから、クリフォード様を好きな女性なんていないわ」

 そんなクリフさんを軽いチャラいと言っていた私は、人を見る目がないのだろうか。……きっと、ないのである。勇輝みたいな人に、本気で惚れていたほどだから。

 そんな勇輝の話をすると、ニコラは本気で同情してくれた。そしてクリフさんと同じように、勇輝を殺してやるとまで言う。
 竜人族にとって人を殺めることは、それだけ身近なことなのかもしれない。




 そうこうしているうちに、時々傷ついた竜が戻ってくるようになった。私は彼らを必死で治療し、傷を癒やされた竜は再び大空へと舞い戻っていった。
 そうしている間にも、けたたましい竜の叫び声や打撃音、はたまたゴォォーッという風のような音が聞こえてくる。何が起こっているのか分からないが、すぐ近くで激しい戦いが繰り広げられているのは事実だった。

「クリフさんは大丈夫かなぁ……」

 私はニコラにぼやいていた。

 クリフさんは強い。そう言われても、クリフさんは王様だ。敵はクリフさんを狙うだろうし、自分の身を挺してまで仲間を助けるクリフさんだ。クリフさんを思えば思うほど、不安になってくるのであった。


 傷ついた紫色の竜の治療を終えると、次に現れたのは……

「ライアンさん……」

だった。彼は緑色の巨体でどさっと私の前に倒れる。その鱗で覆われた体からは、血が流れ出していた。

「大丈夫ですか!? 」

 彼に駆け寄り、その傷に手を当てる。すると、少しずつ血は止まり、傷口が小さくなっていく。

『エマさん……ありがとうございます』

 目を閉じる彼の息絶え絶えの声が、頭の中に響いてくる。そんなライアンさんに聞いていた。

「クリフさんは……大丈夫でしょうか……」

 しばらくライアンさんは答えなかった。その沈黙がとても恐ろしい。一秒が一時間にさえ思える。

 そしてようやく、ライアンさんが口を開いた。

『クリフォード様はご無事です。
 ですが、シャーマニアの呪術に、思いのほか圧倒されておりまして……』

「えっ……」

 勇輝の顔が思い浮かんだ。
 勇輝はシャーマンとしての能力を発揮して、シャーマニアの上層部にいるとクリフさんが言っていた。

『シャーマニアの者が、黒竜国と白竜国に妙な腕輪をばら撒いていたようなんです。

 そして、その腕輪を腕にはめてしまうと、シャーマニアの者の言うことを聞いてしまうようなんです……』

「えっ、腕輪!? 腕輪なら、私も買ってるよ!」

 ニコラは驚いて私に左腕を出す。するとそこには、いつかの露店で見た呪いの腕輪が光っていた。

 (に、ニコラ、これ買っちゃったの!? )

 驚き青ざめる私。ライアンさんは耐えきれないとでもいうように、人間の姿へと戻る。そしてずかずかとニコラに歩み寄り、その腕輪を力いっぱい引っ張った。

「何をしてるんだ!! 早くそれを外せ!! 」

 だが、腕輪はすっぽり腕に嵌って、ビクともしないのだ。すると、ニコラが苦笑いをして告げる。

「付けたら、外せなくなっちゃって」

「はぁ!!? 」

「でも、可愛いからいいやと思って……」

 その瞬間、ライアンさんはガクッと崩れ落ちた。そして、震える声でニコラに言う。

「いいや、じゃねーーーよ!! 
 呪われてるから、外れねーーーーんだよ!! 」

 いつもの冷静沈着なライアンさんと正反対のその言葉に、驚き戸惑うばかりだ。そして、ライアンさんの人格を崩壊させるほど、この腕輪は恐ろしいものだったのだ。

 ライアンさんは大きくため息をつき、俯いた。

「ここまでは、シャーマンの声が届かないから操られないのだろう。だが、戦場では違う。
 シャーマンが命令を発するたび、腕輪を付けた者と付けていない者の同士撃ちが起こっている」

「「えっ!? 」」

 私とニコラは、声を揃えて飛び上がっていた。

「それじゃあ白竜軍と黒竜軍が戦っているんじゃなくて……」

「……白竜軍も黒竜軍も、入り混じって戦っているってこと!? 」

 ライアンさんはゆっくりと頷いた。


 私はてっきり、白竜軍と黒竜軍が戦っているものだと思っていた。だが、実際は違ったのだ。呪われた腕輪を付けたものが暴走し、敵味方関係なく攻撃をしているようなのだ。

 クリフさんが腕輪の密輸を怪しんでシャーマニアへ潜入した時、私のせいで調査を続けることが出来なくなった。あの時、私がちゃんとしていれば……クリフさんは、この大惨事を止めることが出来たのかもしれない。

 (こうなったのは、私のせいだ……)



 落ち込む私に、

「ねえ、エマ」

ニコラが声をかける。私の心の内など知らないニコラは、天真爛漫な笑顔で私に頼んだ。

「エマがこの腕輪を外してみてよ?
 癒しの力を持つエマだったら、呪いに勝てるかもしれないよ? 」

 それを聞き、ライアンさんが焦っている。

「ニコラ!エマさんがそれに触れ、万が一のことがあったら……」

 だが、止められる前に、私はニコラの腕輪に触れていた。一瞬体がゾワッとしたが、次の瞬間……それはするっとニコラの腕から抜け落ちる。

 信じられない思いで手を見つめる私の横で、嬉しそうに飛び上がるニコラ。そして、ニコラはいたずらそうに笑った。

「ねえ、エマがみんなの腕輪を取っちゃえばいいんじゃない!? 」

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