全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで

湊一桜

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第三章

黒竜王と白竜王

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 ライアンさんはもちろん止めた。だが、私は止まろうとしなかった。クリフさんを、黒竜国の皆を助けたいと一心に思う。

『エマ、乗って!』

 黄色の竜に変化したニコラが、私に背中を差し出す。

「いいの!? 竜人族は、最愛の人しか背中に乗せないっていうけど……」

『それ、クリフォード様が言うんでしょ!? 』

 頭の中に響くニコラの声は、思いっきり笑っている。

『いいじゃん。私たち、友達なんだし!! 』

「ありがとう、ニコラ!」

 私は大切な竜人族の友達の背中に腕を回す。すると、黒竜よりもずっと小柄な黄竜はふわっと宙に舞い上がる。

『いくよ、エマ!! みんなの腕輪を取っちゃおう!! 』




 私たちが隠れていた場所から少し離れた場所で、竜たちが激闘を繰り広げていた。体からは衝撃波が放たれ、口からは炎を吐き、その巨体で体当たりをし合っている。

 その竜の中央に、彼はいた。彼は身を挺して仲間を守り、操られている竜を遠くに突き飛ばしている。だが、その体は傷つき、赤い血が流れていた。

 その竜の大群の中を、私たちは飛び抜けた。


「ニコラ、左の竜!! 」

『了解!! 』

 竜に変化しても、腕輪は腕に残っているようだ。その金色の煌めきめがけ、私たちは突き進む。そして素早くそれに触れ、呪いを無効化していく。

 腕輪が抜け落ちた竜は決まってはっと我に返り、辺りを見回すのだ。そして、味方同士が戦っているこの状況を、信じられないといった目で見つめている。

『エマ、あの茶色、いくよ!! 』

「お願い!!」

 小さくてすばしっこいニコラは、まるで鳥のように竜の間を飛び回る。そして狙いを定め、次々と私の前に腕輪を差し出す。ニコラに乗っている私は、ただ差し出された腕輪に触れるだけだ。

 (ありがとう、ニコラ)

 何度も何度も心の中で礼を言った。




 こうやってぶんぶん飛び回る私たちに、クリフさんが気付かないはずがない。おまけに、戦場に出てきてしまった私を見て、彼は怒り心頭だ。

『おい、何してる!! 』

 いつの間にか隣に付けられ、思いっきり睨まれた。だから私は、この喧騒の中クリフさんにまで届くよう、ありったけの声で叫ぶ。

「腕輪を無効化してるんです!
 私が触ったら、呪いが解除されるんです!! 」


 その瞬間、すさまじい白い光が放たれた。あまりの眩しさに目を閉じる私。乗っているニコラの体も大きくよろめいた。

『うぅ……大丈夫、エマ? 』

 ニコラの声が聞こえ、

「大丈夫だよ」

目を開く。そして、黒竜を確認しようと隣を見た。だが、そこに黒竜の姿はなかった。

「クリフさん!? 」

 慌てて彼を呼ぶが、返事はない。そして、背後からけたたましい竜の叫び声が響いてきた。



 咄嗟に振り向くと、背後に黒竜の姿があった。だが、その首元に白竜が噛みつき、まるで狼のように首を振っている。首元から血飛沫が舞い散った。

「ニコラ、クリフさんが死んじゃう!! 」

 私は、私を支えてくれているこの小さな黄竜に向かって叫んでいた。そして、勇敢な小さな黄竜は、もがき苦しんでいる黒竜へと向き直った。

『腕輪!』

「えっ!? 」

『白竜王、腕輪してるわ!! 』

 その言葉に耳を疑った。
 まさか……まさか、白竜王までもが、呪われた腕輪をしていただなんて!!

 白竜王の左腕を見ると、確かにそこにきらりと光る金色のものが見える。

「ニコラ、お願い!! 」

『もちろん!』

 黄竜は、自分の何倍もある白竜と黒竜へ向かって突進を始めた。その間にも白竜は黒竜の急所へ噛みつき、黒竜の動きは次第に鈍くなってくる。

 (クリフさん、死なないで!
 絶対に助けるから!! )

 突進する黄竜に気付いた白竜は、その大きな腕で黄竜を振り払った。小さな黄竜は白竜の攻撃に耐えきれず、ふっ飛ばされる。
 だが、私はその一瞬の隙を見逃さなかった。
 再び近付いた白竜の腕に飛び移り、その金色の腕輪に触れた。すると、金色の腕輪から嫌な煙が立ちのぼり、白竜の腕からするっと抜け落ちた。

「やった!! 」

 そう思うと同時に、全然「やった」ではないことに気付く。
 黄竜から白竜に飛び移った私は、空を舞う白竜の左腕に掴まっているのだ。そして、遥か下に、地面が見える。
 その地面には、血を流している黒竜と黄竜が横たわっている。

 「クリフさん!ニコラ!」

 二人の名を呼びながらも思った。

 (でも私だって、ここから落ちたら……死ぬ……)

 そう思うと、ゾゾーッと体を震えが走った。

 私は愚かだ。白竜を止めることばかり考えて、自分の身の安全確保を忘れていた。



 だが……

『乗っていいよ』

どこかで聞いたことのあるような、男性の声が頭の中に響く。

『君が僕を助けてくれたんだろう。地上に送り届けよう』

 私は白竜に捉まったまま、彼の顔を見上げる。すると彼は、その金色の瞳で私を見下ろしているのだ。

「ご……ごめんなさい。
 私、あなたに乗ることは出来ないんです」

 おずおずと告げると、白竜王は鼻で笑った。

『そうか。君はクリフォード王の最愛だったな』

 そして彼は私を腕につけたまま、横たわる黒竜の横へと舞い降りる。私は慌てて白竜から飛び降り、大好きな彼の元へと急いだ。


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